第330話 幕間(ハンター少年)

「うわああああ、ふわふわ世界! ふわふわ乱舞ッ!」

「インフィニティブレイドサイクロンッ!」


 いつもなら、エスピと張り合ってお兄さんにいい所を見せようとしていたのに、今では二人で必死になって抵抗している。

 だけど……



「活ッッ!!!!」


「「ッ!?」」



 ボクが無数の刃を生み出して、それをエスピが操作して四方八方から相手に放っても、雄叫び一つで鉄の刃が全て砕け散ってしまった。


「玩具遊びはもう終わりか?」


 ノジャと僅かでも交戦したことで、六覇という力がどれほどのものなのかはこの身で存分に味わった。

 今のボクでは相手にならない。

 それは分かっていた。分かっていたのに、エスピと二人がかりでもこれほどの差が? 

 しかも、相手はまるで本気を出していない。


「はあ、はあ、はあ……ぐっ……」


 ハンターとして数多くのモンスターや賞金首を倒し、自分の力に多少なりとも自信を持っていた。

 なのに、その自信が砕け散った。お兄さんと出会ってから、こんなことばかりだ。

 特に、今回ばかりは次元が違い過ぎる。

 これが……


「では。死んで腐敗した肉になるか……喰われて吾輩の血肉になるか……どっちがよい?」


 これが、六覇最強の怪物。白き鬼皇・ハクキ。


「あ……あ……ス、スレイヤくん!?」


 ダメだ……怪我とかそういうもの関係なく……心がもう……動けない……抵抗できない……立ち上がれない……殺される。


「あ……う、あ……」


 殺される!

 今さら死ぬことなんて怖くないと……むしろ、死んだ方が楽ならばと命を粗末に仕掛けたことはいくらでもある……なのに……こわい……


「お……おにいさ……」


 やだ……死にたくな――――



「さぁ……選ぶが―――」


「腹が空いてないなら、殺すな食うな」


「……お?」



 え?


「そして森を、山を、自然を荒らすな……って言っても無駄か。世界や生態系を荒らしている連中にはね」


 急にボクの背中を何かが……え?


「クケエエエエ!」

「え?! と、鳥!?」


 きょ、巨大な怪鳥が僕の背中を掴んでそのまま空へ……え?


「スレイヤくん!? え? なんで?」


 こんな時に何が? ボク、鳥に襲われて攫われて? いや、何か雰囲気が違う。

 それどころかむしろ今、鳥がボクを助けたように……


「ガルルルルル!!」

「ガアアアアアッ!!」

「グルルルル!」


 ッ!? アレは……ハクキを取り囲むように、集落の周囲の森から狼や、ワイルドグリズリー、火竜やレッドパンサーなどの凶暴な獣やモンスターたちが次々と現れている。

 それに、上空にもボクを掴んでいる怪鳥以外にも、鋭い爪を光らせた巨鳥が次々と現れている。


「こ、これは……」

「な、なんで? 動物さんがいっぱい……」

「ッ!? こ、これは、なんだーべか?」

「な、に?」


 ボクもエスピも、そしてあのアオニーという鬼やダークエルフや他のオーガたちも突如現れた獣やモンスターの群れに戸惑っている。

 これは……


「あ~~、もうほんと……憂鬱……」

「ほう……」


 あの人か……


「あなた!」

「族長!?」


 族長が、多くの動物やモンスターたちを従えてハクキを取り囲んだ。

 あの人……動物の言葉が分かるって言ってたけど……こんなことも?

 でも……


「鳥たちよ、時間を稼いでいる間、今すぐ皆を――――」

「時間など、稼げると思ったか?」

「ッ!?」


 次の瞬間、白い閃光が視界に広がった。

 目を奪われたのは一瞬。

 だけれど、その一瞬で、ボクを掴んでいた鳥が突如破裂したようにバラバラに砕け散った。


「イナイの報告で、エルフにオーガの天敵である伝説の剣士・ピーチボーイと同じモンスターテイマーが存在する可能性を抱いたが、どうやら本当のようだな」

「あんた…………」

「もっとも、戦争や吾輩の部下たちにとっては脅威でも、吾輩からすれば野生の誇りと牙を失った下等種族の群れが集まったにすぎん」


 そして、鳥だけではない。


「仮に、伝説と同じでケルベロスや猿神たちを引き連れても吾輩の敵ではない!」


 集った動物やモンスターたちの内の数十匹が、何の抵抗をする間もなく、吼える間もなく一瞬で肉片と化して集落を血の海に……


「あっ……」

 

 あれだけの数で取り囲んでも、ハクキに対して何の意味もない。

 まだ生き残っているドラゴンや動物たちも、怒り任せに飛び掛かることもせず、後ずさりしてしまっている。

 恐れているんだ。どうにもならない圧倒的な力を前に。

 当たり前か……確かに動物やモンスターたちは多いけど、これぐらいなら、ボクやエスピの方が……そのボクたちですら手も足もでないのに……


「で? どうする? 殺されるか? 喰われるか? 大人しく捕まるか? 依頼では、若い女以外は抵抗すれば殺しても構わんということになっていてね」

「………………」

「捕まれば、とりあえず死ぬことはない」

「でも、死んだ方がマシな日々が来るかもしれない……でしょ? はぁ……ごめんよ……動物たち」

「ん?」


 なんだ? 族長の目の色が変わった?

 

「俺の所為で……ゴメン……皆を死なせて……でも……こいつだけは……」

「死ぬ覚悟で貴様自身が何かをするか? ほぅ、モンスターテイマー以外に何かできるのか?」

「……立場上……とりあえず、足掻いとかないといけないんで」


 族長自身が戦う気か? 確かに、族長には何かがあるような気がする。

 他のエルフたちと違って、力が見えないし、分からないとも思っていた。

 でも……


「なるほど……やはりただのエルフではなく……天空族の中でも異端児だったヤミディレのように……シソノータミの古代人たちが隔世遺伝で仕掛けた何かの……だが、それがどうした」


 無理だ。殺される!


「……死ななかったとしても……嫁や皆を凌辱なんてさせたくないんで」

「あなた!?」

「みんな、今すぐ―――」


 そして、族長も分かっているんだ。勝てないってことを。

 でも、せめて皆を逃がそうとして……ボクたちのことも……自分は足止めをするつもりか!


「覚悟はあるか。よし……嬲った後に、エスピとスレイヤと一緒に喰って血肉にしてやろう」


 でも、ダメだ。あんなバケモノ、足止めすることも―――――



「誰の妹と弟を食おうとしてやがるこの変態クソ野郎がああああァアアアアアアアッッ!!!!」


 

 あ……


「あっ!?」


 そのとき、族長に襲い掛かろうとしたハクキの死角から、突如起き上がったお兄さんがアッパーを繰り出した。


「お兄さん!?」

「お兄ちゃん!?」

「お、おお、お兄さん、あんな状態だったのに、もう……」


 お兄さんが起きてくれた。

 そして、ハクキの顔面に拳を……いや……


「ぐっ、か、かっ……かってぇ……」


 殴ったお兄さんの方が顔を歪めて……対してハクキはまるで動じてない。それどころか嘲笑っている!?

 

「うおぉ、お、こ、拳が潰れ……なんって固さしてやがるんだ、こいつ……」


 拳を抑えながら苦笑しているお兄さん。

 そうだ……ボクもそうだった……造鉄で作り出した剣で切りかかったとき、ハクキに傷一つ付けられなかった。

 あの強固な肉体の前に、攻撃した自分の方が……



「ふふ、吾輩に対して武器も持たずに拳で殴り掛かるとは、大した度胸だ。おまけに殴った拳の骨が折れていないとは、なかなか鍛えられているな。随分と不細工な面構えになっているが、アオニーをあんな状態になるまで追いつめたのも頷けるな」


「ぐっぅ、にゃろう……」


「だが、落ち着きが無いな。意識を取り戻した直後に状況確認もせずに攻撃してくるとはな」


「うるせーよ……おしゃべりなオーガが……つか、状況まるで分からねえけど……誰だよ、こいつ……アオニーと同じキテレツなんたらの……ん? ……へ? なんだって?」



 お兄さん、あんなにボロボロで、ちょっと突けば倒れそうなぐらいで……しかも、相手が誰だか分かっていない……?


「え!? そうなの!? こいつが!? ちょっと待て、な、なんで!?」

「?」


 あれ? だけど、何か一人で驚いて……独り言……どうしたの? ハクキに気づいたの?

 ううん、どっちにしろ……


「お、お兄さん、ダメだ! そいつ、レベルが違う! そいつは……六覇最強のハクキだ!」

「お兄ちゃん、戦っちゃダメ!」


 どっちにしろ、あんな状態のお兄さんじゃ勝てるわけがない。



「はっ、はぁ、はぁ、……ああ……そうみてーだな。俺もいま『聞いて』……でもな、今さら、六人のうちの一人に会ったぐらいどうした。ヤミディレ、パリピ、ノジャ……もう、六覇はお腹いっぱいなんだよ」


「ん? 貴様、あの三人とも会っているのか?」


「それに……それに、どんだけ大物だろうと、伝説だろうと……六覇最強だろうと……仮に『今』の勇者ヒイロより強かろうと……最終的には大魔王トレイナよか弱ぇんだろうが! つーか、やらなきゃ、いけねーんだろうが!」


「おぉ? これは中々……良い目をしている。貴様、名は?」



 お兄ちゃん、逃げない? それどころか、あんな状態で戦う気?

 でも、無理だ! せめて、ボクたちも……



「ぬううんんっ!!」


「がはっ―――――」


「ん?」



 と、その時だった。


「お兄ちゃん!?」


 お、お兄さんが、背後から殴られた。

 それはまったく予想外だったお兄さんは、モロにくらってしまい、またバタンと地面に倒れてしまった。

 そして、それはハクキじゃない。


「どうした……アオニーよ」

「はあ、はあ、はあ……」

「べつに、あのままやらせても何でもなかったのだが、どうしたのだ?」


 お兄さんを後ろから殴って再び気絶させたのは、片足で立ちあがったアオニーという青いオーガ。

 あいつ、何て卑怯な。敗北を認めておきながら、よくも!


「こうするしか……ねーべさ……」

「ん?」

「大将軍……こいつは……こいつだけは……今……殺すわけには……いかねーべさ」

「なんだと?」









――――――


読者さまへ。

いつもお世話になっております。

昨日、本作のコミカライズがニコニコでアップされる旨を記載しましたが、大人の事情でアップは来週になりました。申し訳ございませんでした。お詫びにどこかの毛でも剃ります。


また、多数の『★』をありがとうございます。日間ランキング一桁に顔を出しておりました。嬉しいです。これからも頑張ります。引き続きご評価いただけましたら幸いです。

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