Mission 1

第一話 隷従させるための拘束首輪 その一

 緑の丘を訪れてから一年。私はターゲットである柴犬ももを使い魔にするための手段を念入りに考え、着々と準備を進めてきた。


 相変わらず対象(柴犬もも)はキャンプ場での人命救助などで活躍しているようだが、私は調査対象を飼い主である新田陸と幼馴染である大和田陽菜の二人に絞った。その結果、昨年末に二人が恋人同士になっていることが判明していた。今後二人は一緒に行動する機会が増えるだろう。


 さらに二人が地元で開催されるユリノキつつじ祭りを毎年訪れているという情報を入手した私はすぐに行動を開始。まずはゴールデンウイーク初日の会場で開催されるフリーマーケットに出店登録し、幼馴染の陽菜が好きなカントリー雑貨を並べることで、二人をお店に誘導することにした。


 そこで重要となるのが私の得意な魔法の一つである、能力。これは男女、年齢、背格好問わず、変身することが出来るのだ。やろうと思えばテレビの魔女っ子になることも可能だが、今では恥ずかしくて出来ない。


 そして……肝心のターゲットを私の使い魔にするための道具。一見アンティークなただの首輪に見えるのだが、実は違う。これを装着した動物は私の命令に従わざるを得なくなる……つまりターゲットを隷従させるための拘束魔法がかかった首輪だ。そのため一度装着してしまうと私の魔法の鍵がない限り、外すことは不可能だ。


 ふふふ、待ってなさい、もも。必ずあなたを私の使い魔にしてみせるわ!


◆◆◆


 そしてゴールデンウイーク初日の緑の丘。

 私の思惑通り、ターゲットと新田陸と大和田陽菜の二人+新田結衣(陸の妹)はユリノキつつじ祭りの会場を訪れていた。


 私は以前飼い主に『Shiba-Inu』編集部員としての自分の正体を知られているため、今日は中年のおじさん姿に変身している。これならまず見破れないだろう。


 ターゲットたちは最初飲食の模擬店をはしごしていたようだが、和太鼓の演奏が始まったあたりでようやくフリーマーケット会場へと近づいてきた。カントリー雑貨に興味がある大和田陽菜はその手の商品を中心にチェックしているようだ。

 そしていよいよ私のお店の前に……。

 

「ねぇ、陸。この首輪ってももちゃんに似合わないかな?」


 店頭に置いてあるアンティークなペット用首輪を彼女が見つけた。この首輪には念には念を入れての魔法も仕込んであるので、当然彼女はこの首輪に魅了されたようだ。


「へぇ、どれどれ……」

 吸い込まれるように新田陸も一緒に座り込む。

 

「おいくらですか?」

 大和田陽菜が聞いてくる。


 元々他の人間に売る気が無いので値札は出していない。何人か魅了の魔法の影響でこの首輪を欲しがる者もいたが、法外な値段を伝えて、諦めてもらった。


「うーん、これは千円だな」

 お店のおじさん(に変身した私)が金額を伝える。

 二人は少し考えている。中学二年生にとっては少し高めだったか?


「えーっ、もう少し何とかなりませんか?」

 新田陸が食い下がる。


「そう言われてもこれはアンティークな品物だからなぁ。七百五十円でどうだ」

「「もう一声!」」

「分かった分かった、特別におまけして五百円でいいよ」

 おじさん(に変身した私)は必死に食い下がる二人に根負けしたように演技する。


「「ありがとう、おじさん。じゃあ、これください!」」

 二人は良い買い物が出来たとホクホク顔だ。


 いえいえ、こちらこそどうもありがとう。私も目的が果たせて嬉しいわ。


「よしっ、もも。首輪を取り換えるから動くなよ」


 さっそく新田陸が柴犬ももの首にフィットするかどうかを試すようだ。ももは抱っこされて大人しくしている。しかし拘束首輪を装着された瞬間、ももは一瞬ぞくっと震えて驚いた顔になる。


 うふふ、大成功だわ! 

 この時の私は自分の成功を信じて疑わなかった。

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