第624話 怒羅
ゲンブ。
その巨大な背に乗って現れたゴクウ。
そのゴクウと肩を並べるようにして、まだ見たことのない存在が姿を見せる。
そして、その二人は姿を見せただけで明らかに別格であるとアースもすぐに実感。
醸し出す雰囲気。
佇まい。
何よりも……
『ゴクウ、ゲンブ……『ツウ』に……『タツミヤ』まで出て来たか……』
「ち、あの鳥女……そして……奴まで」
トレイナとヤミディレの反応を見るだけで十分伝わってくるというものだった。
「新しい方が二人もいます……あの方々もお母さんのお知合いですか?」
「なーんか、タダ者じゃないって感じだね。お兄ちゃん、気をつけてね」
「誰であろうと、僕のお兄さんの前に立ちはだかるなら、全て僕が狩るけどね」
「んぁ……なんか僕……ゾゾって寒気がするのん……」
それは当然、クロンもエスピもスレイヤも、ヒルアですらも只事ではない雰囲気を感じ取っている様子。
そして、ヤミディレは苦々しい表情を浮かべながら頷く。
「あの白い鳥女も面倒ですが、何よりも面倒なのはあの男……海神の息子にして、かつてはカグヤ、ワタベと共にバサラと死闘の日々を繰り広げたり、大魔王様の手を煩わせたりと……しかし、後に深海のいざこざで封印されたと聞いたが……」
「……うーわ……最近、そういう伝説ばかりだな。ほんと、お腹いっぱいだって俺は言ってるんだけどな」
案の定、ヤミディレの口から出てきた豪華な名前。
アースはソレに驚愕するよりは「やっぱそういうのか」と、どこか納得と呆れたように笑った。
「さ~て……スーパースターのあんちゃん……人の妹やらダチを随分と好き勝手にド突いてくれたやないか」
「「「「ッッ!!??」」」」
「おまけに……鯨の中でもワイらの仲間を無残にしとるし」
そして、次の瞬間には全身に悪寒が走るほどの圧。
タツミヤと呼ばれた男が、ただの一睨みと言葉だけで、アースたちは完全臨戦態勢に入った。
そして、ファイティングポーズを取ったまま、アースは引きつりながらも笑みを浮かべた。
「おいおい、先に手を出してきたのはそっちだろ? 大体、あんた……このお姫様の兄貴みたいだけど、ここまでひどくやったのは、ヤミディレだろ?」
「せやけど、オドレとそこのクロンって嬢ちゃんが結婚したら、ヤミディレはオドレのオカンやろ? 身内がやってくれたことには変わらんやろ?」
「いや……それは先走りというか……つか、鯨の中にしたって、俺は確かに身にかかる火の粉を払ったものの、そこまでひどくはしてねーと思うけど……」
「いーや、オドレだけの話やない……オドレの子分のことや」
「……なに?」
ヤミディレのことだけではない。
その「子分」というものがアースにはよく分からなかった。
だが、どちらにせよ、
「愛する可愛い妹や大切な仲間がしばかれた……こらぁ、大将同士でケジメつけなアカンやないか? オドレも兄貴分ならその気持ちは分かるやろ?」
散々、妹のオツを叱責したというのに、ここにきて家族だの子分だのと口にするタツミヤに対し、そういうのは建前だというのだけはアースにも分かった。
何故なら……
「建前や御託を並べやかって……よく分かんねーけど……闘志ギラギラじゃねえかよ。結局、単純に俺とヤリ合いたいってことだけがスゲー伝わってくるんだけどな」
「おっ♪」
そう、結局どんな事情を口で言ったところで関係ない。
タツミヤはワビだのナシだの口にしても、こうしてアースと目の前に向かい合っただけで、その内なる闘争本能が先ほどから滲み出ているのだ。
「ええやん……それを分かりつつ笑っとるアホは……バサラぐらいやったなぁ。トレイナもハクキも迷惑そうに溜息吐くやつらやったから」
「おいおい、例として出される名前が豪華すぎるじゃねえか」
そう言って、タツミヤは握りこぶしを掲げて牙をむき出しにする。
その闘志が更にプレッシャーとなって場に吹き荒れる。
「言うとくけど、ワイはジャポーネでオドレとゴクウがやらかしとった、小細工だらけのガキの鬼ごっこにゃ興味ないで? ワイが興味あるのは、この世に生まれた雄なら誰もが惚れてまうようなド突き合いをゴウダと繰り広げとったオドレやで?」
更には、明らかに「圧倒的に強い」と分かる存在感を放ちながらも、戦い方に要求までしてくるという身勝手ぶり。
「おいお~い、『タッちゃん』! 俺様とアースのあの攻防を小細工とかヒデーじゃねえか! アレは本当にスリル溢れる、スピードと技術と戦略の攻防で奥が深いんだぜぇ!」
鑑賞会で知ったと思われる、アースとゴクウのジャポーネでの一芝居。それを小細工と断じることに、ゴクウも黙ってはいない。
だが、それでもどこか楽しそうに笑っている。
それは、これから始まろうとしているものを楽しみにしているからである。
「くだらん……おい、アース・ラガン。応じるな。エスピ、スレイヤ、一斉にこやつを始末するぞ? クロン様のためにも、こんな野蛮な脳筋バカどもと付き合うことなど―――」
「いや~……なーんか、そういうわけにもいかなそうなんだよなぁ」
ヤミディレが冷たく発言。しかし、アースもそうしたいところではあるものの、それを許されない立場だと苦笑した。
「さっきから、ゴクウがこっちをワクワクした感じで見てるし……ソレに……」
アースが傍らをチラリと見る。
その存在は、触れられないが、その手をアースの背に添えて押し出すような動作を見せた。
「もう分かってんだろ? あんたも、俺の傍にいる誰かさんを……」
「むっ……」
「俺の背中を押し出すんだよ、そいつがよぉ! そして、見せつけてやれってよぉ!」
「ッ!?」
もっとも最優先すべき存在に、アースは押し出されて走り出し、ゲンブの背に飛び乗って、タツミヤに向かう。
『そうだ、行ってこい、童ッ!』
策も何もない正面衝突。
ただし、
「ま、身に着けた技は使わせてもらうが、ソレを小細工と言いたいなら勝手に言えばいい! 俺は使うッ!」
純粋な殴り合いなどをするつもりはない。
ただ、持てる力はぶちまける。
「はっ、小細工ゆうんは戦略の話! 策もなく、気持ちが正面衝突なら、そいつは小細工抜きゆうことや!」
タツミヤも応えるかのようにゲンブの背を走る。
その禍々しい竜の腕を振り上げ、体をひねり、ただの子供の喧嘩のように力任せに振り抜くだけ。
右の一撃。
「ぐしゃぐしゃになっても恨むなやぁ! 大いなる海すら吹き飛ばす、ワイのぉ! 大破海―――」
ただ、右腕を振るうだけで、まるで大津波、大竜巻が起こったかのように場が大きく荒れ狂う―――――が
「―――俺は、星すら穿つッ!」
「ッ!?」
「言っとくけど、この技は俺でもまだ扱いきれねえ……後悔したくなけりゃ、マジで避けろよな!」
「はっ! 押すな押すな言うて押すのと同じ……つまり、避けるないうことやな!」
アースが新たに身に着けた、進化した力。
膨大な魔力を極限まで圧縮して放つ、超新星―――
「恒星大魔螺旋ッ!!」
ゴドラを葬ったアースの新必殺。
そのあまりの破壊力に、一度使っただけでアースだけでなく周囲も「やり過ぎ」というほどの威力だった。
しかし、アースは本能的に分かっていた。
――この男は、これを使う相手だ
と。
そして……
「タッちゃん!」
「アース!」
「お兄ちゃん!」
両者の正面衝突で、さらに激しくなる天変地異。
「ぬお、こ、おぉ、おお! おおお、何やこれぇ!」
ぶつかり合う螺旋と竜の腕。
その衝撃の中で、タツミヤは……
「シャレにならん! 笑えへんぐらい、えげつなさ過ぎて、逆に笑えるわぁ!」
笑った。
「ぶっとべぇええええええ!」
そして、次の瞬間にはタツミヤが笑う中、アースの螺旋が押し切り、タツミヤの右腕が『肩まで』消し飛んだ。
「まさか、兄上がッ!?」
「な、なんとぉ! 王子が押し負けたカメ!」
「や、ヤベぇ……アースの奴! ウキーッ!」
「これほどとは……」
その瞬間、オツも、ゲンブも、ゴクウも、そしてツウという女も驚愕し……
「これが、昨日の!」
「す、すごすぎます、アース!」
「やっぱ、お兄ちゃんのアレ、ヤバ過ぎ!」
「今のお兄さんに、誰だろうと敵うものか!」
「んあぁ! おにーちゃん、つよつよなのん!」
ヤミディレもクロンも、エスピもスレイヤもヒルアも歓喜し……
「どうだぁ、これが俺の―――――」
アースが自分の勝利を吼えた瞬間―――
「怒羅ァァ亜亜亜亜亜!!!!」
「おぶッ!?」
まったく無防備となっていたアースの顔面に、タツミヤの左の拳が深々と突き刺さった。
「――確かにありえへん『技』や……ワタベやカグヤよりも……せやけど、ワイがド突き合いしに来たんは……ビックリ一撃必殺使う男やない! ワイが鑑賞会で惚れたオドレは―――」
飛び込み、砕き、勝利を確信した瞬間に叩き込まれた予想外の強烈なカウンター気味の一打。
アースは痛みより、自分の身に何が起こったのかすら一瞬分からず、混乱と衝撃の中で意識が飛びかけていた―――
――あとがき――
【【お知らせ】】
先日告知させていただいたように、拙作の別作品が発売されました!
『ループした悪役かませ炎使いが真面目に生きたら女勇者パーティー全員が痴女になってしまい世界はピンチ!?』
https://www.takeshobo.co.jp/sp/tvn/content/9784801940604/index.html
上記特設サイトを是非に!!!!
ちなみに、書籍一巻発売にあたり、編集から言われたのは「エロが足りません。エロの大幅加筆をお願いします」と言われて、一巻の半分は『書き下ろしエロ』に費やしてしまいました。
つまり、書籍一巻は書き下ろし上品満載になってます……
是非に上品紳士な皆さま、よろしくお願い致します~~~♥♥♥
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