第569話 天の声

 腕の形が変形したターミニーチャンたち。

 拳ではなく筒。先端には数か所の穴。いったい何をする気か?


『……ッ! 童、民衆の前に立って今すぐ全体を守れッ!』

「え?」

『早くしろ! 巻き添えで誰か死ぬぞ! その上で民たちを早々に避難させるようにシノブに伝えよ!』

「ッ!?」


 その瞬間、トレイナが慌てたように叫んだ。

 トレイナはターミニーチャンたちが何をしようとしているのかを見抜いたようだ。

 トレイナが言うのであればと、アースは詳しい説明を聞く前にまずは動いた。


「シノブ、皆をさっさとこの場から遠ざけろぉ!」

「ハニー?」


 そして駆け出して皆の前に立ち……



「「「「バルカン掃射」」」」


「大魔螺旋!」


「「「「おーーー、アース・ラガンの生・大魔螺旋だーっ!!??」」」」



 同時にターミニーチャンたちが筒から強烈な炸裂音と共に何かを連射した。

 目にも止まらぬ高速の攻撃。

 それをアースは正体不明のまま強烈な渦を壁のように放って防ごうとする。

 民衆は民衆で天まで上るアースの大魔螺旋の渦に、ファンとして興奮するというノンキな様子を見せるが……


「ッ、な、なんだァ、この感触は!? なんかが渦に……石? 違う……」

『……弾丸の弾幕か……気をつけろ、童。一発でももし頭にでも当たれば……死ぬぞ?』

「ッ!?」


 あっさりと「死ぬ」と口にするトレイナにゾッとするアース。

 そしてそれが決して誇張ではないことは、大魔螺旋に感じるターミニーチャンたちの目にも止まらぬ攻撃とその威力で理解できてしまった。


「ッ、ちょっと待て! あんな何百人もいる連中が全員これと同じ技を延々とされたら、そ、そんなの全員を守るなんて……」

『大丈夫だ、この瞬間だけ耐えよ。見たところ、あの弾丸の大きさ……古代人たちの単位でいうところの、20mm口径……ターミニーチャンたちが手ぶらなところを見ると、弾丸は体内に貯蓄しているのだろう。ああやって撃ち続ければすぐに――――』


 そして、トレイナの言葉と正に同じタイミングで、攻撃をしていたターミニーチャンたちの腕から放たれていた攻撃が次々と止んでいく。


「バルカン全弾射出」

「残弾数ゼロ」

「次弾装填必要」

「残弾数ゼロ」


 激しく鳴り響いていた音が止まった。トレイナは「今だ」と叫ぶ。


『弾切れだ! 突っ込め、童!』

「お、おう! 良く分かんねーけど、皆も今だァ!」


 アースが大魔螺旋を解除。

 そして、攻撃を止めているターミニーチャンたちの隊列にそのまま真っすぐ突っ込んでいく。


「ハニー! ッ、みんな、ハニーたちの迷惑にならないよう、今すぐに後退して! 早くしなさい!」

「おっしゃァ、俺様も突っ込むぜぇ! セイレーン、おめーはシノブを手伝って歌で民衆どもを下げとけ!」

「ふぅ、仕方ないっつーの」

「ぬわははははは、では反撃開始なのじゃァ!」

「良く分からないが、守ってくれたのは分かったよ、坊や。なら、今度は共に!」

「アース様、援護はお任せください!」


 アースに続き、ゴクウとノジャも飛び出していく。ガアルとアミクスは援護の魔法を。そして、セイレーンとシノブは民の避難誘導。

 

「うおおお、大魔リバーブロー! からの~、大魔ハートブレイクショット!」


 アースがターミニーチャンの一体に対し、懐に飛び込んで肝臓を打ち、間髪入れずに心臓に拳を叩き込む。

 相手の動きを封じるためだ。

 しかし……


「残弾数ゼロ」

「なぬ? 利いてねぇ!? つか、痛ぇ~!」


 ターミニーチャンはケロッとしていた。それどころか、殴ったアースの拳の方が衝撃で鈍い痛みを受けた。


『並みの攻撃は通じぬとさっき分かったであろう! それに、あやつは人ではない! 人の急所攻撃のような組み立ては通じぬ!』

「あ……つい、いつもの癖で……」

『相手はゴーレムのようなもの、遠慮は不要! 一発で頭部を打ち抜いて殺し……いや、破壊しろ!』


 ついいつもの癖で急所攻撃からの組み立てをしてしまったアース。

 内臓やら顎への攻撃やらをしたりする癖が身についていたこともあり、いきなり一発目の攻撃から、しかも相手を殺すような攻撃をすることには慣れていない。

 トレイナもそれを見越してあえて「破壊しろ」という言葉でアースの背を押した。

 だからアースも「殺す」ではなく、相手がゴーレムであるという認識で迷うことなく……



「大魔コークスクリューブローッ!」



 いきなり右の大砲でターミニーチャンの頭部に拳をめり込ませる。

 その拳の速度はターミニーチャンの反応速度を遥かに凌駕する。

 強固なターミニーチャンの頭部が「ぐしゃっ」と潰れるほど変形し、そして光っていた両目の光が消え、そのままプスプスと音を立てながらピタリと停止した。


「倒した……のか?」

『止まるな! そのまま他の奴らも片付けよ! 奴らは意思なき兵! 味方がやられようと一切揺らぎなく動き続ける!』


 一体を倒した。そのことに民衆が歓声を上げる前に、他のターミニーチャンたちがアースを囲うように動き出し、その動きの前にトレイナが叫んだことでアースも警戒を解かずに反応し、そしてそんなアースとトレイナのやり取りよりも早くに動いたのが―――



「伸びろ・如意棒ッ!! そららららら~~!!」


「動くこと雷霆の如し!! わらわの婿殿に触れるななのじゃァ!!」



 ゴクウとノジャだった。

 ゴクウの持っていた棒の武器が、ゴクウの命じるがままに伸びて、そのまま目にも止まらぬ突きの連打でターミニーチャンたちの頭を次々と吹き飛ばしていき、そしてノジャが雷の速度で放った尾の連打がターミニーチャンたちの胴体を貫いて穴を開けていく。



「ゴクウ、ノジャ!」


「へへへ、確かに硬ぇ~けど、ゲンブほどじゃねえ! 俺様にはちょっと固いバターみてぇなもんだ!」


「うむなのじゃ! わらわの風林火山の山の方が、そしてわらわのお尻をほじりまくった婿殿のビンビンの雄々しく猛々しくいド・リ・ル、の方がバキバキボッキボキに固いのじゃ♥ そうボッキボッキに固いのじゃ♥」



 誇らしげにドヤ顔をしながら、アースと背中合わせになるように立つゴクウとノジャ。

 その光景に、逃げながらも民たちはどよめく。


「おおお、伝説のゴクウと伝説の六覇のノジャが……」

「アース・ラガンがあの二人を従えて……す、すげぇ!」

「うう~、もっと見たいよぉ、お母さん!」

「いいから今は逃げるのよ! 大丈夫、きっと『コレ』もそのうちまた鑑賞という形で見れるかもしれないし……」


 絵本にも載るゴクウと、教科書に載る六覇のノジャ。

 二人の伝説を従えて、まさに「敵の時は恐ろしかったが、味方にするとこれほど頼もしいものはいない」という言葉を表すにふさわしい二人。

 

「……コレ、生配信中だけど、そういえば鑑賞会のこれまでのバックナンバーも含めてどうするの?」

『ひははははは、もちろん、これからも見られるように考えるさ。古代人たちのもので『シネマ』という技術があってだなァ~』


 そんな民たちの言葉を、物陰に隠れていたオウナは魔水晶越しでパリピとまた悪だくみをコソコソと……



「にしても、アース。よくあいつらがやってくる攻撃分かったな。最初の筒攻撃は俺様もよくわかんなかったぞ? すげー洞察力だな」


「……え?」


「でもよ、おめー結構独り言多くね?」


「あ……」



 ゴクウがキョトンとしながら疑問を口にして、アースも思わずハッとした。

 普通にトレイナと会話しながら戦っていたことに気づいて思わず口元を抑えるアース。

 するとその様子にノジャは……



「ぬわはははは~、細かいことは気にするななのじゃ猿~。ただただ、わらわの愛おしい婿殿は、どういうわけか時折『天の声』が聞こえてるだけなのじゃ~」


「は? 天の声?」


「ふふふふ、そうなのじゃ……ふふふ、そうだったのじゃ!」



 ノジャはこれまでのいやらしい笑みを一変させ、戦に興奮した戦士のような笑みを浮かべた。

 そして……



「のう、婿殿。今よりわらわは婿殿の命令……いや、婿殿にアドバイスする天の声の指示通りに動くのじゃ。どんな命令・指示にも従うのじゃ。どうか婿殿……天の声をわらわに送って欲しいのじゃ」


「は? おいおい、ノジャ。何言ってんだ? アースもスゲーけど、戦の経験とかならお前の方が―――」


「猿は黙ってろなのじゃ! のう? 婿殿ぉ~?」



 ノジャの要望をゴクウは理解できなかった。

 何万もの兵を率いて数えきれないほどの戦の経験もある大将軍だったはずのノジャが、僅か十代のアースに戦の指示を求めるのである。

 しかし、ノジャはソレを望んでいた。

 そしてノジャのその気持ちの意味をアースは……



『なぁ、トレイナ……だってさ? もう、バレてて、その上で……って感じだな』


『ふっ……ノジャめ……やれやれ、では童よ……天の声としてノジャに言ってやれ――――――』



 思わずアースも、そしてトレイナも笑ってしまった。

 ノジャが望むもの。それが、アースを通じての「トレイナの指示」を求めていることが分かったからだ。

 普段の言動はふざけていても、ノジャはノジャなりに真剣にアースを想っているのと同様に、ノジャは心底トレイナの配下であったことを誇りと思っていた。

 だからこそ、望むのである。

 もう二度と叶わないと思っていた、トレイナの指示を。

 だから、トレイナも応える。



「じゃあ、ノジャ……天の声からの指示だ」


「ッ!?」


「そのまま伝えるぜ? 『まだ筒で撃ってない他のターミニーチャンたちの筒攻撃は気をつけろ。ただ、敵の飛び道具は全て直線的な動きであり、筒口の位置にさえ意識すれば避けるのも防ぐのも容易。弾丸も有限。一体100発程度。さらに奴らは同士撃ちしないようになっているのか、奴らの密集の中に飛び込めば筒攻撃からは安全だ。飛び込んで、まとめて蹴散らせ』とのことだ」


「……ほほう! ほほ~~! ほほう!」


「あと、『他にも体を変形させて使う武器を持っている可能性もある……が、変形するには数秒の時間を要するようだ。その間は隙だらけだ』……」


「うむうむうむうむ~!」



 アースがそのまま伝える言葉に、ノジャは目をキラキラと輝かせて何度も頷く。

 その様子が何だかノジャらしくなくて本当に幼い幼女のようで、アースは内心「いつもこんな感じなら可愛いのに」と密かに思ったりもしたが……



「あと、最後に……『今この瞬間、敵に対してのみ狂って大暴れすることを解禁する。蹂躙し尽くせ! 我が誇りの六覇の力を現代に生きる者たちに存分に知らしめてやれ!』……とのことだ! ……って、『我が誇り』っておいおいこっちももう隠す気ないんじゃ―――」


「ッッッ!!??」



 最後のその言葉を受けて、ノジャが身震いしたように震えあがった。

 それは、まさに興奮の震え、武者震いのようなもの。

 ノジャはそれを全身から溢れ出しながら、拳と手を合わせる形で……



「御意ッッッッ!!!!!!」



 と、心の底からの声を出して答えた。

 そのやり取りに、ゴクウは、そして他のガアルやアミクスたちは首を傾げて理解できていない。

 








 しかし……これは全世界に生配信中。








 このやり取りの意味を理解できている者たちは、歯ぎしりしながらノジャを羨ましがっているのだった。








――あとがき――

流石に週のど真ん中に更新するとは誰も思ってなかっただろう。GWだからといって寝過ごしてたり、ワシが週末にしか更新しないと思ってる連中、油断したなァ!

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