3.氷の龍

エレミヤと名をつけてもらってからおじさん改め師匠のジリアス・ガルゴスはエレミヤに訓練を始めた。

ちなみに姓はロガーツである。

訓練とは大雑把に言うと剣と勉強。

まぁ、そこそここの暮らしはいいのではないかと思う。

師匠は厳しすぎて大変だが。

何でもジリアスはなんかの隊長であるらしいのだが、そこらへんはいいのか。

聞いてみたことろ、


「隊長なんざ、めんどくさいことなんでしなきゃならないんだ?」


と言われた。

なんか、物凄く心配になった…。

というか毎日家の前に部下さんと思われる方が門の前に来ているのだが…本当に大丈夫なのか?

そしてとうとうジリアスは王様自ら叱りに来て流石に仕事に行かなきゃならなくなった。


「いやだぁ!」


と子供みたいに嫌がる師匠にエレミヤは叱咤した。


「師匠、子供みたいなこと言わないでください。…流石に恥ずかしいです。」


王様前にしてこれか。

そしてエレミヤが師匠の代わりに謝り、無理矢理王様たちに引き渡した。


「修行2倍にするからな!」

「…ご自由に。僕にとっても万々歳です。」

「く〜っ、優秀な弟子を取れてよかったよ、俺は!」

「そうですか。それはありがたいお言葉。では、お仕事頑張ってください。応援してますね。師匠。」

「エ、エレミヤー!!」


ずるずると連れ去られていく師匠に弟子はため息をつく。

エレミヤは後ろにいる人に声をかける。


「…ロンガットさん。大変ですね…。」

「はは。ご主人さまは相変わらず仕事嫌いでしてなぁ。エレミヤさまがいなかったらこの爺、今頃そこに倒れておりましたわい。ほほほ。」


ロンガットさんとは師匠が爺と呼んでいた執事さんだ。


「…にしても、エレミヤさまは肝が座ってらっしゃる。王を前にして師匠を叱りつけるなど、めったにないことですぞ。」

「…。」


確かに。 

僕はここが異世界で転生した、ということをすぐ理解し、あまり取り乱さなかった。

そして得体のしれないおっさんにホイホイついていった。

僕は…。意外に肝が座っている人間かもしれない。

ん?いや、犯罪に巻き込まれやすい人間?

危ない危ない。これからは気をつけないと。

そう思考を回しつつ、答える。


「そ、そうですかね?はは…。」


照れたように言うエレミヤにロンガットは満足したように頷いた。   


「はい。優秀な弟子をとられて、ご主人さまもさぞお喜びでしょう。」

「いやいや…」


流石に照れくさい。そしてロンガットはちらりとエレミヤを見た。 


「そういえばエレミヤさま。」

「はい?」

「異能力は持っておられますか?」

「…は?」 


この世界には魔法というものはない。

力がすべての世界である。のだが…。

異能力ってなにさ?


「も、持ってませんけど…。たぶん。」


というとロンガットはほわほわ笑う。


「そうでございますか。しかし、エレミヤさまならば、もうすぐ使えるようになるでしょう。」


そんなこと言われても…。

その日、エレミヤはその晩、自分の異能力とやらについて考えた。


(異能力…かぁ。そういえばロンガットさんのあの口振りだと師匠も使えるということになるな…。この世界にそういうもの、あるはずないんだけどな…。まぁいいや!師匠に明日聞けばいいし!今日は寝よ!)


色々言いつつ、師匠のことを認めているエレミヤである。

  


「あれ…。ここは…。」


寒い。極寒の中、エレミヤは一人、立っていた。

白い息を吐きつつ周りを見渡す。

氷山の中なのか、あちこちに氷が突き出ている。

その氷を眺める。

そして目を見張る。


「え…。」


その氷の中には植物たちや凍え死んたのであろうか、動物たちが埋め込まれるようにいた。


「ここは…。出口を…探さないと!」


動物たちを見、自分の身の危険を感じたエレミヤに後ろから声がかかる。


『少年よ…。強き力を持つ戦士よ…。』


急に溢れ出てきた威圧。

恐る恐る振り向くとそこには巨大な氷の龍がいた。


『力が…ほしくないか…?』

「力…?」


突然の問いにエレミヤは問い返す。

力。欲しいか。

欲しいに決まっている。

師匠に、認められるように…。恩返しができるように…。


「欲しい…といったら?」


龍はニヤリと笑う。


『お前に力をやろう…。少年よ。我と契を結べ。そうしたらお前に力をやろう…』


氷のように冷たく燃え上がる威圧。人ならすくんで動けなくなるだろう。しかし、エレミヤは違った。

平然と胸を張り、笑ったのだ。


「分かった。契を結ぼう。」


龍は笑う。


『よかろう。お前を主と認めよう。』

「ああ。そうだな。お前は…。…えっと…。お前呼ばわりはなんかやだな…。」


ブツブツつぶやき始めたエレミヤに龍は首を傾げる。

そしてエレミヤは龍を見上げ、笑う。


「そうだ、お前には氷蓮ひょうれんの名をやろう。」

『な…』


とあんぐり口をあける龍。


『な…。名だと?!我に名をくれるのか?!』

「ああ!」


エレミヤはこのとき知らなかったが、このような魔獣や魔人には名はない。

なぜなら、名前には大きな力があるからだ。

日本では「名前は一番短い呪である」という。

その概念がこの世界にもある。

なので、名を授けるということは、相手を信頼している時にしか名はつけないのだ。

この理由から感激し、涙を流し始めた氷蓮を見てエレミヤは首を傾げたのだった。


「…なんだか知らないけど、喜んでもらえてよかった…。あ、僕はエレミヤ。エレミヤ・ロガーツだ。この姓名は師匠がつけてくれたものなんだ。だから、エレミヤ、って呼んでくれるとうれしいな。」

『わ、分かったぞ。ぐすん。エレミヤ殿。』


エレミヤは優しく笑う。

氷蓮とならやっていけそうだ。

そして、急に目の前が霞み…。

暗くなった。 


「あれ…?いつの間に僕の、目を瞑っていたんだろ…。もしかして、氷蓮のこと、夢?」


なんか寂しい。

しゅんとしてしまったエレミヤの内から声が聞こえた。


『氷蓮ならここにいますぞ!エレミヤ殿!』

「うわっ!」


驚きつつエレミヤは目を反射的に開いた。

今…僕の中から聞こえた…。あぁ、契約ってこういうことを言っていたのね。

と、そこでエレミヤは氷蓮のことについて調べたくなった。


(まぁ、今後何かあったら危ないし。色々試しておくのがいいだろう。)


好奇心が湧いた、というものだ。


「氷蓮、今、ここに出てこれる?」

『うむ…。しかし、この姿でいいのか?』

「あ…」

危なかったー。と息を吐いていると

『…よし、これで大丈夫。いくよ、エレミヤ。』 


あれ?なんか違う。と思いつつ頷く。


「ああ。」


ぽん!と水色の何かがエレミヤから出てきた。


「おお!」 


それはもちろん氷蓮なのだが…。

あの恐ろしい形相が一変、とっても手のひらサイズの愛らしい姿になっていた!


『これでいい?』


なんか声も可愛らしいし、口調も変わってる…。これがさっきの違和感の正体か!

と言うか、バンバン出てた威圧も消え去ってるし…。つまり、言いたいのは、


「かっっわいい…!」


この一言である。

氷蓮は自らの姿を鏡で見た。


『おお!我ながら可愛い!いいね!あ、エレミヤだ!どう?我の姿!』

「とっっっっっても、かわいい…!」


自分でも喜び、ぴょんぴょん飛んで跳ねている氷蓮はもっとかわいい。

この子があの龍なんてねー。と感激していたら大事なことを思い出した。


「あ、そうだ。氷蓮さ、僕に力を与えるって言ってたけどさ、はっきり言うとどういう力なの?」

『うん?あ、えとね。人間が異能力って呼んでるやつだよ。我は国を滅ぼしたことがあるからな。その力をエレミヤが受け継いだんだよ。』


ああ。これが異能力なんだ。え?待って。国滅ぼした?なにそれ。恐ろしい…。


『我は最強の龍なんだ!人間もそれを認めてる!なのにエレミヤがもっと強くしてくれたから、エレミヤと我はもっと最強なのだ!』


(僕がもっと強くした?なんの事だ?) 


名前を付けたことである。

もちろん、エレミヤはそんな事を知らないので…。


(僕と契約したことかな?)


という持論で無理やり自分を納得させる。


『我、氷の力を持ってるのだ。あの氷山を見たでしょ?あれ、全て我の力!』


いや、強ぉぉぉ!あの氷山、全てこの子の力で出来てるの?

やばいな…。流石最強…。

そして僕は目立たぬように力を抑えながらの生活が始まった。

しかし、抑えきれなかった…みたい?











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る