第406話 幕間(愉快な視聴者)
戦争が終わってから、暇つぶしのために色々と動き回った。
しかし、皮肉なことに身動き取れない重傷を負ってからの方が時間を忘れる楽しいことが増えちまった。
「ヒハハハハハ、いるいる~、鬼さんたちがいっぱいパナイ♪」
目の前の魔水晶に映し出されているのは、とある隠れ家というか集落を空から映し出している風景。
そしてそこには、懐かしきオーガたちがバカ面浮かべて溢れている。
『げへへへ、でよ~』
『ぐわはは、ばっかでぇ!』
『あ~、腹減ったぁ~』
集落の至る所の地べたに座って酒飲んで談笑したり……
『うぅ……たすけて……お、おねがい……』
『お父さん……お母さん……』
『ぐひひひ、おい、そろそろ一人ぐらい喰っていいんじゃねぇか? ヤリてぇよ~』
『ばか、我慢しろ! 隊長にも言われたろ? 税の代わりに徴収した女どもは、一定の期間を置き、それでも納税されなかったら喰っていいってことなんだからよ』
『まだるっこしいぜ。しかも、最初に女どもを喰うのはあの豚王だろ?』
ジャポーネでの強制徴収で税を払えなかった家から税の代わりにと連れ去った若い人間の娘たち。
怯えて泣いて捕らえられている女たちの周りでは、今すぐにでも性欲の赴くままに貪りたいと涎を垂らす品のない鬼たちで群がっている。
「ヒハハハ、『魔水晶付きマジカルドローン』……操縦うまくなったね」
「そ、そうですか? えへへ」
「ああ。これなら全体がよく見える。大してデカくもない集落……鬼さんたちは300ってところか……」
オーガは魔族の中でもトップクラスの戦闘力を誇る種族。
1人だけで貧弱な人間何十人分もの力はある。
しかし、それはあくまで常人レベルの話。
「アースくんと七勇者二人に意識を失っているとはいえ六覇の一人……その他の人たちもレベル高いですし……楽勝でしょうね。面白くないな~。シノブちゃんあたりが半殺しになったりしたら面白くなりそうなんですけど……アースくん……どんな反応するのかなぁ?」
「ヒハハハ、流石にそのメンツに勝てる連中を連れてくるなんて、地上と魔界ひっくるめても無理♪ あと、相変わらずエグイこと言うね~、コマンちゃん。でも……果たして……楽勝かなぁ?」
「え? ……でも、今あの集落には……一番ヤバイ人がいないんですよね?」
オレの傍らで同じ魔水晶を眺めて作業しているコマンちゃんの言う通り、この状況を見る限りではそう思うのも仕方ない。
その最大の理由は……
『おう、オメーら! あんまダラダラするな! いくら親分が留守だからってよぉ!』
そのとき、集落の真ん中でダラけている鬼たちに活を入れる全身真っ黄色の鬼。
えっと、名前忘れたけど、鬼天烈大百下の一人で……え~と……
『だけど、こうも暇だとダラけるもんですぜ~、隊長』
『そうそう。ジャポーネでの徴収任務も、もうちょい反乱の侍とかいると思ったけど全然』
『オウテイとコジロウたちの行方も分からねえみたいですし、鈍っちまいますぜ~』
『そもそも、ハクキの親分はどこ行っちまったんですかい?』
活を入れられてもビシッとしないで苦笑い浮かべてダラける鬼たちの一人が発した言葉。
そう、今この集落に、ハクキの旦那がいないってことだ。
『わからん。親分は……『とんでもない大物が釣れそうなので、ちょっと海で釣ってくる』……と笑いながら行っちまって……』
『へぇ、親分って釣り好きだったんですかい?』
『わからんが、しばらく留守されるみたいだし、ジャポーネのことはおいどんたちが任されたんだ! ビシッとせい!』
オレがここを調べた時、既にハクキの旦那はいなかった。
つまり、ハクキの旦那VSボスチームというバトルは見れないということだ。
それは少し残念。しかし、それでもオレの楽しみがなくなったわけではない。
「たしかに、この隠れ家にはハクキの旦那がいないから、コマンちゃんの言う通り普通ならラクショーかもしれない……でもね……ヒハハハハハ。この集落には……それでもヤバイ化け物がまだ二人いる」
そう、まだ面白いバトルが見れる要素があるからだ。
「え、そうなんですか? 誰ですか? パッと見たところ……この黄色い鬼ですか?」
「ん~それはね~、ん~、言おうっかな~、でも~、楽しみに取っておいたほうが~」
「気になります」
「ん~…………やっぱ、言わない♥」
「うう~……意地悪ですね……教えて欲しいです……えい」
「ん? ……ほぐわああああああああああああああ!?」
次の瞬間、ぶすりとオレの右目を何か貫いた!?
「そんな意地悪な人には……見せて上げませんよ? あの……お目目もう一つやっちゃいましょうか?」
「ノー! それはだけは勘弁! 両方潰れたらせっかくの楽しみが見れなくなっちゃうからぁ!」
唐突な激痛にオレともあろうものがびっくりして声を上げちまい、無事な左目でよく見てみると、先端が血に染まった笛を握りしめてるコマンちゃん。
ワオ、すごいツッコみ。天空世界から少しずつ再生されてるけどまだバトルもできない体のオレに対して、容赦なく右目を潰してきやがった。眼球の再生って面倒なのに……痛いし……
「まったく、とんでもない……お~イテー……君にはあとでボスから魔水晶回収のために会いに行っていいってご褒美があるのに……」
「ふぇ!? で、でも、恥ずかしいです……あう~……。っていうか、アレを回収してどうするんですか? アレを所持してると所持者の周囲の光景や音声がキャッチできる盗聴盗撮機能……もう、アースくんの私生活を覗けませんよ?」
「ひははは、そんなことよりももっと面白いことに使うのさ。アレには『メモリー』という仕掛けがあって……それを使ってちょいとね♪ コマンちゃん、投影魔法エプソニーって知ってる?」
「えぷそにー? それって、あのジャポーネの肥えたクソ豚国王様が使ってらした? それが何か……」
「ひははは、まっ、楽しみにしておいてよ。何だったらしばらく彼と会って遊んできてもいいからさ~」
「でも、彼に会いに行っても今の私じゃ何もできませんし……何かしようと思ってもあのメンバー相手には何も……あの胸の大きなエルフとかほんとうにイライラしてムカつきますから何かしたいですけど……あ、あと、話を逸らさないでください。むぅ~……もう一つのお目目潰していいですか?」
「だめだめだめ~!」
血に染まった笛が俺の左目の眼前でピタッと止まる。あっ、このガキは本当に潰す気だったな……やべぇ、元の体に戻ったらキチっと教育せねば……と、今は……
「ぶっちゃけ、オレも奴のガチバトルを見るのは何年振りか分からねぇ……が……決してボスたちがラクショーなんてことは絶対にねぇ! そのヤバイ化け物ってのは……あ……キタ」
「え? あ、アースくんたち……」
ハクキの旦那が居なくても、ハクキの旦那のとんでもない置き土産。
さて、お手並み拝見と行こうじゃないかボス……そして……
「ひははは、ラルウァイフちゃんが転移魔法を使ったか……確かにあの場所に行ったことあるんだもんな……魔王軍時代に」
現れたボス、エスピ、スレイヤ、コジロウ、ラルウァイフ、シノブちゃん、あとペット版ノジャちゃん。
6人と一匹……いや、見えないお方を入れたら7人と一匹かな?
集落の外で空間の歪みから出現したボスたちに、ダラけている鬼たちは気付いていない。
このまま強襲かな? ……ん?
『いや~、お兄さん。ここはジャポーネ式でやらせて欲しいじゃない』
『そ、そんな文化があんのか?』
『も~、コジローってば、そんなことしないでさっさと殴り込もうよ~』
『わざわざ敵に知らせる必要もないと思うが……』
『目立たず動く……忍者戦士としては複雑です……』
『小生も理解が……』
『こんこん?』
何か揉めてる? てか、コジロウが何かを取り出して……あれは確かジャポーネ伝統楽器の……太鼓?
あっ、昔アレを見たことあるぞ?
コジローが大一番の戦を仕掛ける前に、ああやって楽器を鳴らすのを。
『オイラたちは押し込み強盗じゃない……まっ、オイラもこういうのは久々なんで許して欲しいじゃない♪』
そう言ってコジローはせっかく気づかれていないというのに、手に持っている太鼓をドンドン叩いた。
音が響き渡り、当然ダラけている鬼たちもハッとして当たりを見渡す。
『各々方……討ち入りじゃない!』
―あとがき―
ちょっとずつまたね……ゆっくりと。
で、YoutubeにてあのRenta!様が禁ブレのCM作ってくださったようで……まだ知らぬ方たちは見てつかーさいな
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