短編集

事故

「歯ブラシが喉に刺さって死んじゃった子の話、知らないの?」

「なに?」

 さっきコンビニで買ったホットドッグを頬張っているいちを見つめる。

「だから、串。死んじゃうかもよ」

「大丈夫だって。子どもじゃないんだから」

 そう言って彼は、もう一口頬張る。もう片方の手はポケットに入れたまま、軽やかに進んでいく。そんな天真爛漫な姿に呆れた。

 日付が変わった頃、急にお腹がすいたと言い出した彼。すぐに食べたくなる気持ちも分かるが、もう少し我慢できなかったのだろうか。コンビニから家までたった五分。

「足元、暗いから気をつけてね」

六花ろっかこそ」

 私は何も咥えていないから、気をつける必要はないだろう。

 三歩先を歩く彼に注意を促すために、そっと手を伸ばした。

「そこ、階段……」

 前にあった彼の背中が消えた。

 驚いて一歩踏み出すと、カサッと乾いた音がしてバランスを崩した。慌てて側にあった手すりに捕まった。

「壱、大丈夫?」

 返答はない。

 階段の下に目を凝らしても、暗くて何も見えない。

 恐る恐る、スマホのライトを向けた。

 舞い散った落ち葉に、彼の履いていたサンダルが一つ、一番下に彼がいた。

「だから、言ったじゃない」

 足を滑らさないように茶色の葉っぱを避けながら、彼に近寄る。

「死んじゃうかも、って」

 彼の喉には、フランクフルトの串が深く刺さっていた。

 私は119に救急と伝えてから、涙を流した。

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