第9話 これっぽっちも妥協なんかじゃ無い。



 おそらくアイツはその態度を、肯定と取ったのだろう。

 俺の先を一歩二歩と先行してから、クルリと身を翻す。


「アンタ、何っていうか……そういう所は律儀だもんね」


 それが今まで向けられた事が無いような「純粋に楽しい」っていう感じの笑顔だったから。

 俺は思わず――舌打ちをした。


 だって俺だけアイツの仕草に心揺らされるなんて、なんかズルい。

 だからプイッと顔を大きく逸らし、『何も思わなかった』事にする。



 因みにお化け屋敷に行った結果は、控え目に言って……最悪だった。


「うっわっっ!!」

「ちょっ!!」

「きゃーっ!!」


 最初から最後までもれなく全部、残念ながら俺の悲鳴だ。


 両手は手ぶらにしておくと何かの拍子に『事故』があっても困るので、自分の両肘を終始掴んでおいた。



 アイツはと言えば、俺の隣で終始大爆笑だった。

 ホントに忌々しい。



 そして本題の『現場視察』については、少なくとも俺には視察をする程の心的余裕が無かった。

 アイツは「大丈夫だったよ? 問題ないない」なんて軽い口調で言っていたが。


(コイツ爆笑してただけじゃねぇか。ちゃんと見てたのか?)


 という疑念が生じる。


 するとその表情でも読んだのか、アイツがニヤリと笑いながらこう尋ねて来た。


「なんならもう一回、入って確認する?」


 ……俺は結局、アイツの言葉を信じる事にした。


 アイツは意外と自分に与えられた仕事は真面目にこなす。

 だからきっと、大丈夫だ。



 誤解の無いように言っておきたいのだが、俺は別に『怖いのはもう嫌だから』と言う理由で妥協した訳じゃない。

 あくまでも二度手間になるのを避ける為だ。


 本当にこれっぽっちも、妥協なんかじゃ無い。

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