無知故の幸福~街角にある教会を、決して覗いてはいけない~【クトゥルフ短編コンテスト参加虫】

アイララ

無知故の幸福

その教会は学校の帰り道にある。普通の街並み、その一角に現れる教会は、まさに怪しいの一言だ。


なにせ、看板に”希望の門”とか書いてあるぐらい。そして、看板を目立たせる為か建物は白一色。


あんなに希望を目立たせるなんて、何か後ろめたい事があるからに決まってる。きっとそうだ。


だから友人が『なぁ、あの教会覗いてみようぜ』なんて目の前で言ってきたときは、その正気を疑った。


「あの教会を?やめとけやめとけ。あんな怪しい教会、何をするか分かったもんじゃないぞ」


昔、希望を掲げる宗教団体がテロを起こした事がある。とあるガスをまき散らし、街の人を皆殺しにしたという話だ。


希望の為なら何をしてもいい、その宗教団体はそう言っていた。人を新しい希望に導く儀式とも。


要は、人殺しという後ろめたい事を希望で覆い隠してただけだ。


”希望の門”が何を覆い隠しているか、それは分からない。だが、ロクでもない事なのは間違いない。


そんな場所へ一緒に行くのは当然、無理だ。だからやめとけやめとけ言ったのに、『心配し過ぎだよ。それとも、、、怖いのか?』と煽ってくる。


「怖くはないよ。だけどな、来年には大学生だぜ。教会でトラブって受験がフイになったらどうすんだよ」


『大丈夫だって。中の様子を観察して、二、三言からかってやるだけだよ。


心配ならお前が外で待ってろよ。三十分経っても教会から出てこないなら、警察にでも通報すればいいさ』


結局、自分の説得も空しく、友人は教会の中へ入っていく。相変わらず、怖いもの知らずな友人だな。


まぁでも、その怖いもの知らずのお陰で、教会に入らずとも中の様子が知れるわけだが。


そういう意味では友人に感謝しなくちゃな。仕方ない、三十分ぐらいは外で待ってやるか。


~~~~~


教会の外で待つ間、正直にいえばワクワクしていた。なぜなら、あの教会の怪しさの正体を知る事ができるから。


昔からあの教会を怪しいと思っていた。この区域には他にも教会があるし、ネットで調べれば色んな怪しい宗教がある事を知っている。


でも、あの教会と”希望の門”と書かれた看板は、それらが霞むぐらい怪しい。それも、うっすらと恐怖を感じるほどに。


勿論、僕の心の中には、説明もできないし知りもしない教会を、勝手に怪しんでいいのかという疑問がある。


だからこそ、友人の行動がありがたかった。いきなり外で三十分も立ちっぱなし、という状況になったとしてもだ。


そうして教会の外で三十分。中の事を想像しながら待っていると、友人から電話が掛かってきた。


『おぅ、スゲーぞ!お前も一緒に来いよ!』、、、説明をしろ、説明を。凄いだけじゃ中の様子は分かんないだろ。


「凄いじゃ分かんねーよ。それで?中の様子は?」『本当に凄いぜ。入った瞬間から香水の匂いがプンプンするんだよ。


それに如何に希望が素晴らしいかずっと話してきてな。奴ら、からかおうが何しようが話してくるんだぜ』


「随分と熱心な宗教だな。それで、今の状況は?」『一旦、話を切ってトイレで掛けてるんだよ。それと、もうしばらくここで遊んでいくわ』


どうやら友人は思ったより気に入った様子。だけど、「遊ぶのはいいけど深入りするなよ。こっちはそう長い時間待ってられないからな」


『それなら先に帰ったらどうだ。ここの話は明日、学校でするからさ』「分かったよ、それじゃあな」


そう話して帰る事にしたが、思えばこの時に教会から出る様に説得すればよかったと思う。


なぜなら友人は次の日、いくら待っても学校に来なかったからだ。

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