8.氷花の鬼神の再会

エレミヤはある少女の前に立っている。

エレミヤは唖然とし、少女は険しい顔をしていた。

少女はエレミヤのことをじぃっと見て、答えを待っていた。


「え…?深色…?」

「え…?まっくん?」


こうしてエレミヤとミイロは再会した。



「エレミヤぁ?着替え、終わったかぁ?」


そうドアの前から声をかけたのはジリアス。

わたわたとなれない制服を着替えているエレミヤ。

エレミヤはトゥーリス学園に合格していた。

それも楽々に。


「…っよっしょ……。えと、これで…良いのかな?」


鏡の前で自分の服装を見てみるエレミヤ。


『…うん、合ってるよー!いいじゃんエレミヤ。昨日のより似合ってる!』


エレミヤの中からエレミヤの疑問に答えた氷蓮。

氷蓮はエレミヤからポンと飛び出し、小さい翼をはためかせながらエレミヤの身体をまじまじと見る。


『うん、やっぱりいいじゃん!今日は女の運あり!』

「…要らないよ、そんなの。」


エレミヤはため息をつきながら鞄を肩にかける。

氷蓮は嬉しそうに付いてくる。

終いにはちょこんとエレミヤの肩に某国民的アニメの主人公の友達のピ○チュウのように居座り始めた。


「……氷蓮…。」

『何?』


もちろん氷蓮はピ○チュウなんて知らないので可愛らしくキョトンとした。


「…なんでもない。」

『????』


氷蓮はエレミヤが異世界人、転生者であることを知っている。

なのでこの場でピ○チュウの話題を出してもいいのだが、なんかはばかれる。


「エレミヤ!終わったなら降りてこい!時間だぞ!」

「今行きます!」


しびれを切らしたジリアスがまたエレミヤを呼ぶ。

エレミヤは急いでジリアスが待っている玄関へと降りていった。


「ごめんなさい、遅れました。」


そう言いながら走り寄ってくる肩に氷蓮に乗せたエレミヤの姿をまじまじと見てジリアスは納得したように頷いた。


「うん。やっぱり似合ってるな。」

ジリアスはニコニコ笑いながら言った。

エレミヤは照れたように笑う。


「そ、そうですか?」


ジリアスはエレミヤの肩に乗ってる氷蓮を見て、なっ!と言った。

氷蓮は当然のように頷いた。


『あったりまえ!何せ、我が選んだエレミヤなのだ。』


と得意げに言った。

エレミヤは恥ずかしそうに、やめてよ…。と言い、ジリアスが!そ~だよなぁ。と氷蓮の言葉に笑い、頷く。

恥ずかしくなったエレミヤは玄関へと足を向け、


「…は、早く行きますよ!師匠!今日は入学式なんですから遅れたら嫌なので!ほら、氷蓮、戻って!」

「『はぁーい。』」


ジリアスと氷蓮はエレミヤの言うとおりにエレミヤと共に歩き始めたりエレミヤの中に消えていったりした。


(どんな子が居るんだろうな……。)


エレミヤは緊張しながらトゥーリス学園へと足を進める。



「…師匠、」

「あん?」


ガタゴト。ガタゴトと音がする。

そんな中、エレミヤは不満そうに己の師匠を見る。


「馬車なんて、要りませんよ。」


ヒヒーン!と馬がエレミヤの言葉に批判するように鳴く。

ジリアスは親指を立て、


「入学式くらいは良いじゃないか!」


氷蓮は基本的にジリアスの味方なのでうんうんと頷いている。

エレミヤの中にいて見えなくてもすぐ分かる。

そしてそのままガタゴトガタコトと揺れ続け、酔に強いエレミヤでさえ顔をドンドンと青くしていったときだった。

ヒヒーン!!と馬が鳴いた。

御者がエレミヤ達に叫ぶ。


「だ、旦那!こりゃやべぇぞ!」


と。ジリアスとエレミヤはお互いに頷き、外へ出る。

そこではぼうぼうと燃えているたくさんの住宅があった。所謂いわゆる火災だ。

たくさんの住宅は周りは耐熱性のある日干し煉瓦で囲まれているが、その作りは甘い。

なのでその隙間から入っていった飛び火が家の中に入ることで燃え広げているのだろう。

エレミヤは咄嗟に己の異能力を使おうとしたが、動きを止めた。

ジリアスは御者に指示を投げかけている。

エレミヤは息を吐き、ジリアスを見る。

その視線に気づいたジリアスは頷いた。


「おい、御者。」

「は、早くここから逃げねぇと!」

「待て。今からうちの弟子がこの炎を止める。だが、正体をあちこち言いふらすんじゃないぞ。」

「と、止める?ど、どうやって!」

「いいから見てみ。」


エレミヤは氷で作ったお面を被った。

そしてトゥーリス学園の服と気づかれないようにシノハナの戦闘服のローブを装着した。

ふぅ、と息を吐いたエレミヤはゆっくり歩き出す。

そしてわぁわぁ騒いで逃げている人々の波に逆らい、進んでいく。

その中、ある男が炎に向かうエレミヤの肩を掴んだ。


「おい!少年、向こうは危ないぞ!」


エレミヤはちらりとその男を見、言う。


「心配ない。」


と。男はまたも叫び返そうとした。  


(なんていい人なんだろ。)


エレミヤはそう思った。

そしてシノハナのローブを男に見せる。

男はそのローブを見た瞬間、息を呑む。

その驚きが伝染していくように広がっていく。


「あ、あ、あんた……。シノハナの一人なのかい?」


とある老いた女性が聞いてきた。

エレミヤは頷く。


「だから、心配ない。待ってろ。」


エレミヤは手から水を球を出した。

そしてそれを炎に向かって投げつける。

ジュッ………。

とそれが蒸発する。


「お、おい!やっぱ、駄目じゃねぇか!」


騒ぐ男にエレミヤはなんで?と首を傾げる。


「な、なんでって、そりゃ…………え?」


男の言葉が中断された。

なぜなら空気中から突然氷が出現し、その家を覆う。

どんどんそれが連なっていき、完全に鎮火した。 

エレミヤがしたのは空気中の水分を凍らせるという簡単な事だった。

エレミヤはもう一度男に言う。


「なんで?」


しーん…。と周りが沈黙する。

そして


「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」」」


という大声がこの街を揺らした。


「氷花の鬼神?!」


と男は叫び、老婆も目を大きく広げている。

周りの人々がエレミヤを見る。

エレミヤは内心焦っていた。


(え?ティナが言ってた氷花の鬼神って僕のことだったの?!いや、なんで?!)


エレミヤの中でエレミヤの心の声を聞いた氷蓮はため息をつき、あんぐりと口を開け、呆然としている御者の隣でジリアスは笑う。

エレミヤは高く跳躍し、燃えていなかった屋根の上に乗り、反対側に降りた。

そして誰もいないその路地裏でササッとローブを脱ぎ、お面を外し、一般人を装い、ジリアスのもとへ向おうと歩き出すとき。


「あの。」


声がかけられた。エレミヤは目を見開いた。。なのに、そこには少女が居た。

しかも、その声をどこかで…。

エレミヤは後ろを見る。そこには。


「え…?深色…?」


そう、深色が居た。そしてその言葉を聞いた深色はパクパクと口を開閉させ、名を呼ぶ。


「え…?まっくん?」


深色もトゥーリス学園の制服を着ていた。

二人は顔を見合わせた。


「「え、えぇぇぇぇぇぇ?!」」


二人は仲良く叫んだ。



「じゃあ、まっくん、この席ね!」

「と、隣…?」

「え、駄目?」

「えっと…その………。」


入学式直前。9組に割り振られた状況が飲み込めていないエレミヤとすでに状況を飲み込んでいる深色は席を決めていた。


(なんでみぃがここに?)


深色は死んだのか?いや、あの体つきは深色そのものだ。

それに、いつもの深色とは、なんか違う。

自己中心というか、欲望に誠実というか。

エレミヤは深色が心配になった。

それに、あの右目……。

ずっと気になっていたけど、標準が定まっていない。

なにがあったのだろうか。

しかし、エレミヤのそのしどろもどろになる様子を見てジリアスはニヤニヤ笑っていた。

そのジリアスは入学式終わるとすぐに帰っていった。

エレミヤたち生徒はその後、ホームルーム的なことをして即解散になったのだが……。


「みぃ…?なんでついてくるのかな?」

「んにゃ?だって私の滞在場所、王宮だし。つまんないし。」

「………。」


王宮って……。

エレミヤは深色が、転移者なのではと疑った。 

氷蓮もその予測に十分ありえると言う結論を出していた。

エレミヤと深色はジリアスのうちに帰っていった。

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