第399話 不自然に
重大な発表とは何かと俺たちは空を見上げながらウマシカの言葉を待った。
すると……
『側室のマクラを……朕の正妻にするでおじゃる!』
「「「「ッッ!!??」」」」
それは、なんか予想外というか、肩透かしをくらったような感じだった。
コジローやミカドとか、そもそも現在ジャポーネの重鎮二人を排除して、この国の行く末やらがどうなるかの大事な時期。
更にはシソノータミの調査団のこともあるし、こんな状況下で言う話か?
「んだよ、ただの妃の話かよ……」
側室を正妻にする。確かに王族や国民や国にとっては大きな出来事だろう。
だけど、今はもっと他にあるんじゃないのか?
少なくともジャポーネ国民じゃない俺にはどうでもいいことだった。
だが……
「うそ……マクラが……正妻に……?」
ジャポーネの国民にとってはやはり驚くことなのか、特にシノブは目を大きく見開いて震えている。
「シノブ? なんだよ、そんなに驚いて……あっ、そうか。正妻ってことはある意味でお前の叔母さんに……」
「友達なの……」
「え?」
「マクラは私の小さい頃からの同級生で、クラスメートで、友達なの!」
俺はこれまでこれほど悲しそうに叫ぶシノブを見たことなかった。
「彼女は旧姓、『マクラ・ハニトラ』。成績は優等生だったけど、昨今の就職難もあって忍者戦士にはならなくて……その……身体を使って……大名に取り入り……そして、さらに……こんな……ことに……」
思い出した。
そういえば、昨日の話でウマシカに寵愛を受けた女が室に迎えられ、オウテイさんはそれを自分の娘の友人だと。
つまり、それが……
「マジか……しかも、ウマシカはオウテイさんの兄で……そんなウマシカの正妻にシノブの同級生……父親と娘程の年齢差……犯罪だろうが! なんだそれは気持ち悪いなぁもう!」
昨日は口に出さなかったが、こういうことになってくるとやはり口に出さずにはいられない。
そして、ウマシカの話はそれだけじゃない。
『マクラは戦後の時代に生まれた、いわば新時代の娘でおじゃる。そしてその新時代の娘がまた新たな子を生んで永劫のジャポーネの繁栄を築くでおじゃる。その新時代にふさわしいものを築くため、朕は今の古臭い後宮を潰して新たに倍の大きさの後宮を作るでおじゃる! そこに国中のオナゴを集めるでおじゃる!』
後宮ってたしか……后妃とかが住んでる場所だよな。それを新築する? まぁ、勝手に……
『とはいえ、その資金調達にあたって朕は気付いたでおじゃる。国民からの納税が少ないでおじゃる。もっと増やすでおじゃる! 倍でおじゃる! そうやって、後宮を始め、これからはどんどん国家のための開発も進めるでおじゃる! ジャポーネには使ってない土地もいっぱいあるでおじゃる! 何の開発もしないで放置するだけの土地なんてもったいないでおじゃる。ジャポーネにある土地は全部朕の土地でおじゃる!』
こっちがどうやら本題か。
つうか、この状況下で税金上げるとか何考えてんだ?
『そして、え~っと……何て言えば良かったでおじゃる? うん、うん、おお、そうでおじゃる!』
と、そこで何かウマシカは話す内容を忘れてしまったかのような素振りを見せるが、すぐに頷いて……
『しかし、その税の回収に今の人数減った戦士での対応難しいでおじゃる。そこで、民間団体に委託し税の回収……状況によっては差し押さえを行う、民間税務部隊を設立するでおじゃる! その部隊には他国の者もいるが……そこはグローバル化でおじゃる!』
その宣言はまさに強制執行。
逆らうことは許さない税の徴収。
「……兄者ァ!!」
そんな話を聞かされて、怒りやら呆れやらで頭を押さえているオウテイさん。
まぁ、あんなのが血の繋がった身内となると、流石に嫌になるよな。
そして……
「国王の宣言は予想外過ぎたけど……ただ、ジャポーネの混乱で近々土地の所有やら私有地だから誰も入っちゃダメとか……そういうのが通用しなくなると思っていたけどね……」
「族長……」
「そうなると税を納める云々の前に、この地にエルフが居ることがバレる。そうなると……また十数年前のように逃げるか……それとも抗うか……ただし、今回戦う相手は国家になるわけだけどね」
驚きはしたものの、族長はある意味で想定内だったようだ。
本来ジャポーネ側から追われている身のオウテイさんたちを招き入れたのも、そういう予想あってのことだったようだ。
「なんか、すっごいこと言いだしたね。コジローもミカドのおじいちゃんもいないジャポーネ戦士なんて組織的に崩壊すると思ってたけど……民間委託はビックリだね。そして……」
「それをやるのがシテナイの組織……っていう流れになるのかな?」
エスピとスレイヤも呆れながらも今後のことについて真剣に考えている様子。
そう、確かに昨日の様子だとそんな気もする。
だけど……
「でも、あいつの依頼はコジローたちをこの国から逃がさないことまでで、今後はもう関わらないって言ってなかったか?」
「確かにそうだけど、あんな信用できない人の話を真に受けるのもね……」
エスピとスレイヤは昨日のシテナイが絡むことになるだろうと予想している。
俺もそうなんだろうな~とは感じている。
だけど……
――分かった。弊社はその地には今後携わらないこととする。取引でウソはつかない。それに、今回の依頼はここまでだからね。これ以上はジャポーネの内政にも俺たちは干渉しない。何もしない
信用できない相手だが、ウソを言っているようにも見えなかった。
「う~ん……」
ダメだ。てか、俺なんかが考えて分かるわけないか。
『トレイナはどう思う?』
『う~む……今の時点ではな……余も貴様の言う通り、あの男がウソを言ったようには見えぬ……まぁ、そこら辺は言葉遊びの誤魔化しもあるかもしれぬ。たとえば、シテナイの組織が実務を行うのではなく、シテナイを仲介してどこかの連中に丸投げしているとかな』
『ああ、なるほど……』
『それが他国の……それどころか、他種族の連中なら面白いな。角の生えた鬼連中とかな……』
『……そ、それはシャレにならねぇような……』
流石にトレイナも今の状況だけで確定的なことは言えないか。
ただ……
『ただ、それよりも……投影魔法を通してである以上、確信的なことは言えぬが……』
『ん?』
『気になるのは……あのウマシカという男……』
トレイナはそれだけではなく、俺たちとは違うポイントを気になった様子。
その点とは、
『正直バカすぎる……ここまでいくと返って不自然だ……まぁ、その方が都合のいい連中が居るのだろうが……』
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