架空文通~架空の文通同好会があった。架空の文通仲間は全国に散在していた。ある時、男が入部してきた。毎日、男は文通に血道を上げた。真摯に、ときには真摯すぎるきらいがあった。これはその男の渾身の返事集~
第7話 【架空文通】矢田さんのお手紙に対する返事(ハワイ留学で思い出した事、将来の仕事、コロナ太り、チャリ通、ディズニーCEOの自伝)
第7話 【架空文通】矢田さんのお手紙に対する返事(ハワイ留学で思い出した事、将来の仕事、コロナ太り、チャリ通、ディズニーCEOの自伝)
矢田さんへ
【ハワイ留学で思い出したこと】
貴殿が留学したハワイの高校の写真が、私からの返事に載っていて、びっくりされましたか。私は、聞けば即検索し、それがどんな物か調べるのが好きなんです。
私も留学したかったです。実は、早稲田実業高校一年生の時、夏休みに語学留学の話が出たのですが、当時は健在だった祖母が反対し、「そんな、ちんけな語学留学なんて、いってもしょうがないでしょう。早稲田大学に行ってから、正規留学しなさい、お金は出してあげるから。」と言われ、留学はお預けになったのです。
ところが、その後、祖母が入院、意思疎通がろくにできない状態のまま、死亡、という事になりました。親族間で、相続の争いが勃発しました。よく、骨肉の争いとか、仁義なき争いとか言われますが、そんなレベルの低いものじゃなくて、宇宙戦争でしたよ。
で、当然、留学の話なんか、消し飛んじゃいまして、ぱっとしない学生生活を送る羽目になったのです。
これ以降、私の人生訓は、「ショートケーキの苺は最初に食べろ」です。え、苺が一番美味しい所か、って。まあ、そこは見解の相違というもので、後日のイシューとさせてください。
よく、海外留学して、人生観が変わり、卒業後の進路に決定的な影響を与えました、などと有名人が話されるの聞くと、「こんちくしょー、俺だって、それができていれば、今頃、お前の代わりに俺が壇上に立っていたよ。」なあんて、思ったりするのです。
【将来のこと】
貴殿はパティシエ、NPO、UN、社会問題に関わりながら自分のやりたいビジネス、という順番で興味が遷移してきた、とのこと。
超大雑把に共通しているものを分析すると、名も知らぬ誰かを笑顔にさせたい、ということかな、と思いました。
基本的に、貴殿は、泣いている子に風船を渡してあげるような優しい人なんでしょうね。そうすると、食うか食われるか、という営業成績が問われる職場よりも、みんなの幸せを考える職場が向いていることになるんでしょうね。
その中でも、中学生の時に思ったパティシエって言うのが、ちょっと、ひっかかりました。それって、創造的な仕事で、一人でやる仕事じゃないですか。逆に言うと、毎日同じことの繰り返しの仕事じゃないし、組織であたる仕事でもない、という事です。ここに貴殿に合う仕事が何か、のヒントがある、と思ったのです。
さらに、ぼんやりしている時がある、とのこと。これって、看過できないキーワードだと思いました。わたしも、常時、沈思黙考しているのですが、世の凡人どもは私を見て、ああ、また、ぼんやりしている、と、のたまってくれるのですよ。まったく、人の気も知らないで、こっちは、宇宙の摂理から人類の平和を考えていたっていうのに、燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや、とはこのことか、と。
どうか、貴殿におかれましては、まだまだ伸びしろがありますので、海外で活躍することも視野に入れ、仕事探しをしてほしい、と思います。いま、ちょっと引っ掛かりましたか、伸びしろの有無について。それについても、後日のイシューとさせてください。
【コロナ太り】
いや、もう、これね。ほんとうに、困ったちゃんですよ。わたしのおなかにまとわりついたこの脂肪、えいって取って、防波堤から遠くに投げたいです。モテなくなるじゃないですか、いや、それ以前に、スーツが着られなくなるので、「いざ、出陣」ができなくなるわけですよ。
【チャリ通学が恋しい】
チャリ通学していた、とのこと。
貴殿は、私を羨ましがらせる天才ですね。私がやっておけばよかったと後悔していることを、ジャブのように、便箋の端々にプロットしてきますね。もう、お手紙を読んでいると、机に突っ伏してしまいます。
私は、チャリ通という、青春の定番と言ったらコレだよねっ、というものを一度も経験していないのです。乗車率三百パーセントの西武新宿線で、毎日、顔見知りのサラリーマンどもと肘のど突き合いでした。それもこれも、中学の時、大学付属の私立高校に行けば、薔薇のような人生が待っているから、今は辛抱だ、などと虚妄にとりつかれていたからでした。
朝はどこかの交差点で、まだかよ、あいつ、遅刻しちゃうじゃねえかよ、ったく、とボロ自転車にまたがって、待つ私がいて、彼女っていうか、まだ、告っていないのですが、今度のディズニーランドのデートではそうするつもりの後輩が、ごめんごめん、出かけにお母さんと喧嘩しちゃって、などとタメ口をききながら、電動アシスト付きの自転車でやってきたりするのです。ああ、こんな高校生活を送りたかったです。
【最後に】
これを書いている時点で、梅雨が明け、夏本番になりました。
私が貴殿にお薦めする時間の使い方は、やはり、自分に合う仕事とは何か、を追究することだと思います。少しでも興味を持った仕事は、バイトで潜入してみる、道路の反対側から観察してみる、近くの食堂で社員の話を盗み聞きしてみる、ぐらいのことはした方がいい、と思います。
あ、『ディズニーCEOが実践する十の原則』という本、ぜひ、読んでみてください。絶対に役に立ちます。立たなかったら、立たなかったじゃねえか、と、私の胸ぐらをつかみにいらしてください。
またね。
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