【パストビュー】エスパー系うp主の危険な配信【生小説】

押見五六三

第1話 アキツ

 鉛色に染まった靉靆あいたいな空を、トンボの群集が一面覆い尽くしていた。


 おびただしい数である。


 その群集の中から、ふと赤焼けた一匹が墜落した。


 落ちたトンボは地上で暫く英気を養い、再び仲間が待つ空に向かって飛立とうとしたが――


 出来ない。


 幾度となくチャレンジするが――


 飛べない。


 それもそのはず、トンボにははねが無かった。


 いや、先程まで飛び回っていたのだから、はねは有った筈だが……


 飛べないトンボの元に、ゆっくり影が近づく。


「流石です。オカミ……」


「どうした?何か有ったのか?」


 トンボが埋め尽くす空の下には、花穂をつけたススキの草原が広がり、その一角に少しだけ開けた場所が有った。

 そこに、二つの影が映っている。

 恐らく人影であろう。

 確証はない。


 一人は翡翠ヒスイ玉の首飾りをした少女。

 手には装飾された刀子とうすを握っている。


 もう一人は少年と思われる。

 ただ、背丈は少女よりも遥かに小さい。

 その姿はどこか朧気おぼろげだ。


「あのことを探る者がおります」


「何?!何処いずこの国の者だ?」


日本にほん


「ニホン?」


「あ、いえ。未来ゆくすえで御座います」


「……未来ゆくすえか」


「……はい」


 小さな男の影が動く。


 手を伸ばし、先程の飛べなくなったトンボの尻尾を指で摘んだ。


 トンボは体を丸め、逃げようとするが――


 男の影は、そのままトンボを口元まで運ぶと、大口を開けてパクリと食らいつき、ゆっくりゆっくり咀嚼しだした。


「お前に託す」


「グクッ、かしこまりました」


 男は口の中の物を飲み込むと、喉を鳴らしながら了諾する。


 少女はその様子を気に留める風もなく、両手で刀子とうすを翳しながら、遥か上空をゆっくり見遣みやった。


 上空は、いつの間にか晴れ上がり、トンボの数が激減している。


 代わりにススキの原は、細切れに成ったトンボの死骸で埋め尽くされ、真っ赤に染まっていた。


 まるで血飛沫のように……

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