第396話 まだ半分

「おれの名はラガーンマン! ときをこえてこのじだいにやってきた、お前のさいごをうけとめるおとこだ~!」


「ろっくんろーる! うおおお、あっちー!」



 集落の中心で子供たちが皆の前でワチャワチャと劇をしていた。

 演目は「ラガーンマンの大冒険」。子供たちの大好きな物語とのことで、子供たちはとても張り切っている。


「うむ、練習の成果が出ているな」

「いいぞー! がんばれー、ラガーンマン!」

「そこで大魔螺旋だよ!」

「上手上手~! ね、ノジャちゃんも楽しいよね?」

「グルル~♪」


 先生モードのラルウァイフは温かいまなざしで子供たちを見守り、エスピとスレイヤは童心に帰っているかのように声援を送り、アミクスもニコニコでノジャも興味津々な様子。

 集落の大人たちも子供たちの劇に微笑ましそうにし、体を休めている忍者戦士たちも子供たちの余興に心を癒されている。

 一方で……


「……まぢなの? ハニー……」


 頭を抱えて暗い影を落としている四人。



「信じられないわ……いえ、ハニーの話だから信じるけども……勇者ヒイロに討たれた……となっていた魔巨神ゴウダは実は生き延びてたけど……」


「シソノータミでお兄さんたちがそのゴウダと遭遇し……」


「その最後を受け止めるべく戦い……」


「……そして、六覇を討ったと……とんでもないな~、お兄はん」



 シノブ、コジロー、オウテイさん、カゲロウさんの四人は引き攣った表情で子供たちの劇を見ていた。

 


「ハニーってばどういう人生を……何でそんな日々ばかりを……」


「お兄さんさ~……古代の技術で過去に行ってしまったとか、もうそういうレベルではないじゃない。完全に歴史を左右……人類と魔王軍の戦争を左右させる出来事にガッツリ関わってるじゃない……」


「そうでござるな。というよりも、アース・ラガンくんがその時代に行かなければ、人類は敗れていたのかもしれぬでござる。実際、魔巨神ゴウダのことだけでなく、エスピ殿もアースくんがいなければどうなっていたか分からなかったわけで……」


「しかも六覇の一人を討っとる……お兄はん、もう完全に七勇者やなくて八勇者やないの」



 いい意味で驚かれ、そして称賛されるのは悪い気はしない。

 ましてや、八勇者なんて呼ばれたのは初めてだしな。

 まぁ、だからってウカれるもんでもないしな……



「そうね、ハニー。ハニーがその時代にいなければ、七勇者の誰かが欠けていたのかもしれないし、そうなれば魔王軍にも大魔王にも……ハニー?」


「…………」



 ウカれる気分じゃないのは、まず一つとしてゴウダのこと。

 あいつと戦い、あいつと力の限りぶつかり合い、そしてお互い出し合ったあの瞬間は、俺にとっても生涯忘れられない誇りでもある。

 だから、それでウカれるのは、何だかあいつを安っぽく感じちまうしな。

 あの時の俺もゴウダも、そんなもんじゃなかった。

 それに……



『……おい……』


『……わーってるよ……』



 トレイナは決してそんなこと言わないし認めない。

 だけど、やっぱり「俺が居なければ人類は魔王軍にも大魔王にも勝てなかった」って言われるとどうしても……



「……ハニー」


「なんでもねぇよ、シノブ」


「むぅ……ふーん……そうなのね」



 それを誤魔化すように俺も精いっぱい笑って見せた。だけど、そんな俺にシノブはちょっと訝しそうな目つきで覗いてきた。

 だけど、少しジッと見つめて来たかと思えば、シノブはすぐにプイッと顔を背けてそれ以上は追及してこなかった。


「ん? シノブ?」

「あら、何かしら?」

「あ、えっと、いや……」


 自分から追及して欲しくないような態度を取っておきながら、シノブがアッサリと引き下がったのでそれはそれで何だか気になったので逆に俺から聞こうとしたら、シノブは微笑んで人差し指を俺の唇に当ててきた。


「何でも知りたがって、男の秘密すらも暴こうとする女なんて、面倒くさてウザいでしょ?」

「……ッ……」

「私にも知って欲しいって君が思ってくれる……私が君にとってそんな女になれたら教えてね」

「っ、あ、ぅ……」

「あら? 照れてくれているのかしら?」

「て、てれてねーよ」

「うふふふ、まっ、そういう意味でもっと互いを知り合うという意味で……交換日記、次は君のターンだからね?」

「あ……ああ……」


 照れたよ。いや、なんかもう最近はほんと、妹と弟と一緒に居過ぎて、最近出会ったアミクスはどっちかっていうと崇拝みたいなちょっと違う感じになってるし、ノジャはアレだし……なんかこういうの……照れる……



「あのシノブが惚れちまうのも分かるってもんじゃない。そう思うんじゃない? 旦那?」


「……おやおやでござるな……」


「我がストーク家にふさわしい殿方でないとシノブの相手に認めない……な~んてセリフを親として一度は言うてみたいと思っとったんやけど……どうか娘を貰ってくださいとこっちが頭を下げるほどの逸材やな~……ん? コウカンニッキ?」



 やめてくれ。シノブの両親に目の前でそういう反応されたらもっと困る。

 コジローまで冷やかすように……


「とはいえ、シノブの言う通り……お兄さんのことは、『半分』ぐらいは分かったって感じじゃない」


 と思ったが、そういうわけでもなく、コジローは少し真面目な顔でボソッとそう呟いた。


「半分?」

「どういうことなん? お兄はんは色々と話してくれたやん」


 そう、俺もだいぶ話したと思っていたから、コジローはまだ俺のことを半分ぐらいしか分からないと言ったのは意外だった。

 でも……

 

「今のシノブとお兄さんとのやり取りでもあったが……オイラとしても気になるのが……お兄さんがあえて未だに語らない、ヒイロとマアムの前から……帝国から出て行った要因でもある……その根幹」


 言われて納得。そこまで言われたら俺もコジローが何を気になっているかが分かった。 

 どうして、俺が大魔王トレイナの技を使えるか? だ。

 そればかりは確かに言えないな。


「で、『そのこと』をエスピ嬢とスレイヤ氏は知っているかい?」

「いや、『まだ』知らない。あいつらも気になっているだろうけど、あえて追及してこない」

「ほぅ」


 今はこんな感じになっちまってそれどころじゃないかもだが、タイミングを見て近いうちに必ず俺は……



「旦那様、頭首、コジロウ様! たった今、戻りました。そして、ご報告申し上げます」


「むっ……うむ」



 と、そのとき、数人の忍者戦士たちが風のように現れ、コジロウたちに片膝ついた。

 それを前に、さっきまで冷やかしだったり親の目だったり驚愕だったりの顔を浮かべていた、コジロー、オウテイさん、カゲロウさんの顔つきが変わった。



「しばらく麓の近隣の街や村まで監視しておりましたが、例のシテナイに雇われて集まったハンターたちは本当にそのまま散り散りになって解散したとのことです」


「ほぉ……まさか、本当に何も干渉しないつもりってことじゃない?」



 まずはシテナイのこと。どうやらあいつ、本当にこれから先のことには干渉しないってことか?

 まぁ、とりあえず引き下がってくれたのは良かった。

 だけど、話はそれだけじゃなかった。



「そして、丁度先ほど本国で待機中の同志より魔水晶での報告がありました。拘束されていたミカド様についてです」


「ッ! ……続けるでござる」


「はっ! 反国民派のデモが大きくなる混乱に乗じて、拘束されているミカド様の解放、もしくは現状把握のために幽閉場所へ赴いたとのことですが……既にミカド様はどこかへ移送された後とのことで、現在行方が掴めないそうです」


「なに? ……ミカドが……」


「はっ。現在可能な限り捜索を試みようとしているとのことですが……」



 昔話しばかりではなく、そろそろ明日からのことも考えないといけなくなってきた。

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