第24話意外な本心

 金山に逃れてきたはいいものの森蘭丸もりらんまること

森おらんの兄であり森家の当主である

森長可もりながよしに捕らえられた信長は


「おい、ここから出せ! わしを秀吉サル

 引き渡すなど言語道断だ! 一族皆殺しにして

 焼き討ちしてくれるわ!」

とわめきながら座敷牢の中で暴れていたが、

自分の今いる場所が愛するお乱の実家であるということに

気付いて冷や汗を流した。主君のオドオドした様子に

気付いたお乱はニッコリ笑って


「お気になさらず。恩知らずな兄上が悪いのです。

 後で母上がこっそり助けに来てくれるはずです。

 それまで二人きりで……」 

と言いかけたが、「二人きり」という言葉に

反応した主君に押し倒されて悲鳴をあげた。


「キャアッ! 着物を破くのはやめて!」


「いいじゃないか! ここはお前の家なんだから

 着替えくらいあるだろう!? おお、巨大な風船を

 二つ発見! さらしなんか巻いて隠すのはもったいないぞ!」

 お乱は以前、南蛮人の奴隷商人にさらわれたときに体に

変な薬をかけられて以来、巨乳になってしまっていたのだ。

逃れるすべはないと悟ってやけになったお乱は


「違いますよ。ふかふかのまんじゅうです。

 お肉をはさんでいただきましょう」

と言いながら主君の衣服をすばやく脱がせて

武器を引っ張り出した。その後、巨乳にモノをはさまれた

信長は城中に響く大声をあげたのだった。



 ところで常向尼はお乱たちを助けるつもりでいたものの、

長可の妨害にあって身動きが取れなくなっていた。


「母上、当主であるおれに逆らうおつもりですか?」

と言いながら立ちはだかる長可に向かって母尼は


「そこをどきなさい! 母親が我が子を助けることの

 どこがいけないのです!?」

と叫んだ。


「戦国の世で家を守ることの厳しさをあれはわかって

 いないのです! 落ち目になった主君など見捨てるに限る!

 気まぐれな恩寵を受けたからってなにもあそこまで

 べったりくっついて一緒に沈むなんて馬鹿げてる!

 ああ、ちくしょう! ちょっと体の関係になったくらいで

 あんなヒヒおやじに執着するなんて許せない! あの男に

 かっさらわれなければ今頃おれが……!」

 こう言ってしまった後で、長可はあわてて口をつぐんだが

時すでに遅く、母尼は


「あんたって人は自分の弟をそんな目で見ていたの……」

と言いながらその場に座り込んでしまった。

 その直後、地下牢がある方向から獣の雄叫びのような

声が聞こえてきたので長可は


「なんだ、騒々しいな! 一人で大声を出して

 暴れるなんてさすが謀反を起こされるだけあるな」

と信長を嘲笑ったが、幼い娘が無邪気な調子で


「ちちうえー、牢屋の中で誰かがお相撲取ってるけど

 まわしもなんにもつけてないで裸なのは何でなの?」

と問いかけてきたので目が点になった。

そこに先程二人を連れていくよう命じた

家来がおずおずとすすみでてきて、


「あの……お二人は……その……たいそう

 むつまじくふれあっておられます」

と報告したので色を失った。


「二人一緒の部屋に閉じ込めるなんて馬鹿か、

 おまえらは!? なんという愚かな真似を!」

 嫉妬に駆られた長可は牢まで全速力で駆けていき

格子を蹴飛ばしながら


「織田のオッサンよぉ、あんた、お乱の初めてを奪ったのは

 自分だとうぬぼれているけど唇だけは寝ている間におれが

 とっくに奪ったんだからな!」

と口角泡を飛ばして絶叫したのだった。


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