第4話 出会い
親父も母さんも平民だった。
幼馴染同士でアカデミーの同期だったみたいだが、共に選ばれし勇者の一味として……まあ、何やかんやあって結婚して俺が生まれた。
つまり、このいかにも「金持ちです」という屋敷は結婚後に建てられた。
そして、普段は鍵をされているが展示場のように広々とした空間にある、古今東西ありとあらゆる武器や魔道具。
中にはショーケースのようなものに入れられてたり、壁際に飾られている剣や鎧もある。
魔法剣士である親父が結婚後にこんなに大量の武器を購入したのは多分趣味なんだろう。
本人は武芸百般修めていると言い張っているが、俺は親父が槍だの斧だのを使っているのはついぞ見たことない。
だが、そんな展示場のような武器庫の最奥には、更に厳重な分厚い扉がある。
そこは一年に一度しか開けない空間であり、そこには世界の歴史を変え、人類を救った宝が眠っている。
「では、坊ちゃま。私は雑巾などを持ってきますので、その間に中に入ってどうぞ童心に戻ってご堪能していてください。盗むのなら頑張ってくださいね~。まぁ、半人前坊ちゃまには台座に封印されている剣を抜くことは不可能ですが~」
「盗まねえっての! ったく……まぁ……今さらこんなもん見たからってどうってことねーだろうけど……」
サディスが笑みを浮かべながら告げる嫌味に俺はムッとしながらも、受け取った鍵で扉の施錠を解く。
そこに広がるのは、真四角の殺風景な部屋。
床には五芒星の魔法陣が引かれ、その中央には台座に突き刺された一振りの剣。
「……勇者の剣……世界最強の……ん?」
一年に一度しか解放されない部屋。前回も前々回も俺は居なかったから、実に数年ぶりにこの部屋に入って剣を見るのだが……
「……へっ?」
俺は剣ではなく、それ以外のことに視線を向けていた。
『ふん……扉が開いた……なるほど、一年経ったから……これで何年目か……15回ほどか……』
俺の独り言ではない。普段は施錠されて誰も入れないこの封印の間には、本来誰も居ないはずである。
しかし、俺が入る前に既にそこには誰かが居た。
『……ん? こやつ……ああ……ヒイロの息子か……昔はまだ小さなガキだったが、少しは大人びてヒイロに似て来たか……』
「いや、誰だお前ッ!! 何でここに居るんだ!?」
『……なに?』
いや、何で向こうまで驚いているんだ?
しかも、こいつは人間じゃねえ!
銀の長い髪。頭部から二本伸びる鋭く禍々しい悪魔の角。
男とも女とも見える中世的な美形は、瞳の周りに怪しい紋様が刻まれている。
全身を包む紫色のローブを纏った謎の魔族。
俺は声を張り上げて身構えた。
『……おい……まさか……童よ……』
「ッ!?」
『余の姿が見え……余の声が聞こえるのか?』
「な、何言ってんだテメエは! つか、どうやってこの部屋に入った! 魔族か? 強盗か!?」
『なんと!? どういうことだ……まさか……十五年の孤独で余にも何か変化が起こったか?』
十五年? 何を言ってんだこいつは? どう考えても堅気じゃなさそうで、それでいて妙な存在感を感じる。
こいつは、普通じゃねえ!
「坊ちゃま……騒がしいですね。まさか、本気で剣を抜こうと頑張ってましたか?」
「サディス! 気を付けろ、妙な奴が居る!」
「……?」
そのとき、騒ぎを聞きつけて掃除用具を抱えたサディスが来た。
これなら、問題はねえ。
サディスはメイドとはいえ、かつてアカデミーを優秀な成績で卒業し、上級戦士の資格も持っている。
そんな奴がどうして俺の専属メイドで甘んじているのかよく分かんねーが、ガキの頃は俺の護衛までしていてくれた実力者。
俺とサディス二人いれば、こいつが何者であっても……
「坊ちゃま、誰も居ないではありませんか……」
「えっ?」
「……童貞をこじらせて、ついに妄想で幻覚まで見るようになりましたか……まったく……」
封印の間を覗き込んで、間違いなく魔族の姿を見れたはずなのに、サディスは本当に何も見えていない様子で俺に呆れていた。
「えっ? な、なんで? そこに居るだろ?」
「坊ちゃま、私を怖がらせて押し倒してムフフに持ち込む作戦は無意味ですので、諦めてください。ですので、もうしばらく童貞のままで居てください」
「そうじゃなくて、え?」
「では、私はまだ準備がありますので。坊ちゃまもあまり騒がれませんように」
本当に見えていない? サディスはまた掃除の準備で行ってしまった……
『……どうやら……余の姿を見れるのは……童……貴様だけか……』
「ッ!?」
『にしても……肉体があった頃は何万年も生き続けていた余だが……僅か十数年ぶりに誰かと会話できることが少し嬉しいと思うとは……弱いな……人間に負けるわけか……』
馬鹿な? まさか、俺にしか見えないのか?
『この狭苦しい空間に居るだけで……たまに入ってくるのは一年ぶりの掃除のみ……そんな余にこのような出来事が起こるとは、どういうことだ? 神のイタズラか? ふん、どちらにせよ……分かるぞ。本能が告げておる。この剣に取り憑いていた余だが……童、貴様にも憑くことができる!』
「な、なにを……」
『これは皮肉なことだが……ある意味幸運とも言える。ヒイロめ、余を打倒してから一度もこの剣を外へ持ち出していないため、余は外の風景も何も見ることが出来なかったが……フハハハハハ!』
「ッ、な、なんだってんだ! おい、テメエは一体!」
すると、歓喜と狂喜の入り交じった笑みを見せる魔族はユラリと俺の目の前に近づいてくる。
「近づくんじゃねえ! 何者だって……聞いてんだろうがッ! ぶちのめすぞ!」
俺は咄嗟にサディスが掃除の準備で置いていたモップを手に取り身構えた。
剣と同じ要領で、更には得意の雷を流し込んで威力を上げる。
『ほう……魔法剣か……だが……荒いな。二流だ。ヒイロには遠く及ばん』
「ッ!? テメエッ!」
俺は無我夢中で魔族に切りかかった。だが、間違いなく捉えたと思った魔族は、俺の攻撃をすり抜けやがった。
『無駄だ。霊体である余に貴様の攻撃は無意味。もっとも、余が霊体であることが幸運だったのは貴様の方だがな』
「なにいっ!?」
『この程度の魔法剣では百年修行しても余の現役時代には敵わぬ』
「……ッ……」
『とはいえ、これから世話になるのだ。名ぐらい名乗ってやろう』
そう吐き捨てて、再び魔族は俺の眼前まで詰め寄り……
『余の名は、『大魔王トレイナ』……かつて地上世界の征服を目指すも、貴様の父とその仲間に滅ぼされし者』
「ッ!?」
『余を失った現代の世……貴様を通じて見させてもらうぞ、童よ』
そして、そこで俺の意識は途絶えた。
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