第376話 幕間(狐女)
魔族側百人。責任者は元六覇のわらわ。
帝国側五十人。責任者は七勇者のベンリナーフ
これに、後に合流するジャポーネから五十人の調査員。責任者は七勇者のコジロウ。
この面々でシソノータミを調査する……はずだったのじゃ。
人間と魔族の友好も、世界の真理がどうとかに関わるシソノータミの遺跡を共同調査とか、わらわはぶっちゃけどうでもいいのじゃ。
何故なら、わらわが自ら強く立候補してこの遺跡の共同調査に来た理由は、全てが十年以上も前から耐え抜いた望みを叶えるためなのじゃ。
もう、我慢はしないのじゃ♡
――大魔螺旋!!
帝国アカデミーの毛が生えたか生えてないかのガキどものお遊戯会だか御前試合だか何だかで、わらわの望みが叶うカウントダウンに入った。
かつて、わらわの乙女の禁断の地を容赦なく蹂躙して撹拌してズボリュンヌしたアレ。わらわを辱め、それどころか人生観や性癖すらもメタメタズッボズボしたアレを再びわらわは目にしたのじゃ。
――あの技は、どういうことだゾウ!? なぜ、ヒイロの息子が……なぜ!?
魔界で共に魔水晶を通じてあの試合を見ていたライファントは衝撃に打ち震えていたのじゃ。
だが、その傍らでわらわはすっとぼけた顔をしながらも、やはり内心は悦びで打ち震えていたのじゃ。
そして、果てしなく尻が疼いた……ではなく、胸が疼いたのじゃ。あっ、やっぱ尻。
かつて、わらわがヒイロとマアムの結婚式をぶち壊そうとしたとき、そんなわらわの前に立ちはだかったエスピとスレイヤの言葉は全て本当だった。
何故、アース・ラガンが大魔王様の技を使えるかはあの二人も知らなかった。それはたしかに謎のままなのじゃ。
だが、そんなものはわらわにとって、大事の前の小事。それはそのすぐ後に連絡を取り合ったエスピたちも同じ気持ちだったのじゃ。
あの二人も興奮して泣いていたのじゃ。
そこからはもはや一日一々が待ち遠しかったのじゃ。
アース・ラガンが家出して帝国の監視や邪魔なヒイロやマアムたちの手からも離れた時点で攫いたかったのも我慢したのじゃ。
我慢して我慢して限界まで我慢に達した時にするおしっこが気持ち良いように、ここまで我慢したら気が狂おうとも待ってやろうと思ったのじゃ。
そして……
――なに!? 帝国とジャポーネとの共同遺跡調査にお前が行くと? どういう風の吹き回しだゾウ?
――イツモオヌシバカリニ政治ヲヤラセテ申シ訳ナイト思ッタノジャ。ダカラタマニハワラハ仕事スルノジャー
――う~む……変なことを企んでいるのではないゾウ? お前が過去に執着していたヒイロは、家出した息子を探したりで今回の共同調査には参加しないゾウ?
――ああ、もうヒイロには興味ないからいいのじゃ。今のわらわは……人類ト魔族ノ友好ニ少シデモ協力シタイダケナノジャー
――そ、そうか……うむ、ならばありがたいゾウ。向こうはヒイロとマアムはいないとはいえ、七勇者を一人か二人参加させるとのことで、こちらも相応の地位のものを派遣しなければならなかったゾウ
わらわは堂々と地上へと来ることができるようになったのじゃ。だが、真面目にいい子になるものこれで最後なのじゃ。
全ては……十数年前の責任を取らせるためなのじゃ。
泣いても赦さぬのじゃ。
この十数年で考え付く限りのお仕置き、そして玩具も沢山制作したのじゃ。ラガーンマン……いや、アース・ラガンを泣いてよがらせて、涎垂らして四つん這いになってわらわに尻振りながら足の指を始め全身をペロペロと……ぐへへへ♡
だから、ぶっちゃけ地上に来て、そしてエスピとスレイヤとかつて部下であったラルウァイフがコソコソとしているこの大陸……かつてわらわの人生を変えたこの大陸に来ることさえできれば、あとはもうどうでもいいのじゃ。
遺跡の調査も含め、いつトンズラしてあやつを攫いにいくかだけなのじゃ。
だから……
「こ・れ・は……まずいですねぇ……いや、予想外……ふむ……困りました」
廃墟となっているシソノータミ遺跡。これから魔界新政府と帝国、そして合流してくるジャポーネ王国と共に共同調査を始めようというのに、わらわたちの元へ届けられた急報を聞いて、帝国代表として調査隊を指揮するかつてのわらわたち魔王軍の天敵にして、七勇者の一人……
「コジロー……そして、ミカド様まで……ジャポーネ王国のウマシカ国王もとんでもないことをなされたものですねぇ……」
好みではないが、美形の童顔優男。魔導士のローブを身に纏い、常にニコニコ余裕綽々飄々として掴みどころのない男。
七勇者最強の大魔導士として世界に名を轟かせる、『ベンリナーフ・ミーダイ』が、珍しく困ったような表情をしている。
「ベンリナーフ様! 先ほど新しい情報が入りました。諸国行脚に出られていたミカド様が急遽帰国され、今回の決定に不服を申し立てたところ……なんと、国王の命でミカド様の身柄が拘束されたとのことです!!」
「ッ!? おやおや……それは……なんとも……」
「しかし、これは流石にミカド様を慕う配下や国民から激しい反発が起きて、現在ジャポーネ王都では大規模なデモや反乱が起きているとのことです」
「なるほど……いや、これはもう共同調査どころではありませんねぇ……で、コジローは?」
「それについてはまだ……」
なんか、あのミカドのジジイ、そしてジャポーネ王国で何かあったようなのじゃ。
まぁ、あの国の今の王は稀にみるアホとか暗君だとかは聞いたことはあるが……まっ、愚か者はいつの世にもどこにでもいるということで、そんなことよりわらわはもうさっさとここから離れたいので、あんまり面倒なことは……いや、むしろこの混乱は抜け出す絶好の機会では?
「ノジャ。せっかく来ていただいているあなたには申し訳ないですね。まさかこのようなことになるとは……」
「ん? ああ、別に……」
「あまり他国の政治に口出しはできませんが……あの国は一体どうしたと……あの二人とウマシカ国王の関係は良好ではないと聞いておりますが……流石にこれは……あの二人を失えばあの国はどうなってしまうと……いや、それどころか世界の均衡も……」
問題は、既に例の時を越えるアイテムとやらで、アース・ラガンが過去へ行って、そして戻ってきているかどうかなのじゃ。
エスピとスレイヤはその時が来れば教えると約束したが……まぁ、もし教えてこないでそのまま逃げるというのであれば……
「ベンリナーフ様、どうされます?」
「ソルジャ皇帝陛下の判断に委ねるにしても……しばらく待機しかないでしょう。下手に口出ししてはジャポーネと帝国の関係も危うくなりますし……しかし、もしミカド様、そしてコジローの身に何かあればその前に私が……と、いうわけにもいきませんね。こういうとき、ヒイロとマアムがいれば二人とも考えないで無理やり二人を救いにいくのでしょうけど、あの二人も今は……」
う~む、こやつはこやつでかつての戦友でもある二人を心配して、本当はすぐにでもワープでもしてジジイを無理やり牢から助けてやりたいところなのだろうが、ジャポーネと帝国の両国関係の悪化、最悪の場合は戦争とかそういうことも気にして不用意に動けぬことに歯噛みしている様子。
「内政干渉と言われても、どうにか連合として外交による説得で解決したいものです……ウマシカ国王が、十数年続いたこの平和の世を乱すような方ではないと信じたいものですが……」
わらわとしてはこやつには、ヒイロとマアムのアホ二人のように何も考えないでピューっと二人を救出のためにこの場からどっか行ってくれた方が嬉し――――
「残念だが、それはない。最強や能力に秀でたものではなく、世襲により王を決める悪しき文化がある限り、必ずどこかで綻びが生まれるのだ」
「「「「「ッッッ!!!????」」」」」
「ジャポーネ王国も……ベトレイアル王国もそうであろう? 唯一の手駒であった七勇者の小娘に絶縁されているのだからなぁ。まぁ、ジャポーネに関しては吾輩らも少々工作させてもらったのだがな」
そのとき、わらわは十数年間抱いていた望みの前に、コジロウやミカドやジャポーネのことすら大して気にも留めていなかったというのに、このときばかりは全身の悪寒と衝撃を抑えきることはできなかった。
「ッ!? な、あ……え? う、うそ……なのじゃ……な、なん……で……」
「ッ!!?? ば、ばかな……お、お前は……まさか……まさか!?」
それは、わらわだけではない。
その場に居た魔族。人間。もちろん、ベンリナーフも同じなのじゃ。
「ただ、吾輩からすれば帝国も愚かさではあまり他国のことを言えぬと思うがな。技のルーツは不明であるが、最も輝く異彩を放っていた若者を罵倒する心の狭い民度……そして、勇者が自分の子供の家出に右往左往している体たらくなのだからな」
その『怪物』は、何の前触れもなく、それどころか一体いつその場に現れたのかも分からない。
だが、気付けばわらわたちのすぐそばに、あやつは現れた。
「しかし、まぁ……この時を待っていたぞ……かつての大戦で白旗上げて魔界を人間の従属界にしたライファントとノジャ……お前たちのどちらかが魔界から離れる時をな」
「な……なぜ……き、貴様が……ここに……」
全身の毛が逆立つ。震える。わらわですら圧し潰されそうなほどの圧倒的なプレッシャー。
部下たちも次々と恐怖に震えて腰を抜かしてしまっているのじゃ。
息苦しい。大気が震える。
だが、それは当たり前のこと。
そして、なぜこやつが……
「まずはお前たちから始めるとしよう、ノジャ……そしてベンリナーフよ。二人まとめて平伏せさせてくれよう。言っておくが、ジャポーネからの援軍はないぞ?」
何故……なぜ……わらわの望みがようやく叶うという時に?
なぁ、ラガーンマン……アース・ラガンよ……
本当だぞ? 本当にわらわは……
素顔のおぬしと会ってみたかったのじゃ
あとがき
異動により引っ越し作業終わりました。まぁ、まだ引継ぎで色々と行ったり来たりな生活は続きますが、ぼちぼち……ゆっくり……のんびりと頑張ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます