第614話 忍び寄る恐怖

「昨日はゆっくり御挨拶もできませんでしたが……改めてご結婚おめでとうございます、子供も三人もとは……」

「お、おお~、いやぁ、こう、昔のあたいを知ってる奴に言われると照れるぜぇ~。ま、ありがとな、ラル」


 ナンゴークの地。マルハーゲン一家の家にて、かつて魔王軍にて同じ六覇ノジャ軍所属という関係だったショジョヴィーチとラルウァイフ。


「わぁ~、素敵だなぁ……人間同士とか魔族同士とかじゃなくて……種族の壁を越えて結婚……わぁ~、素敵だなぁ♥」


 昼食に女神のカリーのお届けということで、ラルとアミクス、そして……


「ふふ、幸せな家庭生活……そしてこんな可愛い小鳥たちまで居て……ふふふふ、種族の壁を超越した結婚か……とても素晴らしいことではないか」

「……ぽぉ~……はっ、この人は女性この人は女性……」

「ど、どきどきする……」

「島のザコザコな男の子と違う……」

「いや、あの、天空王子殿……あまり人の娘に色目を使わないで欲しいのだが……」


 二人の付き添いということで、ガアルも一緒に来ており、三姉妹の長女のセイソヴィーチ、次女のピュアヴィーチ、三女のロウリヴィーチに近い距離で微笑を見せていた。

 さらに……

 


「そうそう、死んだと思ってたら、結婚して、さらには三人も……三人も……うがあああああ、悪かったなぁぁ、わっちはいつまでも独り身でよぉぉぉ!! つーか、男女の比率おかしい! 王子、テメエは本当に股にプラプラついてねえのかぁ!?」


「あ、いや、落ち着かれよ、ドクシングル様」


「ほんっと、マジで暴れんの勘弁してくださいっすよぉ! ほら、カリーでも食って落ち着いて」


 

 昨晩から泊まり込んでいた、鬼天烈の一人であるドクシングルがその場にいた。

 それは、ある意味で、旧・魔王軍の女たちによる同窓会に、アミクスと王子と三姉妹も同席するという奇妙な女子会のようなものだった。


「うるせええ、つうか、ラルウァイフ! お前、アカを幸せにしなかったらマジで殺すかんな! なんかアオニーのアレ見て、わっちも色々と責任感じちまってんだからよぉ!」

「はうっ!?」

「あっ、それはそうだぜぇ、ラル!」

「そうだよぉ、ラル先生! いつまでもウジウジ禁止だよ?」

「ふふふ、ソレに関しては天空族も総出で応援するつもりだよ」

「私たちも鑑賞会ですっかり感情移入ですから」

「ほんとそれ。すぐ追いかけてぇ、チューとかして、ハグして、そそそそ、それから」

「ザコザコなヘタレはだめだよ?」


 一同は、女神のカリーを食べながら盛り上がっていた。

 ただ、そんな中で……


「あ~……その、こんな状況下で申し訳ないのだが……ドクシングルよ……」

「んだぁ? 丸ハゲジジイ。わっちの上腕二頭筋に惚れて浮気か? 内緒だぞ?」

「違うわい! いや、それはシャレにならんからやめてほしいぞ!」


 唯一の男で肩身の狭いマルハーゲン。本当はこのまま隅っこで大人しく静かにしておきたいという気持ちもあったのだが、もと連合軍の戦士だったこともあって、どうしても気になることがあった。


「昨晩は助けてもらったこともあったし、タイミングを逃して聞くことができなかったが……お前は今でもハクキの部下ということだが―――」

「………………」


 それは、本当に空気を壊す、空気の読めない問だった。


「お父さん、今はそんな話……」

「ほんっと、空気読めない」

「だからお父さんはザコザコなんだよー」


 それは実の娘たちからも非難の目を向けるほどのもの。だが、それでもこの場に居る唯一の人間であり、かつてハクキたち魔王軍と戦った連合軍の一員だったものとして、どうしてもそれは確認しなくてはならないことだった。

 何故なら、相手は六覇最強のハクキが率いる最強の軍団の中でもトップクラスの実力を持つ鬼。

 ましてや、ハクキ自体は終戦に納得せずに表舞台から姿を消した存在。この十数年間大人しかったとしても、気にしないわけにはいかない存在である。


「定期的には連絡とってるし、何かあった時のために準備はしてる……ってとこだけど、まだ何もしてねーわけだけどワリーか?」

「……一応、ハクキは世界最高額の賞金首であり……まぁ、それを言うならヤミディレも―――」

「ダーリン、マジで殴るぞォ! ヤミディレ大将軍は無罪だ!」

「そなたはまだそのようなことを!」

「おじさん、それ酷いよぉ! クロンちゃんとアース様が黙ってないよ!」

「やれやれ、随分と器が……」

「お父さん、今のは許せません!」

「ったく、情けな~」

「ほんっと、小心者のザコザコ」


 が、ドクシングルは仮にも恩人でもあり、しかもその会話の流れでヤミディレの名まで口にしたもので、家族からもマルハーゲンは強烈なブーイングを受けてしまうことになり、流石にマルハーゲンもシュンとしてしまった。

 ただ、そんな中でドクシングルは……



「ぶっちゃけ、ハクキの大将はわっちらに対しては『好きなようにしろ』って感じで、仮に今後どでかいことをやるために招集したとしても、それはそのときの気分で決めてもいいって感じでさ……だからわっちらも、あんま残党軍って感じでもねーから好き勝手しててよ……真面目なテングと戦闘狂のヤシュラは強くなるために自分磨きって感じで……わっちは筋トレぐらいしかしてなかったな~」


「「「「「「(やっぱり筋トレはしてるんだ……)」」」」」


「で、一応公式的にはわっちも生死不明の行方不明ってことになってるから、あんまり目立たないように魔界の奥深くに入って婚活喧嘩三昧で……ウガア嗚呼嗚呼ア、成果なかったよコンチクショウッ!」


 

 重要な話をするはずが、どうもドクシングル相手ではうまくいかず、そして他の女性陣の非難の目もあってどうすればいいかと頭を抱えるマルハーゲン。

 すると、その時だった。



「んお? なんか、反応……噂をすればか?」


「「「「「????」」」」」



 ドクシングルが何かに気づいた様子。すると徐に衣服の中を弄り出し、何かを取り出した。

 それは、魔水晶。


「もしもーし、わっちだけど? 独身だけど、稼ぐし家事もするし、子作りメッチャ頑張るしどう? わっちと結婚しね? わっちのアソコの締め付けはきっと―――」


 通信用の魔水晶。誰かからか通信が入ったため、ドクシングルは特に気にする様子もなく堂々と出た。

 すると……



『あはは~、やっとつながった~……でも、結婚お断り~、年上からの逆セクハラは親分に報告しちゃいますよ~? ハクキ軍は時代遅れのセクハラブラック軍だって~、ジェンダー意識が足りませんって~』


「ッ?! ……テメエ……レンラクキ」


『あっ、どうも~、オバ……鬼姫先輩お疲れちゃ~んっていうか~、もう世間話めんどくさいんで用件だけ言いますよ~」



 魔水晶の向こうで映し出されたのはレンラクキ。

 その鬼のことをこの場にいる誰も知らない。

 だが、その頭部に伸びる角と、ドクシングルの様子からも、相手はオーガなのだということは分かる。

 そして、レンラクキはレンラクキでドクシングルの周囲に人がいることを分かっていないのか……



『ハクキ親分の伝言で~、今度の満月~っていうかもう明日なんですけど~、テロっちゃおうぜっていう話になりまして~』


「テロっちゃう?」


『そ、夕食前にディパーチャー帝国の帝都を襲撃するから、全員来れる人だけ現地集合でよろしくってことです~」


「……は? 帝国ぅ? あ、明日ぁ?! いや、え、いきなりすぎんだろ、なんで!?」


『そ、本当は『次の満月』って親分もキリっとした顔で言ってたんだけど、よくよく考えたら次の満月はもう明日じゃん、ってなって、でももうみんなにそう宣言しちゃって引っ込みつかなくなったとかってことで、参加者微妙に少ないけど、まっいいかってなったとか~。親分もお茶目だよねぇ」


「「「「「はっっっ?????」」」」」

 


 本来ならトップシークレットでもあるテロ計画を、他人も聞いている場であっさりと口にしてしまったのだった。












「ふわふわ一本釣りいィいいいい!!!!」


 海中から飛び出した避難艇。

 何かの力に引っ張られるように海上へ出て、それどころか空まで飛んでいる。

 窓から外を見て、アースたちはその原因がすぐに分かった。


「おお、……お、おお?」

「まあ! お母さんが……お、お母さん?」


 空には浮かぶ三人。それは、アースもクロンもよく知る三人……のはずなのだが……


「んあァ~!? なんか、めちゃんここわいのよぉ! こわいのこわいのこわいのよぉん!」


 その三人の形相。溢れ出る殺気、怒り、威圧感。

 もはやそれは自分たちの普段知る家族とかけ離れた恐ろしいものであり、そして三人とも禍々しい病んだ瞳をしており、その恐ろしさにヒルアは泣き出してしまった。


――これは……引っ張られ……なんという強大な力?!


 アースたちの乗った艇を追う形で、海上に浮かび上がるバカでかい黒い物体。

 それこそアースたちを飲み込んだ鯨そのもの。


「って、うお! アレまで追いかけてきた!?」

『いや、アレは強制的に釣り上げられたな……エスピによって』

「ッ!?」


 ジャポーネでの戦いで、巨大なゴドラをその能力で持ち運びを成し遂げたエスピ。

 その力は、もはや別次元に達していた。


――このままでは……指示はないけれど、迎撃する! 砲撃用意


 そんな釣り上げられる鯨だが、そのとき異変が起こった。

 鯨の背中から巨大な砲台のようなものが現れたのである。

 だが……


「よくも僕のお兄さんを攫ってくれたね……よくも!」


 そんな鯨の変形に構わず、エスピの肩に捕まって宙に浮いた状態の病んだ瞳のスレイヤが両手を天に翳す。

 そして現れたのは、巨大な銛。


「デケぇ! スレイヤのやつアレを……」

「うわぁ……すごいです……私とアースの力を合わせた大魔螺旋のように……」

「あんなのぶっ刺されたらお腹貫いちゃうのん!?」


 ソレを鯨に穿つ気である。

 もはや唖然とするしかないアースとクロンとヒルア。


「寄ってたかって僕のお兄さんを……ユルサナイ!」

「やっちゃえ、スレイヤくん!」


 そして、二人は叫ぶ。


「「どいて、お兄さん(お兄ちゃん)! そいつぶっ飛ばせない!!」」


 次の瞬間、エスピは能力でスレイヤを銛ごと鯨へ飛ばす。

 スレイヤは具現化した超巨大な銛を振りかぶり、エスピの能力で加速したまま鯨へ突っ込む。



海衣無縫かいいむほう海神竜滅殺リヴァイアサンスレイヤー



 ソレを勢いよく鯨の背中に出現した砲台に突き立てた。

 突き刺さった。

 貫いた。 

 砕いてしまった。


――バカな、主砲が……この力!? これ程の力が!? 人間が……


 感情があるのか、鯨の瞳は明らかに動揺しているように見え、海から浮かんでいるそのずぶ濡れの全身は脂汗を掻いているようにも見える。

 そんな鯨に対し……



「懐かしむことも雑談もせんが一つだけ……鯨は目が見えるのだったな……」


――ッ?!


「しかし、その巨大な目……と言っても、その図体からすれば小さすぎる目……まさに節穴か?」



 強烈だったり目立つ技を使うエスピとスレイヤに気を取られていた鯨には、自分の目元のすぐそばにいたヤミディレに反応するのが遅れた。

 たとえ、魔法や魔眼を封じられていても、その背の翼、体の使い方、武器の使い方、そして歴戦によって積み上げてきた経験値をもってすれば……



――ッッッ!!!!????


「いらんな……そんな瞳は」



 エスピとスレイヤに気を取られた鯨の隙を突き、スレイヤの能力で造鉄されたランスを所持していたと思われるヤミディレは、ソレを鯨の眼球に突き刺し、抉った。






――あとがき――

おら、油断したなぁ? 


で、


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