ペーパー魔王

第1話我は魔王

『おのれ勇者、いやタケシ！　貴様への復讐だけはなんとしても果たしてやる！　覚悟しておくがよい！　我は決して滅びぬ！』

　ふう。ラスボスの魔王を倒したぞ。最初からずっとファミコンやスーファミ時代のドラクエみたいな通常画面は見下ろし視点で、戦闘はモンスターだけしか画面に映らないフロントビューの戦闘が続いてよくあるドラクエのパチモンゲームかと思っていたけれども……

　ラストバトルの直前でプレイヤーの俺がテレビの画面で見下ろしていた玉座に座っていて俺の操作する勇者パーティーと対峙していたと思っていた魔王が突然上を向いて、『貴様はこの魔王が倒してくれる！　勇者、いやプレイヤータケシよ！」なんてメッセージウインドウでセリフを言うんだもんだなあ。

　そして、ラストバトルだけファミコンやスーファミ時代のエフエフみたいなサイドビューになるときた。しかも、プレイヤーパーティーの勇者一行はきちんと横から見たグラフィックになっているのに、ラスボスの魔王は画面からプレイヤーである俺を見ているんだから。

　魔王の攻撃方法も、メタ演出のオンパレードだったな。俺が魔法やアイテムのウインドウを開くと『こざかしい｝なんて言って、画面に黒い液体を吹きかけるような演出をすることでどこがどのアイテムや魔法だってわからなくするのはいい初見殺しだったな。マリオカートで似たようなのがあったけれど……

　超必殺技用のゲージが戦闘システムに組み込まれているけれど、そのゲージを武器にして勇者パーティーを攻撃してくるのも悪くない。これじゃあ、プレイヤーの俺は超必殺技が使えないもんな。これはマブカプのデッドプールだな。

　こっちが魔王に与えたダメージを白色から緑色に変えて回復してくるのなんて、まさにラスボスならではの反則技だよなあ。味方パーティーが右側、ラスボスの魔王が左側という基本のサイドビューの配置だけど、その左側の魔王が画面左に後退したと思ったら、画面右側から現れて勇者パーティーをバックアタックするのもいい。

　背後からの攻撃だってことで、通常ダメージの二倍になるんだもんな。で、『お前の部屋きたねえな』なんてメッセージを出すのもいい。アメリカアニメのカートゥーンっぽい演出だ。

　プレイ開始時の勇者の名前設定の時にカッコいいと思うものや、プレーヤー自身である俺の名前を入力させてきたときは、マザー２の二番煎じかと思ったけれど……こう来たか。一つ一つのアイデアはどこかで見たようなものばかりだけれど、こう合わせてくるとは……

　少なくとも、ラスボスまでのドラクエのパクリゲーを伏線としてさせられるだけの価値は十分にあったぞ。おっと、スタッフロールが終わりになって来たぞ……

『AND　タケシ』

　わかってるじゃないか。このゲームを作ったスタッフは。あれだけメタ演出を入れて来たんだから、やっぱりスタッフロールのラストはこれでなくっちゃあな……おや、まだ続きがあるみたいだ。隠しボスでもいるのかな？

　『タケシよ。貴様になんとしても復讐してやるぞと言っただろう！」

　おっと、倒したと思った魔王の再登場か。真の力を発揮して裏ボスになってくれるのかな。それにしても、この魔王のデザイン……最近の流行に乗っかってグラマラスな巨乳な女の子魔王ときてる。なかなか俺好みのデザインだ。どこかの同人屋が抱き枕でも作ってくれないかな。

「タケシ！　貴様の世界に乗り込んでくれる！」

　ピカッ！

　わ！　画面がまぶしい！　こういった演出はポリゴン的にまずいってのに……待てよ、このA・Iが止まらなそうなシチュエーションは……

「ふふふ、勇者をその手で操っていたタケシよ。よくも我を滅ぼしてくれたな。この手で復讐してくれようぞ」

　わあやっぱり。ゲームのキャラクターが現実に現れるよくあるパターンだ。そして、この魔王はどう見ても俺に簡単に惚れそうなチョロインじゃなさそうだ。

「二次元と一次元のハザマより産まれしものよ。自然数次元しか理解できない愚か者を切り刻め。エターナルトライアングル！」

　この呪文は……ゲームだとこのあとシェルピンスキーのギャスケットみたいな無限に組み合わされた三角形が勇者パーティーを攻撃するんだ。それにしても、フラクタル図形だなんてコンピューターグラフィックにうってつけのものをラスボスの魔王の攻撃魔法に使うなんて、きっとあのゲームの制作者に数学好きがいるんだろうな……

　あれれ、俺がフラクタルだなんだとごちゃごちゃ考えているのにいっこうに現実世界の俺がダメージを負うことはないぞ。どうなっているんだ？

「なんで、なんでなにも起こらないのよ。もうっ！」

　戸惑っているのはあっちの魔王も同じみたいだ。それにしても、画面で見るとあんなにあふれんばかりだった爆乳が、こうして現実の三次元空間に現れてもらうとずいぶんとフラットでいらっしゃいますような……