第393話 幕間・続(女忍者)
「ん~……だいしんかんさま……めがみさま……んにゅ……おにいちゃん……」
どんなに元気でも、遊び疲れて寝てしまった様子。
寝言を言いながらも完全に熟睡しているアマエの頭を撫でながら、私は胸が締め付けられた。
「ごめんなさい……アマエ……」
寂しい思いをしているこの子をケアしてあげたい……私はそのつもりだった。
でも、私はこれほど懐いてくれたこの子にまた悲しい思いをさせてしまう。
「必ずまた一緒に遊びましょう」
そう、私は滞在していたこのカクレテールから離れなくてはならなくなった。
それも全ては兄さんからの報告。
最近になって帝国との交流が始まったとはいえ、このカクレテールでは新聞などが届かず、世界の情勢や情報などは遮断されている。
一応、復興支援のための帝国の船が停泊しているとはいえ、情報が来るのはどうしても遅くなる。
その結果、まさか私は生まれ故郷であるジャポーネで何が起こっているのかも分かっていなかった。
それは全て、数時間前の兄さんから……
――ミカド様とコジロウ様が免職となり、全ての権限を剝奪され、拙者が得た情報では国王が父上を国家転覆を企てていると申し、討ち取ろうとしている。現在、一足早く危機を察知したコジロウ様と共に、父上、母上、そして門下の者たちが逃亡中とのことだ
元々、忍者戦士が時代の移り変わりとともに冷遇されるようになり、更にはウマシカ国王の代になってから私たちの国に対する忠義も薄れ、結果的にジャポーネに見切りをつけてお父さんとお母さんに迷惑をかけることを承知して世界へ旅に出た私と兄さんたち。
だけれど、こうなっては話が変わってくる。
――父上と母上を見捨てることはできぬ。拙者はジャポネーに……父上と母上の元へ行くつもりだ。イガやコウガたちも共に来てくれる……が……もし、お前も戻ろうとしているなら……そしてまだ、こっちの大陸に渡っていないのであれば戻ってくるなと言っておきたかったでござる。既に大陸の主要な港は奴らの監視が張り巡らされており、当然父上と母上の子である拙者らも顔が割れている。見つかれば即首を斬られるでござる。拙者らもあと一歩『帰ってくる』のが遅ければ、どうなっていたか……
そう、国王の命令でお父さんを討とうということは、それはジャポーネ王国そのものがお父さんとお母さんの命を狙っているということ。
その対象は当然、私と兄さんも入っている。
だけれど、兄さんたちはギリギリで上陸することが出来たようね。
でも、私は……
――お前は……恋に生きると宣言した……お前が幸せならそれでも構わぬと思っているでござる。ただ、もし状況を知らないのであれば……場合によってはお前と話をするのもこれで最後だと思い、こうして話をしたでござる
うまく逃げられればいいかもしれないけど、それが出来ない可能性だって十分にある。
だからこそ、これで最後かもしれないと兄さんも……
なら、どうする?
「サディスさんもいるし……非常に面白くないけれど、フィアンセイ姫への書置きも終わったし……どうか、アマエを……改めて心のケアを頼むわよ」
私の答えなんて決まり切っていた。私は帰るわ。
「師匠に挨拶ぐらい……と思ったけど、夜はいつも散飛しているし……まぁ、実戦経験積んで帰ってきますということで、許してもらうしかないわね」
でも、私はこれで最後にしない。私は帰るけれど、必ず生き抜くと心に誓った。
「途中で飛行能力のあるモンスターなりを手懐けないといけないわね……カクレテールにはいないし、師匠にお願いするわけにもいかないし、天空族の人たちにお願い……でも、フィアンセイ姫たちには気付かれたくないわね」
そして、帰るにしても私は一人で帰るつもり。
フィアンセイ姫たちに気を使わせたくないし、帝国の民である彼女たちもジャポーネの内政には関われないでしょうしね。
「さてと。それじゃあ、気付かれないうちにそろそろ出ようかしら。私物以外で……特に持っていくものはないし……あっ……」
私は自分の荷物を最後にチェック。武具の類や旅の道具も一通り問題なし。
そして……
「そういえばコレ……最初に数回交わしただけで、全然続いていないのよね……」
私はまだ白紙のページが目立つハニーとの交換日記を見つけた。
男女交際はまず交換日記からという奥手なハニーの要望に応えるために私から始めたもの。
それを抱きしめるだけで心が熱くなってしまう。
「そうよ……アマエとの約束だけじゃない……ハニーとだって……」
私が死んで、クロンさんの不戦勝なんてさせない。
サディスさんの棚ぼた勝利なんてさせない。
フィアンセイ姫にだって……
そう思った私はある大事なことを思い出した。
「そうだわ……私、最近バタバタしていてすっかり……ハニーには時空間転移用の印をこっそりマークしていたのよね……」
それを使えば瞬間移動のように一瞬でハニーの元へ飛ぶことができる。
ただし、そのマークは一人一つまでしかできないので、例えばこの地にマークをして、カクレテールでお父さんとお母さんと合流して一緒に時空間転移でここに飛んでくるなんてことはできない。
そのためには、一度付けたマークを……ハニーにつけたマークを消さなければ使えない。
本来ならずっと付けておきたい。
だけど、今後の逃走のことなどを考えたら、一度ハニーからマークを消した方が良いのかも……そのためには……
「この交換日記をハニーに渡してから……ハニーともう一度だけ会って、必ず生きてまた再会するという誓いを立てて……マークを消す……ハニーと一度会って……」
ハニーと会う。元々抜け駆けのつもりで付けたマークを、この場で使うことになるなんてね。
本当なら少しは成長した私を見てもらってイチャイチャラブラブしたいけど、そんな状況ではない。
「パッと会って、パッと消えるぐらいじゃないと、私はきっとハニーに甘えてしまう。ハニーに助けて欲しいと縋ってしまうかもしれない」
だけど、そんな迷惑をかけられないし、そんなか弱い姿をハニーに見せたくない。
何のために私は修行していたのか分からないもの。
だからせめて、ほっぺに……ううん、軽いハグ……それぐらいで我慢ね。
「時空忍法・時空間転移術ッ!!!!」
そして私は膨大な気の放出と引き換えに術を発動。お世話になった人たちに何も告げずにカクレテールを後にした。
そして、さっきも決めたようにハニーに会って、でも長居をしないですぐに退散する。日記帳を渡して。
その次にハニーと再会するときは、お父さんとお母さんも一緒ね。ハニーを紹介したいもの。きっと二人とも気に入ってくれると思うわ。
時空間の切れ目の奥に広がる暗黒世界に飲み込まれ、そしてやがてその先に見える光の穴を目指して私は飛び出した。
「―――あんたのその娘なんだけど……名前はひょっとして……」
ハニーの声が聞こえる。嗚呼、ダメ、心をしっかり保たないと。
じゃないと、触れたくなる。抱きしめたくなる。もう、全てを差し出して契りを交わしたくなってしまう。
「うわ、な、なんだ!?」
「ちょ、お兄ちゃん!?」
「お兄さん、なんか空間が歪んで……!?」
あら? ハニーは一人じゃない? 誰かと一緒に? お兄ちゃん?
「これは、時空間忍術や!?」
「バカな! アースくん、君の体に……マークが!? 一体誰が……いや、この高等忍術を現在使用できるのは……ッ!?」
ん? あら? あら? え? なんか……あれ? ものすごい聞き覚えのある声が……幻聴?
ただ、私は訳が分からずに空間の狭間から外へ飛び出した。
そして……
「「「「「え……?!」」」」」
そこは天井があった。どこかの部屋? 家? どこの?
いえ、それよりも……
「……シ……シノブッ!? お、お前、何で……」
「あ……」
そこにはハニーが……ッ!? え!? なに? ハニーの身に纏う雰囲気が、最後に会った時よりも遥かに凄みが増している?
え? なんかもっと逞しくなっている?
ウソでしょ? もっとカッコよくなって……あぁ、もう十分好きだから、十分好きなのに、本当はパッといなくならなければならないのにどうして強く激しく抱かれたいって思わせるぐらいに素敵な男の子になっているのよ、ハニーは! 反則よ!
でも……
「ふふふ……ごめんなさいね、ハニー。驚かせて。ちょっと事情が……」
私は毅然とした態度を……
「シ、シノブ!? あんた、何しとるんや!?」
「シノブ、お、お前は、どうして!? どういうことでござる?!」
ん? そのとき、背後から聞こえたのは、やはり幻聴でもなくて……振り返ると……
「お、お父さんッ!? お母さん!? え、な、なぜ?!」
私の愛するハニーと一緒に、何故かお父さんとお母さんが居た。
よく周りを見渡せば他にも……
「あれ!? あなた、カクレテールで会った……シノブちゃん!?」
「なに? では、エスピ……あれがお兄さんのお嫁さん候補の……」
「シノブ、こ~れは驚きじゃな~い!」
「な、なんか……誰? お兄さん、どういうこと?」
「誰? い、いきなり何もない所から現れて……し、しかも、アース様を……ハニーって……」
「コンコン?」
え!? これ、一体どういう状況なの!?
――あとがき――
※すんません。5月10日の朝7時に設定してたんですが、文章修正したりしてたら公開されとったみたいです。既に十件も感想もらって今さら非公開にするわけにもいかないんで、このままにします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます