27 血闘、開始

 どうにか間に合ったようだった。


 見た感じ、レナもジークリンデもターニャ先輩も、アーベルに何かされた様子はない。


 ……もっとも、俺があと少し遅れたら、おそらくは三人ともこいつに凌辱されていただろうが。


 本当に、間一髪だった。


「ミゼルぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 アーベルが俺を見て絶叫する。


 びりっ……びりびりびりっ……!


 怒りの咆哮が床を、壁を、天井を激しく震わせる。


「いいかげんに、ここで終わりにしてやる」


 俺は奴を冷ややかに見据えた。


 奴がまとう黒い甲冑は、さっきとデザインが変わっていた。

 ナーグと同じく狼の仮面をつけ、さらに鎧自体も各所が不気味に隆起していた。


 威圧感が違うし、当然性能も上がっていることだろう。

 だけど──。


「ガストンが言っていたな。その神器はもともとクラスC相当だと」


 ならば、俺の敵じゃない。


 そう思った瞬間、


「がああっ!」


 アーベルが飛びかかった。


 すさまじい速力は、ガストンに匹敵するほどだ。


 こいつ、さっきまでより数段速い──!

 俺に近いスピードだ。


 まさか、こいつも『次なる段階』に達しているのか?

 あるいは鎧自体に、さらなる特性が隠されているのか。


 どちらにせよ、奴の運動能力が大幅に上がっていることは確かだ。


「ちいっ……」


 繰り出された稲妻のような突きを、俺はヴェルザーレの柄で受けた。


 ぎぎぎぃっ、と金属同士が擦れる音。

 火花を散らしながら、俺は奴の攻撃を受けた状態のままで踏ん張った。


「くっ……!」


 押し返せない。


 それどころか──ジリジリと押しこまれる。


 パワーでは、奴の方が上なのか……!?


 俺はさっきの戦いで『次なる段階』とやらに至ったのだと思っていた。

 それによって神器の能力が押し上げられている、と。


 だが、今の感触だと『死神の黒衣』はクラスB相当の能力しか発揮していないように思える。


「……まだ安定していない、ということか」


 ならば、俺とアーベルの運動能力は神器のブースト込みだと大差ないだろう。


 どう攻略するか──。






***

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