第56話 矛盾するのは当たり前

 あと数日で12月になり、令和3年もそろそろ終わりが見えてくる頃になった。

 町は本格的にクリスマスシーズンに向けて動き始めていた。その中で授業が始まる。




「小僧、お前は『正解は1つしかない』と思ってないだろうな?」

「え……そうじゃないんですか?」


 ススムのいきなりの問いに進は困惑しながら答える。


「フム、例を出そう。とある株の本に「株は10テンバガー……株価が10倍以上に跳ね上がる株を探せ」と書いてある一方で、

 別の本には「10テンバガーなぞあるわけない。そんな夢物語なぞ探してないで着実に積み重ねるしかない」と書いてある。

 どちらも同じくらい売れていて実践者の中にも成果が出ているものが同じくらいだとしよう。お前はどっちを選ぶ?」

「えっと……どっちが正しいのか、っていう話ですか?」

「……そう来ると思ったよ」


 ススムはハァッ、とため息をつく。進の言う事は予想通りとはいえ、凡人の発想だからだ。


「これも学校教育の弊害へいがいだな。学校は「マイナスを減らす、あるいはゼロにする」という意味では有効だが「正解は1つしかない」という間違った考えを植え付ける。社会においてはそれこそ『正解は無限にあってそれと同時にただの1つも存在しない』という事だって山ほどあるんだぞ」

「??? む、無限にあると同時にただの1つも無い?」

「まぁ学校教育でぬるま湯につかってる小僧にはピンと来ないだろう。だが覚えとけ。社会に出たら正解は1つしかないという学校教育の常識は通用しない。

 他にも写真家の間では『写真には「答えはあるけど、答えは無い」』という言葉もある。『答えは1つしかない』という常識は早めに捨てろ。社会では役に立たないぞ」


「正解は1つだけ」という考えは捨てろとススムは若者にくぎを刺す。




「学校教育においては「正解は1つしかなく矛盾はしない」んだ。ただこれは学校の中だけで通じるルールだ。社会に出たら通用しない。社会に出てもなお正解を求めるのは……例えばそうだな、世界中の料理の中からただ1つの正解を探すようなものだ。そんなの無駄な労力だ。

 うまいまずいの違いはあるが料理そのものに正解も間違いも無いし決められないだろ? それと一緒だ。この料理は正しい、この料理は間違ってる。それをいったい誰が定義できるというんだ?

 仮に定義できたとしても定義した本人にしか通用しない物差しだ。そんなのやったところで何の価値も産まん」


 ススムは料理を例に出し、ただ1つの正解を求める愚かさを進に伝える。


「さっきの株の話は料理みたいなものだ。イタリア料理とフランス料理のどちらが正しくてどちらが正解なのか、なんて好みの問題で誰にも決めることはできないだろ?

 それと一緒だ。10テンバガーを探すか探さないかのどちらが正しいか? という疑問自体に何の意味もないんだ。

「どちらも正解」なんだ。何せどちらも成功者がいるからな。片方の成功者は成功者じゃない、なんてどうして断言できるというんだ?」

「うーん……今回の話はなんか違和感がある話ですね」


 進は12年前から続いていた高校までの学校教育で得た価値観に縛られているのか、今一つ納得できていないようだ。


「ふむ、違和感と来たか。まぁ小僧が学校教育にどっぷりかっているのならそう感じてもおかしくないだろうが、これは本当の事なんだぞ。

 社会に出たら「正解はただ1つ」というのは通用しないし「正解は複数ある」というのも当たり前のようにあるんだ。

 多くの者はここでつまづく。正解は1つしかないという、学校の中でしか通じない価値観に縛られているからだ。

 本を読み続けるうちに矛盾する事が出てくるだろうがその際には今日の話を思い出せ。矛盾しているからと断罪するのではなく、矛盾しているがそのまま飲み込む事を覚えておけ。世の中を渡る上で役に立つことだと思うぞ」


 今日の授業が終わった。




【次回予告】


ラクして稼ぐ事は出来ないがたのしく稼ぐことはできる」大人ですら間違う事が多いこの2つの違いについて語りだした。


第57話 「楽して(ラクして)」稼ぐ、と「楽しく(たのしく)」稼ぐの違い

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