短篇集(礫)
貴音真
第1粒「親父」
これは、自分の親父が死んだ後に起きた不思議な出来事です。
今から27年前、自分が7歳の時に自分の親父は病気で亡くなりました。
親父は交遊関係がとても広く、一般人の葬式とは思えない規模の葬式が執り行われましたが、その葬式に呼べなかった人も多くいました。
その1つに、親父の生前によく通っていたファミリー向け宿泊施設、今でいうスーパー銭湯の人がいます。
その店は、親父が行くと必ず店長が出てきてくれると言うほどの常連で、まだ15歳だった兄と自分だけで行っても親父の息子だからと泊めさせてくれるほどでした。
親父が亡くなってから半年ほど経ったとき、自分と兄が久しぶりにその店に行ったときのことです。
「おー!久しぶりじゃないの。どうしたの?最近来てなかったじゃない。お父さんは元気してる?」
店に着くなり、いつもの女性店長が挨拶代わりに話しかけてきてくれました。
兄は言いずらそうにしてましたが、親父が亡くなったことを伝えようとしました。
しかし、兄より先に店長が話を続けました。
「3月くらいまではしょっちゅうお父さん1人だけで来てたけど、みんな来ないから心配してたのよ!今日は久しぶりに来てくれたんだからゆっくりしてってね。泊まりでしょ?お父さんはあとで来るの?」
その店長の言葉に、兄は親父のことには言葉を濁して、泊まっていきますとしか答えられませんでした。
その女性店長だけでなく、店内の店員の多くが同じことを言っていました。
これは、その店にあるゲームコーナーの店員の言葉です。
「今日はお父さん来ないんだ。じゃあ、この間、お父さんが1人で来たときに残していったコインが結構あるからお金使わないでそれ使っちゃいなよ。保管期限が3ヶ月だからどうせそろそろ切れちゃうし。」
そう言って、60枚で1000円のコインを3000枚ほど出してくれました。
コインの管理表を見せてもらった兄は、管理表には確かに3月の日付で親父の名前が書いてあったと兄は言っています。
親父が亡くなったのは11月末です。
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