第16話 救出?②
親父たちと再び別行動を始めてから、10分ぐらい経過した。
俺と蕾は、もう一人の生存者がいると思われる部屋の前に来ている。この部屋は、本来下っ端である俺たちは入ることはほとんどない場所だ。
「武先輩、ここってことは?」
「あぁ、蕾が思ってることはあってると思うぞ。今回救出に来たのは社長だ。」
「まぁ、入るぞ。失礼しまーす。」
「そんな軽いノリで入っていいんですか⁉」
軽い感じで社長室に入っていった俺に、蕾はかなり驚いたようだ。
その部屋の中は、一目見れば社長室だとわかるような風貌をしている、が。本来応接用として使われる机には、山のような書類。社長の机である、黒檀の重厚な机に乗るのは、やっぱり書類の山。
「あれ?ここにいるはずなんだけどな。」
社長室の中にいるはずの社長が見当たらない、と思ったその時、応接用のソファの上に横たわる女性、社長だ。片手は地面にだらっと垂らされ、完全に意識はない。
「大丈夫ですか社長⁉」
急いで駆け寄り、手首をつかんで脈をとる。一定のリズムで脈動していることがわかり、一安心である。全く人騒がせな社長だ。
「社長、起きてください。危ないですよ。」
「うむぅ、あと五時間…。」
なんともやる気のない返事である。ついでに起きる気も感じられない。そこで俺は切り札を使う。
「長すぎです、社長。秘書さんに言いつけますよ。」
「っは!起きるからそれだけはっ!」
「こんにちは社長。よくこんな状況でぐ~すか寝てられますね。」
いやマジで。何ならさっきまで、すぐ近くでとんでもない音してただろ。
「こんにちは?今は何時だ?」
こんにちはに疑問をもってやがる。まさか朝だと思ってる?
「13時ですね。あなたの救出のために俺たちは飯食ってないんですから、早くしてください。」
「なぜ秘書君は来てないんだ?あの子はいつも時間きっちり来るだろう?」
「いや知らないですよ。てか、こんなご時世によく時間通りの出勤を求めますね。」
「それだ、こんなご時世とか、救出とか。まるで意味が分からないんだが。」
「え?知らないんですか?いま世界にモンスターとか表れて、非常事態なんですが。」
「は?今日は何日だ?」
「今日は九月の十九日ですが。」
「へ?私一日半寝てた?」
「社長、口調崩れてますよ。」
社長は普段は威厳を見せるため堅苦しい喋り方をするが、本来の喋り方は見た目通りの普通の女性の喋り方だ。
社長は今の会社を大学在学中の立ち上げ、十年足らずでこの業界では誰もが知る企業へと成長させたとんでもない女性。容姿は蕾とは違い、可愛い系の美人。三十代だが、見た目は20代前半だ。そんな見た目で、仕事をバリバリこなすデキる女である。
まぁ、神は完璧人間は作らないようで、社長は生活能力が皆無。前俺のうちに来たとき飯を食わせた時は、「神じゃん。女の私の三万倍料理うまいじゃん。」とか言ってたぐらいだ。
「武先輩、何でそんなに社長と仲いいんですか?」
「正直、自分でも分からん。なんか一緒に飲みに行ってそこからだな。」
「そうだね。私が路上でシクシク泣いてるのを見つけて、なんか飲みに誘ってきて。何回か一緒に飲みに行ってるうちに、私が武君の上司というか、社長だって気が付いたんだよね。」
最初はまじで知らなかったんだよな。社長のほうは結構すぐに気が付いたらしいんだが。
「へぇ、先輩そんなことしてたんですか。初耳です。」
「まぁ、話す必要もないかなと思ったんだよ。てか、社長口調はそのままで行くんですか?」
「うん、武君は知ってるし、もういいかーと思ってね。ほかのみんなには内緒だよ?と、武君もいつも通りでいいんだよ。」
あざとい上目遣いでそういってくる。自分の武器を分かってらっしゃる。
「あざといですっ!この人あざといですっ!」
蕾がそう騒いでいる。まぁ俺もそう思うが。
「じゃあ、いつも通りで。そういえば赤坂さんや。何であんなところで寝てたんだ?」
「それね。君たちが勤めるこの会社、ブラック企業なのは知ってるよね。」
「そんなもん常識だな(ですね)。」
「そうだよね。確か、武君なんかはついこの前まで30連勤とかだったらしいじゃないか。」
「おう、その次の日一日だけ休みだったはずなんだが、気が付いたらこんなことになってな。で、話がそれたが、それがどうかしたのか?」
「そのブラックってのは、君たちだけじゃなく、私も同じなんだよ。多分この会社、まともに定時退社できてるの秘書君だけだと思うよ。」
あー、あの人なら自分の業務サクっと終わらせて帰りそう。
「でね、まぁあの机とか、ここの机とか見ればわかると思うけど、とんでもない激務なの。一睡もせずに、二日間格闘したんだけどね。終わらなくて、仮眠だけ取ろうと思って、ここのソファで横になってたんだ。」
「そしたら、ガチ寝して二日間寝てたと。」
「そうなるね。ほんとに気が付かなかったなぁ。」
「ついさっきまで近くで激闘してて、とんでもない音してたと思うんだけどな。」
何ならこの会社の壁に大穴空いたわけだし。
「うん、一切気が付かなかったよ。で、その激闘の相手は、モンスターとやらなわけだ。」
「そう。で、ステータスってのができたので、それを見せてほしい。」
「それはいいんだけど、どうすりゃいいの?」
「ステータスオープンって唱えるだけ。」
「了解、ステータスオープンねー。」
名前:赤坂優 種族:人
Lv:1 次のレベルまでの必要験値:4
SP:10
HP50/50 MP5/5
STR:7
DEF:5
INT:8
RES:5
DEX:4
AGI:5
LUC:82
【スキル】
柔術(III) 予測(IV)
「え、柔「LUC高っ!」術って、柔道やってたの?そして蕾はほんとにソコばっかだな。」
「そうだね。一応護身術として使える程度には使えるよ。」
「ほー、それは初耳だな。この予測ってのは何だ?」
〈それは、相手の動きを予測したり、天気を予測したりといった、まぁ大体の予測ができるスキルですね。〉
びっくりした。急に出てきたな。
〈マスターの質問に答えたりして、マスターのお役に立つのが私の仕事ですからね。〉
いつも助かってるよ、今まで言ってなかったけど、ありがとう。
〈改めて言われると恥ずかしいですね。〉
まぁ、こうやってたまには感謝をしっかり伝えないとな。
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