第九章(三人称)

第433話 カウントダウン

「パリピ様、あの、お客さんですけど……」

「うぇーい」


 六覇最悪の男と呼ばれた魔族であるパリピの隠れ家。自分の側近でもあるコマン・パイパ以外、普段その場所に誰も足を踏み入れない。

 既に死んだことになっている魔族。しかし、その生存が世に知れ渡れば面倒な追っ手や命を狙う者に手を焼かされることになる。

 だからこそ、普段は自分の隠れ家に他人を招き入れるようなことはしない。

 それでも招き入れるということは、特別な事情があるときである。



「いや~、メンゴ。御足労かけたね~。本当はオレから出向いてもよかったし、コマンちゃんを送ろうとも思ったんだけど、カクレテールでは現在ウザい帝国の連中が居るしね。だから、君の方から来てもらっちゃって♥」


「ふっ……あなたに名指しで呼び出されたら……拒否したときの方が怖いアル」


「そんな~、今のオレはボスに忠実な部下なのに酷いね~、ワチャ・ホワチャくん。天空世界では悪かったね~、まっ、殺さなかったんだからセーフでしょ?」


「まさかこのような形でまたあなたにお会いするとは思わなかったアル……」



 パリピのアジトに足を踏み入れた人物。それは、カクレテールの魔極真流師範代である、ワチャ・ホワチャであった。


「で、私に要求されたもの……コレを一体あなたはどうするおつもりアル?」

「おお、それそれ♪」


 そう言って、ワチャはポケットから袋に入った何かを取り出した。

 自分は今から何に巻き込まれるか? 表情こそ笑みを浮かべているものの、それでも恐怖からか顔色が悪い。


「君とつながりのあるボクメイツファミリーのあの息子、シテナイにはちゃんと俺から話はつけた。あの青二才、どうやらオレと同じでノリ好きだね」

「……これで一体何をするアル……この、魔水晶で……」


 ワチャがパリピに言われて持ってきたもの。それは、魔水晶。

 それを見て、パリピの笑みが更に邪悪に染まる。



「ひはははははは、いいねぇ! ヤミディレの姐さんとクロンちゃんの状況報告のためにカクレテールで君がスパイとしての情報収集用に設置していた魔水晶……ハクキの旦那が持たせてたんだろうが、それが欲しかった。さ、ちょーだい♥」


「ま、待つアル! これを何に使うと……その……師範……いや、ヤミディレやクロンちゃんに何か……」


「ン? いやいや、そんなこと……いや……登場人物としては……ひははは、そうか。全てを知ってもらうには、結果的に……ま、でもいいか。それはそれで面白そうだ」


「な、に?」


「情が沸いて二人を心配するなんて優しいもんだが、安心しな。むしろこれで世間は味方になるかもしれねーし、そもそもの目的は二人じゃなくて、ボス……アース・ラガンのためなんだからよ」



 ワチャはパリピの予想外の言葉に呆然とした。自分は立場上、上の命令などには逆らえない。

 ボクメイツファミリーの構成員だった自分にとって、たとえ元の組織が既になくとも、その後継ともいえるシテナイの命令であるならば従うしかない。

 しかしそれでも、自分が何をさせられようとしているのかだけはどうしても気になった。

 裏では色々とあったものの、パリピの言うようにワチャ自身もヤミディレやクロンには情を抱くには十分な月日を過ごしたからだ。

 だが、パリピの目的がヤミディレでもクロンでもなく、アース・ラガンということで予想外だった。


「なぜ、アースくんが……」

「ひははは、それを渡して……そうだな、また徹夜で編集作業して、色々とつなぎ合わせて……うん、明日にでも全部お披露目できるよ。せっかくだし、泊っていけば? 暇ならコマンちゃんのお手伝いでもしてよ。お披露目会に向けてお菓子作ってるんだ。マジカル・ポップコーンと、マジカル炭酸ジュースってやつなんだけど」

「お、お披露目? なにを……」


 パリピの目的はワチャの懸念していたものとは違った。しかし、なら安心という雰囲気をまるで感じさせなかった。

 それほどまでに、パリピの笑みは……邪悪というよりも、悪だくみをする男の顔そのものだったからだ。



「なにを? 決まっている。伝説のお披露目だよ!! 放送禁止なものは流せないが……まぁ、それでも世界には知ってもらわないとね! 新時代の英雄にして、歴史の裏に埋もれた本当の英雄の姿をね! ひははははははははは!」



 そして、その伝説のお披露目まで、カウントダウンに入った。




 それは、この世にいる全ての者にお披露目される。




 全て――――



「くそ……ダメだ……抜け出せねえ」


「うん。この手枷で魔力を封じられている……関節外したりとかでも抜けられない鎖……まいったわね」



 薄暗い地下牢に幽閉されているこの夫婦にもだ。

 現在世界で一番有名な英雄二人。

 しかし、こうして捕らえられてしまえば無力であった。

 そして何よりも……



「くっそ、なんてマヌケなんだよ、俺たちは!」


「本当よ……まさか……海で溺れていたところを捕まるなんて!」



 捕まった理由が大マヌケであった。

 逃げられたアースを追いかけるため、海を泳いで渡ろうとしたヒイロとマアム。

 しかし、突如巨大な大嵐に巻き込まれてしまった。

 荒れ狂う大海原を、方角も関係なく無我夢中で「気合」を合言葉に二人は乗り切ろうとした。

 だが、途中で魔力と体力が尽きてしまい、二人は海に飲み込まれてしまった。

 それでも命があるのは二人の常識を超えた生命力に加え……



「ふふ、確かにマヌケだ。部下たちから二人を偶然釣り上げたと聞いたときは耳を疑った」


「「ッッ!!??」」



 現在この世界に「生きている」者たちの中で最も因縁ある宿敵との遭遇。



「かつて吾輩ら魔王軍を……そして大魔王様を打倒した貴様らが、あまりマヌケな死に様を晒さないでもらいたい。敗れた我らが穢される。なぁ? ヒイロ。そしてマアムよ」


「ハクキ……」



 大魔王トレイナ亡き現代において、世界で最も危険な存在。

 その行方をヒイロとマアムも新魔界政府も八方手を尽くして探していた。

 しかしそれでも十年以上もその所在を掴むことはできなかった男。

 それがまさかこんな形で、しかもこのような状況で再会するなど、ヒイロもマアムも夢にも思っていなかった。



「ハクキ……俺とマアムを殺さねえのか? 今、殺しておかねえと後悔するぜ?」


「ん?」



 ヒイロの挑発。二人は現在魔力を封じられて、身動きすらできない拘束状態。

 そんな二人を始末することなど今なら容易い。

 だが、そんなヒイロの挑発をハクキは鼻で笑った。



「ふふふ、息子に振り回されている分際であまり雄々しい言葉を使うな、ヒイロよ」


「な……に?」


「良好な親子関係が築けない……そんな世の中にありふれた一般的な人間に成り下がったお前たちは、もうかつてのように常識も道理も恐れずにあらゆる困難に立ち向かって壁を突き破った黄金の輝きを失っている」


「っ、ぐ、てめえ……なんでそのことを……」


「その点、貴様の息子は良いではないか。活きも良い。そして貴様らとは違う道ではあるが、当時の貴様らに決して負けぬ輝きを放っているではないか」



 ハクキの予想外の言葉にヒイロもマアムも唇を噛みしめる。

 一切の反論もできない、自分たちの傷を抉るような言葉だったからだ。

 一方で、まさかハクキがそんなことまで自分たちのことを知っているということが予想外だった。



「なんつーか……テメエも俺の息子の……アースの御前試合でのことを……見てやがったのか? ライファントからも、あの試合は結構色んな奴らが見てたって聞いてたが……」


 

 あの御前試合は自分たちの息子のアースだけでなく、他の七勇者の仲間たちの子供であるフィアンセイ、リヴァル、フーなども出場していた。

 次世代の英雄たちの現在の力を確認する意味で、他国も、そして魔族たちも注目していたということはヒイロも知っていた。

 


「まぁ、確かにあの御前試合は魔水晶を通じて見ていたが……そんなことなど些細な事。吾輩は、アース・ラガンと既に二度も会っている。一度目は直接。二度目は人を通じてだが……」


「「…………え……ッッ!?」」



 だが、ハクキの言葉はヒイロとマアムの予想を更に超えていた。






――あとがき――

お世話になっております。なんか、小説家になろうの方がどうとかで、こっちも色々騒がしいですけどなんかあったんすかね?


それはさておき、第九章は今までと小説のスタイルが大きく変わります。それは、今まで「アース視点」、すなわち「一人称視点」で物語を進めておりました。そして、たまに幕間で他のキャラという感じでした。


第九章に限っては「神様視点」、すなわち「三人称視点」の話が多く、たまに「アース視点」をやる感じです。事情としては、この九章ではアースの視界の中に映っていない、世界各国に散らばっている連中の様子やら反応を多く描写したいからです。


……ファンタジー日間ランク4位になってた(笑)。テンション上がりますので、引き続きご評価いただけたら嬉しいです。

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