第567話 幕間 まくらなげ

 私だって最初から汚かったわけじゃない。

 純粋に好きな人もいた。


『フウマ様……私……忍者の才能がなくて……シノブちゃんと違って……足も遅いし、力もないし、術も苦手だし……』


 憧れみたいなものだったけど……


『自己分析ができており、自分の足りない部分や伸ばすべき課題を理解しているのは大きな強みでござる』

『え……』

『シノブはそこがダメでござる。何故ならあやつは自信過剰で自惚れているでござるからな。少しはお前のように謙虚さも持てばと思うでござる』


 カッコいい人に頭を優しく撫でられただけで恋に落ちるぐらい純粋だった。

 そこは昔の私も普通だったかもしれない。

 今にして思うとあまりにも単純すぎるとけど、でも子供の頃だったから……


『ねえ、シノブちゃん……フウマ様ってかっこいいよね……いいなァ、シノブちゃん……あんな素敵なお兄さんが居て……』

『あら、そうかしら?』

『そうだよ~、シノブちゃんはこういう話題には疎いよね~。恋とかしたことないの?』

『恋ねえ……まったく分からないし、まったく想像もできないわ。興味もないし。たぶん私は誰かに恋するとかそういうことないんじゃないかしら?』

『ダメだよ、シノブちゃん! 私たちは女の子なんだもん! 忍者だって恋したっていいと思うよ? シノブちゃんのお母さんのカゲロウ様だって、すごい大恋愛して結婚したんでしょ?』

『そうね。でも、子供のころからそれを聞いているからこそ……かもね。自分から男に迫るなんて破廉恥だし、そもそも私がそれほどまで求めるにふさわしい男の子なんて想像もできないわ』

『あ~、シノブちゃん理想高そうだもんね……』


 私とシノブちゃんは友達だった。

 血統に天地ほどの差があっても、私はシノブちゃんと普通に接することができた。

 たぶん、私もシノブちゃんも不幸だと思っていたからだ。

 私は単純に家が貧しくて。

 シノブちゃんは本当なら王族として贅沢三昧の暮らしができたはずなのに、お父さんのオウテイ様が先代国王から追放されたとかで、王族の身分を剥奪。その後継者となったウマシカ国王にもオウテイ様は毛嫌いされて、城からも遠ざけられているし。

 私はシノブちゃんと一緒に忍者アカデミーに入るも、同じように就職難で頭を抱えて……だけど、けっきょく私とシノブちゃんは違った。

 私には忍者に必要な戦闘の才能が無かった。

 シノブちゃんには忍者に必要な戦闘の才能があった。だからこそ仕事も斡旋してもらえた。シノブちゃんはその仕事にすら不服を持っていたようだけど、私とは違う。

 何よりも、シノブちゃんは女の私から見ても美人で、戦碁も強くて、何だかんだで国中の人気者だった。

 私みたいな日陰の女とは全然違った。

 そして、私にはお金が必要だった。親が病気になってどうにかできるのが私だけだったから。

 シノブちゃんは普通に生活する分に不自由はなかったし、御両親も健在だった。


『大名様……私は転職して王国武士となって……あなた様の専属の側仕えになりたいです』

『む、むふぉ、むふぉ!?』

『私に何の裏もないこと、何も隠し事はないことを是非ご覧になってください……』

『ッ!? は、生えてな……お、おお?!』

『もちろん……見ただけでご理解いただけないようでしたら、是非に念入りに調べて頂いても構いません』

『ふぉおおお!? そ、そうだな、ううむぅ! わ、ワシは大名じゃもん! あ、怪しい奴を傍に置くわけにはいかんもん! ちゃ、ちゃんと調べんとな、ふぉ、ふぉふぉお、こ、ココが怪しいのぅ!』 

 

 私は何だってやった。

 そして、奇しくも私には『こっちの才能』はあったようだ。

 女忍者独特のスキルとも言うのか、醜い肥えた方たちは皆が私に骨抜きになった。

 そして、私の『お願い』を簡単に聞いてくれた。

 でも、そのために……



『ふふふ……恐ろしいねぇ……その年齢で大名をはじめ、数多くの豪商たちや有力者たちを虜にするとは。ふふふふ……もし君が望むなら、もう少しその力をもっと偉い人に使ってみるかい?』


『あなたは……一体……』


『俺はイナーイ総合商社の社長……君をヘッドハンティングに来た。ああ、安心したまえ。俺に色仕掛けをする必要はないよ、マクラ氏。俺は可愛いお尻の男の子にしか興味―――まあ、それはいいとして、どうだい?』


 

 まさか、たったこれだけの能力を私の力として見込まれて、妙なことに巻き込まれてしまった。



『このジャポーネという国は、起源をたどれば古代人たちの……神様気取りの創造主たちの遊び場のようなもの。だが、それゆえに……彼らのオモチャも国の至る所に眠っている。それを掘り起こしたい。掘りたい。お尻じゃなくてね。その発掘などの許可と作業発注の工作を、君にお願いしたい。入札なら価格も教えてくれたまえ。名目は……治水工事やら開拓工事とでもテキトーにね』


『なぜ私が……そんなことを……』


『できるだろう? 大名のお抱えだった君をこの国の王は狙っていたと聞いている。君からすり寄れば国王は喜んで飛びつくだろう』


『そんなことをして……私に何の得が……』


『……どんなにお金を得ても、君の親が掛かっている病気……奇病のようだね……治すのはこの大陸では無理だ。それこそ……世界一の名医スオナぐらいでないと』


『それは……そうですけど……でも……その人は―――』


『俺のコネクションを甘く見ないでくれ。金だけでは動かない人だが……俺が紹介状を書けば……ふふふふ』


『ッ!?』



 だけど、もう私はソレに乗るしかなかった。







 そして、私は果たした。







『恐ろしいな。これほどのものが地下に……しかも、シソノータミの厳重封印を施された最深部ではない場所に埋まっていたもので、これほどの……もはやここまで来るとこの世界そのものを滅亡させる兵器があってもおかしくない。いずれにせよ、我らの文明ならこの辺りのオモチャでも丁度いい』


『これをどうされるのです?』


『ビジネスパートナーのハクキ氏次第だな。指先一つで動く人形や巨大なオモチャ。君もくれぐれも取り扱い、そして情報漏洩に注意したまえ。ジャポーネではミカド氏……他にも帝国の連中や七勇者たち……そして……ツナという男もね。自らを滅ぼすことになってしまうかもしれないしね』



 滅びるかもしれない……ダカラドウシタ?


『そう言えば、スオナから連絡があった。君の親は奇病を克服され、現在リハビリ療養中だそうだ』

『ッ!?』

『本当は会わせに行かせてあげたいところだが……今、あそこにはそれこそツナが居るから少し待っててくれたまえ。向こうから帰って来れるようになれば―――』


 心も体も魂すらも汚して穢れて腐りきった私がようやく掴んだもの……それを壊そうとするなら排除する。


 お母さんが元気になったら、お母さんにもいっぱい贅沢をさせてあげて、幸せに暮らすんだ。この国はもう私たちのモノなんだから。



 そして、今日を迎え、シノブちゃんがジャポーネに現れたこと、そしてあの鑑賞会でのこと、そして今もシノブちゃんが人気者で……あのシノブちゃんに好きな男の子ができて……本当に綺麗なままで幸せそうで……本当に……ああ……ダメだよ……シノブちゃんは私の友達で、大切で、ああ、だめ、そんなこと思っちゃダメ――――むかつくなぁ


 

 シノブちゃん。分かってるよ? ウマシカ国王が不在になれば、ジャポーネの民たちが次に誰を擁立しようとするのか……民衆が私をどう思っているのか……だからさせない。



―――命令ヲオネガイシマス


 

 今、私が居るのは巨大なオモチャの中。まるで人や建物がゴミのように見下ろせる……



「ウマシカ国王の救出。抵抗するものには武力行使」


――命令ヲ受理シマシタ。『ターミニーチャン・プロトタイプ』、武装モードニ移行シマス



 そして私の足元を歩む人形たち。

 全身が鉄のようなものができていて、顔は鉄の髑髏という異形なもの。

 それが王都の中央通りを5百体、列を作ってゆっくりと王都の中心へと向かっている。

 そして……



「ターミニーチャン・プロトタイプ……これだけじゃない。私が乗っているコレが暴れたら……七勇者も六覇も、アース・ラガンくんだろうと目じゃない」



 今の私には、才能が無いと嘆いていた時と違って「力」がある。



「この、大怪物……メカ・ゴッドドラゴンがあるから! ……長いかな? ……ふふふ、省略して『ゴドラ』にしよう」



 だから、ツブレチャエ、シンジャエ、キエチャエ、ワタシカラウバオウトスルモノハ全部!



「ん? ちょっと待て、何だこの揺れは?」


「確かに、何か、音が……何かが近づいてくるわ!」



 どういう理屈かは知らないけど、この中に居ると、任意で見たい人の顔が前方の窓に映し出されて、よく見えたり、声がよく聞き取れたりする。

 大勢の民衆が集う中央ではまだ気づいていないけど、屋根の上に居る人たち……アース・ラガンくんやシノブちゃんたちはどうやら先に気づいたようだね。


「確かになのじゃ……しかし、生命ではない……匂いが無いのじゃ」

「やれやれ……ダディをさらったかと思えば、次から次へと、また君らの新手かい?」

「え? いや、俺様も知らねーぞ! なあ、セイレーン、どういうことだ?」

「……え? ウチも知らないっつーの」


 六覇のノジャ、天空王子ガアル、そして今回ウマシカ国王をさらった実行犯と思われる、ゴクウとその仲間のセイレーン。

 色々と盛り上がってバカな民衆を沸かせていたみたいだけど、国家転覆を狙う犯罪者なんだから殺して問題ないよね!

 

「誰が来ても、私がアース様をお守りするもん!」


 森の虫も潰しちゃおう!



「……え?」


「……は?」


「「「「…………ゑ?」」」」



 驚け慄け震えてしまえ。



 私の今を潰そうとして充実している者たちは誰であろうと許さない。



 誰にも奪わせない。逆らわせない。



 もしそんなことをしたらどうなるのか、見せしめをするのも大事だよね?



 たとえそれが、かつて幼馴染だった子でも――――







――あとがき――

わはははは、流石に今日は油断してただろ!

デスマを超えてまた帰ってきた……よろすく!


あと、第二回の愛され作家……三位でした! 限定SSをあまり出せていない中で沢山の推し活動ありがとうございます!


https://kakuyomu.jp/info/entry/ksp_1st_anniversary_cp_fr


まだ愛してもらえるようにがんばりまっするぅ!

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