第590話 怪物同士

 巨大な亀。

 労働者たちが血相変えて騒いでいたもの。

 一体何かとブロたちが海を見ると、たしかにそこには……


「なんだぁ、ありゃあぁ!? おいおいおいおい、マジかよぉ! どーなってんだ、ありゃぁよう!」

「で、でっかいのん!? なんか、おとーちゃんぐらいでっかいのん!?」


 巨大な二足歩行の亀……と思われる怪物が、建設現場から橋を繋ごうとしているナンゴークの島の前に立っていた。

 そして、その巨大な亀の腕が、足が、そして尾の攻撃が、ナンゴークの島に被害を与えているのが見える。

 島からは救援を要請する鐘が鳴り響いている。

 それを聞き、ヒルアの背に跨るブロ。

 そして……


「ゲンブ……バカな……本物……だというのか……ゲンブ……生きて……いたのか」


 ヒルアの隣で飛行しながら顔を青ざめさせているヤミディレ。

 そして……



「ッ、クロン様、ここは一旦引きましょう。相手が悪い。ヒルア。ブロ、ここは――――」


「いいえ、お母さん。あの亀さんが何者かは知りませんが、あそこにはショジョヴィーチさん、マルハーゲンさん、お友達になったセイソたちだって心配です! 助けに行かなくてはダメです!」


「しかし、相手は……アレは手に余ります。私が力を封印されているのとは無関係に……アレは……」


「ならば、なおさら友達を助けに行かなくてはダメです!」



 同じくブロと同じようにヒルアに跨るクロン。

 そう、クロンたちは突然のナンゴークの危機に駆け付けようとしていた。

 そのナンゴークに現れた怪物に半信半疑ながらもクロンたちを止めようとするヤミディレだが、クロンは止まらない。

 さらに……


「無駄っすよ、師範。妹分は滾っちまってら。鑑賞会で熱くなっちまったんだろうし……」


 そう、友達を助けるため、助けを求めているのなら助けに行かなくてはならない。

 それは本心からの想いと同時に、ブロの言う通りアースの鑑賞会を見続けたことで看過しているというのがあった。

 一方でヤミディレは……


「馬鹿を言うな、ブロ! クロン様も落ち着いてください! カバ、引き返せ! アレがもし本物だとしたら……かつて、私たち六覇と遥か昔から潰し合っていた伝説の……」


 出現したソレの強さを知っている。

 だからこそ、「相手が悪い」とクロンたちを止めようと声を荒げる。

 ただ……



「オラぁぁぁぁぁぁあ、ぶっ殺すぞオゴらぁ嗚呼ああ、ごの亀あたまがぁぁぁあ! イイ男紹介すりゃぁあ命は助ける! 拒否なら潰すぅう~にゃんにゃん♥」


「「「「…………?」」」」



 あまりにも乱暴極まりない、しかし何故か最後だけあざとい、女の声が響いた。

 それと同時に巨大な亀の身体が何かの衝撃を受けたかのように「揺らいだ」のだ。

 何事かとクロンたちが驚くと、島に近づくにつれて、少し予想外の光景が目に入ってきた。

 

「あら?」

「……これは……」

「なんか、あのデッカイのに誰か立ち向かってるのん!」

「……戦っているのか?」


 そう、最初は島を巨大な亀が破壊しているように見えたが、どうやらそれだけではない様子。

 その巨大な亀に対して、何人かの者たちが島から飛んで立ち向かっているのである。


「あっ、お母さん! 見てください、あそこ! ショジョヴィーチさんが……」

「むむ!」


 そして、クロンが目を凝らすと、亀の周囲をハーピーであるショジョヴィーチが誰かを担いで飛んでいる様子が見えた。

 その担いでいる者は……


「今だ、やっちまいな!」

「まかせな、姐御! デカいから的がデカいってなぁ! 暗黒魔法・メガダークフレイム、連射!」


 魔法を放ち巨大な亀の顔を目掛けて炎の魔法を連射する。

 褐色の肌の「ダークエルフ」である。

 それを見て、ブロは……


「あ……あれ?! え? あいつ……あれ? まさか……」

「ブロ?」


 ブロは大きく目を見開いて身を乗り出すほど驚きの声を上げる。

 さらに……


「よし! あんたらも続きなあ、トウロウ!」


 魔法を放ったダークエルフが、地上にいる誰かに向かって叫ぶ。

 すると、別の空には……


「うふふふ、やりますよ~、トウロウ君」

「やっちゃえ!」

「ザコザコ亀をやっちゃえ!」


 ショジョヴィーチの娘である長女のセイソヴィーチと次女ピュアヴィーチ、そして三女のロウリヴィーチの三人がかりで誰かを担ぎ、そして……



「蟷螂魔拳……鎌鼬乱舞!」



 異形のモンスター……普通の人間より二回りは大きい魔族が、その両腕を振るって、風の刃を起こして亀に向かって放っていた。


「ぬぬ? アレは……マンティス? あの島にはあんなのも住んでいたのか……」

「そういえば、ショジョヴィーチさんたちが、自分たち以外にもと……」


 それを見て、クロンとヤミディレは驚いているが、ブロはもっと驚いた。

 なぜなら……


「間違いねえ! アレはトウロウ! それに……ダークエルフのスケヴァーンじゃねえかよ!?」

「え!? ブロ、知り合いなのですか!?」


 それはかつて、ブロとアースが初めて出会った日に関わった魔族たちである。

 さらに……


「うざったいカメ……お前たちの攻撃では揺らがんカメ……と言いたいカメが……まいったカメ。あんな『ハズレ』がここにいるのは想定外……姫は目立つなと言っていたが……そうは言ってられ――――大防御!」


 その巨大カメが人の言葉で愚痴を言い始めた。

 まず、その怪物が喋るということにも驚きなのだが、それよりも、スケヴァーンやトウロウの攻撃をうざったそうにしつつも避けようとも防御しようともしなかった怪物が、次の瞬間には頭と手足を甲羅に引っ込めて防御の姿勢に。

 そして……



「誰がハズレだ結婚しろ高身長高収入の白馬に跨った王子様でも紹介しろブチ殺すぞこの野郎、にゃんにゃん♪」



 クロンたちは目を疑った。


「うおおお、な、なな、なんだありゃ!?」

「エッチなかっこ……というより、すごいムキムキなのん!」

「す、すごいです! マチョウみたいな筋肉ではないですか!? そして、大きいです!」


 ハーピーであるショジョヴィーチたちの力を借りずに大ジャンプで怪物に立ち向かう存在。

 長い緑髪を靡かせた女だが、女でありながらその図体は別格。

 人より二回りは大きいトウロウよりも、更にデカい身長、さらに格好はマイクロビキニアーマーと呼ばれるほぼ全身露出した姿なのだが、そのことにエロいと思うよりも、むしろ全身鋼の筋肉と太い手足に、割れた腹筋というボディに誰もが見惚れてしまう。

 そんな強力な肉体を持った女が手に持つのは、そんな女よりも更にデカいハンマーであった。

 

「え? ……は!? いや……なぜ!?」


 そして、ヤミディレもまたさらに驚いた。

 戦っている亀の怪物だけでなく、ソレに立ち向かおうとしている巨漢筋肉女のこともヤミディレはよく知っていたからだ。



「まったく……お使い……雑用……それだけだったはずが、まさか鬼天烈大百下の最強クラスのヤバいのが現れるのは想定外カメ…………先日もバサラに見つかったりと不幸カメ……」


「うるせえええぇえええ、わっちの前でぇえええ、不幸がどうとかヤバいとか言ってんじゃぁねぇぇ、亀料理にすんぞごらぁあ~ぷんぷん! このナウでヤングなピチピチギャルを前にしてぇぇえ、どいつもこいつも幸せになりやがってぇぇええ! 死んだと思ってた戦友が生きてたとシテナイから聞いてぇぇぇえ、なんか結婚して幸せそうだし、そんな幸せを壊そうとするとかテメエ……するなら協力するってのもありか? やっぱ見捨てっかぁ!? そうだぁぁあ、結婚式に呼ばれてねぇぇ! ブーケがぁぁ、二次会の出会いがぁぁぁあ、世界よ亡びろぉぉお!」


「……ほんと、相手にするのは不幸ガメ……相変わらず発作して暴走すると環境破壊な迷惑ガメ……」


「ああ、全ての男に求婚してもダメだったら、いっそ滅べばいい、こんな世界ィィィィィ、てへぺろ」



 ハンマー攻撃での轟音。その衝撃の余波で海面に波ができる。

 何か魔法を纏っているわけでもない、ただ力任せに乱暴に振りかぶっただけのハンマーが、怪物を揺らす。

 そんな様子を見て、クロンたちが言葉を失う中で、ヤミディレだけは呆れたように苦笑しながら呟く。



「どうなっている……こっちは生きているのは知っていたが……何故ここにいる……ドクシングル……」



 それはクロンたちが、意図せずに怪物同士のぶつかり合いの場に足を踏み入れてしまった瞬間だった。







 そして……



『いやぁ、現在入ったんだけど、最新情報ではどうやら巨大な亀がナンゴークで暴れようとして、そこにムキムキマッチョな女のオーガが中心となって抵抗しているという情報が入ったよ』


 それは魔水晶を使った同時会談中、現在の地上の状況を何も知らなかった鬼天烈大百下のテングにざっくりとアースなどのことを教えようとしていた時、シテナイに突如入った一報だった。


『なんじゃもん!? 亀……まさか、ゲンブが? しかも戦ってるのは……まさか、ドクシングル?!』

『うーわー、あの行き遅れのおばさんなにやっちゃってんのぉ? あーあ、しーらない』

「ナンゴーク……それって今まさにの……ゴクウたちのアジトの第二竜宮城云々の……」


 シテナイの報告を受けて、会議継続中だったテング、レンラクキ、そしてたまたま巻き込まれたオウナも様々な反応を見せる。

 だが、一番取り乱しているのはやはりテングだった。



『しかし、ちょっと待つじゃもん! いかにドクシングルとはいえ、ゲンブが本気になったら……特に完全守護モードに入られたら……というか、敵の本拠地が近くなら増援もあるじゃもん!? レンラクキ、このことをハクキ様に報告―――』


『え~……どうでもよくない? 死にぞこないの……じゃなかった、昔から生存していた鬼天烈は死んだことになっているから、時が来るまで目立ったことするなという言いつけ破ってんの、あのおばさんのほうだし……なんかあっても自己責任……』


『そうはいかんじゃもん! 今、ドクシングルを失ったらどれだけの痛手じゃもん! そこの近くに敵の本拠地もあるのであれば、敵がむしろ増援を送るじゃもん!』


『そーなって、こっちまで兵隊送れば大戦争じゃん。いや、流石にそうなったらダメでしょ?』


 

 遥か昔から共に戦場を駆け抜けた仲間として、テングはレンラクキと違ってドクシングルの身を案じ、どうにか援軍を送れないかと問うが、レンラクキは心底めんどくさそうな顔をして話に乗らない。


『……オウナ氏』

「え? はい?」


 テングたちの会話とナンゴークの危機。

 驚きつつも、今は自分が何も口出せるような話でもないと黙っていたオウナだったが、そこでシテナイが口を挟んだ。


『オウナ氏、追加情報だ。確かに戦っているのは、鬼天烈の連中……さらにソレに加勢する島の住人たちという構図で、オウナ氏にはあんま関係ない……かと思ったら、そうでもなくなりそうだ。いや、正確には……オウナ氏の友達にとってはね』

「ん~?」


 突如始まった鬼天烈ドクシングルと伝説の怪物ゲンブの戦い。

 それがオウナの「友達」にとって関係なくは無くなる……それはどういう意味かと首を傾げるオウナ。



『確か、そっちにもダークエルフいたよね? ラルウァイフ氏というのが……』


「え? あ~、それならまさに今、アースッちたちと一緒に家に……」



 話を続けるシテナイに、ますます話が分からないオウナ。

 すると、シテナイは……



『確か、ダークエルフ同士だったら、離れた場所同士でもお互いが認識すれば……特にラルファイフ氏は空間転移系の魔法を鑑賞会でも使ってたし……ふむふむ』


「?」


「それなら、最強の援軍を送れそうじゃないかな? 悩ましいのは、いきなりこんなことをしてしまうことで、これまでの鑑賞会を取り仕切っている黒幕は想定外で、今回のネタを鑑賞会で使えない……ってことかな?」



 と、怪しい笑みを浮かべて笑った。







――あとがき――

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