6 黒の超戦士6


「逃げろ、レナ」


 俺は彼女に指示した。


 今まではアーベルとナーグに前後を挟まれていたため、彼女を逃がすことができなかった。

 が、ナーグを殺したことで、逃げ道が生まれた。


 アーベルとの戦いに関しても、すでに勝負はついたも同然だ。

 だが、実戦では何が起きるか分からないし、彼女が巻き添えを食わないとも限らない。


「でも、ミゼルくん──」

「早く」


 有無を言わせず、俺は彼女に再度指示した。


「……分かった。あたし、先生に報告してくるね。ミゼルくんも無茶だけはしないで……」


 言って走り出すレナ。


 俺はその後ろ姿を確認しつつ、アーベルから注意を逸らさない。

 そのアーベルは青ざめた顔で後ずさっていた。


「くそ、鎧がおかしい……こんなこと……!」


 灰色に変色した鎧を見下ろし、うめいた。


 あの鎧の特性は、おそらく二つ。


 一つは、俺の『黒衣』と同じく装着者の運動能力を増幅させること。

 もう一つは、驚異的な再生能力だ。


 そう、頭を吹っ飛ばされてもなお、鎧がその機能を補い、継戦能力を維持させるほどの。

 だが、それらの特性はヴェルザーレによって破壊された。


 今のアーベルは人間の限界を超えた運動能力も、再生能力も持たない、ただの一般人。

 学内ランキングトップ5の腕前は健在かもしれないが、しょせん『死神の黒衣』をまとう俺の敵じゃない。


「終わりだな、アーベル」


 俺は槌を手に近づいた。


「ひ、ひいっ、助けて……」

「お前は俺を殺す気でかかってきた。なら、逆に殺される立場になっても文句は言えないはずだ」

「ひいいいいい……殺さないでぇ……」


 アーベルの顔は青色を通り越して土気色になっていた。


 股間が濡れているのが分かる。

 恐怖のあまり失禁したらしい。


「助けてください……お願いしますぅぅ……」


 憐みさえ覚える、情けない態度。


 ……許してやるつもりはないが。


 放置すれば、こいつはまた人を傷つける。

 未遂に終わっただけで、こいつは殺人を実行しようとした。


 ゆえに──断罪する。


「そう簡単にはいきませんよ」


 ふいに、背後から声が響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る