Mission 3
第八話 政界の黒幕 その一
アイリーンの父親の亡命は無事成功した。今彼らは某所で秘密裏に保護されている。
後日談となるが、仮想敵国Cとの外交交渉の結果、問題のスマホアプリを提供していた企業は日本から完全撤退。代わりにわが国は世界中への事実公表を見送ることになった。あの時拘束したメンバーも記憶消去の上、先方へ強制送還された。
アイリーン、あなたも幸せになってね⋯⋯。妹のように感じていたからか、私も少し感傷的になっているようだ。
◆◆◆
そんなある日、私はオモテの顔である『Shiba-Inu』編集部の上司である編集長に呼び出された。彼女は私の苦手な女性でもある。
「高野、久しぶりだな」
編集長が嫌味を言ってくる。
「えぇ、このところ取材が立て込んでおりまして」
私たち編集者はライターを兼務しているので、取材で飛び回ることが多い。そのため、私のようにウラの顔を持つ人間には都合が良い職業なのだ。
「まぁ親族の法事でと言わないのは感心だ。ところでお前に仕事の依頼だ。それも先方から直接のご指名だ」
うーん、やっぱり編集長は皮肉屋さんだわ。でも個人を指名するお仕事とは珍しいわね。
「この資料を見てくれ。今回の取材テーマは政界の重鎮が飼う日本犬特集だ」
編集長が資料を手渡す。何だか難しそうな取材対象だ。
「昔から政治家は日本犬好きと言われているだろう? 日々多忙な政治家が日本犬に癒され、日本の政治の舵取りをしているのだということを読者にも知らせたいんだ」
「なるほど⋯⋯編集長にしてはまともなお話ですね」
「そこで今回与党の事務局に申し入れしたところ、びっくりするほどスムーズに快諾いただけたよ」
「へぇー、凄いじゃないですか! それで取材対象はどなたなのですか?」
「聞いて驚くなよ。あの政界の重鎮と言われる麦丸代議士だ」
えっ、麦丸代議士‼︎ あの政界の
「おまけに先方はShiba-Inuを定期講読されていて、過去の記事を読んでお前の取材を受けたいって言ってきているんだ。どうだ、凄いだろ」
「たしかに⋯⋯」
少々怪しいが、否定出来るほどの根拠はない。
「それで悪いんだが、お前には来週末に麦丸代議士のご自宅を訪問してもらいたい。これは業務命令だぞ。いいな、必ず行ってこい!」
「承知しました。高野美咲、必ず取材に行ってまいります!」
私の記事が評価されたと言うのであれば、悪い気はしない。私は今回の取材を即答で受け入れた。
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