第35話 くだらないことで言い争い肝心なことは無視する
8月の末日の前日。いつものように課題がこなせかを伝える日がやってきた。
「小僧、例の課題は出来たか?」
「出来ました。これが証拠です」
進はいつものように封筒に分けておいた6万円を出した。
「うん、良いだろう。カードローンの残高もだいぶ減ってきただろう?」
「ええ。そうですね。月々の支払いがついに2000円になりましたよ」
「その調子だ。お前が正社員なら夏のボーナスも出るだろ? それも全額借金返済に使うんだな。無事完済まで走り抜け。
それと、読書課題は……確か「チーズはどこへ消えた?」だったな。それの感想も聞かせてくれ」
「えっと『世の中は常に変化しつづけていて、それに合わせて変化しつづけないと、明日の
それを聞いてススムはうん。と満足げにうなづく。
「きちんと課題をこなしているようだな、上出来だぞ。
それと小僧、もしお前が貧乏人になりたければ『下らない理由で言い争い肝心なことを無視』すればすぐに貧乏になれるぞ。覚えとけ」
老人からの授業が始まった。
「じゃあ逆に『下らない理由で争うのを避けて肝心なことを見れば』金持ちになれるんですか?」
「そうだ。少しは頭が回るようになったじゃないか小僧、大したもんだ。なぁに
例えば昔『ポテトサラダ位自作しろ』と子連れの母親に言った老人がいた。という話で論争が起きたそうだが実にくだらないだろ?
そんな論争したって一銭の得にもならんというのに、あろうことかそういう「
安全で安心して怒れる相手というのは大衆向けの娯楽だ。こんな連中が幅を
ススムはハァ、とため息をつく。将来を悲観していた。
「特に日本人は昔からランキングが大好物だ。
江戸時代でも
もう一度言おう。そんなの人間の言葉とスマホが使えるだけのゴリラに過ぎん。
動物園で飼育されているゴリラや野生のものを問わずゴリラにとっては大変な風評被害でさぞや迷惑なことだろうがな」
曲がりなりにも自分と同じ日本人をゴリラと呼び捨てる。そこにはある種の憎悪が込められていた。
「TVは愚か者向けの娯楽で、それと同じ感覚でネットに顔を出すから、下らん理由で対立して言い争いが絶えんのだろうな。
「そんなのどっちでもいいじゃないか」という理由で対立し怒りや悪口でエネルギーを消耗し、肝心なことには目を向けない。
今やってる争いが不毛なのかそうでないのかは『この戦いに勝った後に何が残るのだろうか?』を考えることだな。
もし残る物が「キモチイイという感情」だけだったら争うのは辞めとくべきだな。それは大抵不毛な争いだ」
ススムは「対立を避けよ」と若者に強く説く。
「くだらないことで言い争うな。までは分かりました。では「肝心なこと」って言うのは例えばどんなことなんでしょうか?」
「例えば、と来たか。中々反発するようになったじゃないか小僧、良い調子だぞ。そうだな。お前みたいなサラリーマンでもやろうと思えば節税出来るんだぞ」
「え!? でも源泉徴収で取られてるから節税なんて……」
サラリーマンでも節税できる、と言われてうろたえる進に対しススムは言葉を紡ぐ。
「そんなことはない。やろうと思えば出来るぞ。小僧、もしお前がローンを組んで買った自分の家に住んでいるのなら「住宅ローン控除」が受けられる。
それに生命保険や地震保険に入っているのなら両方とも保険料の控除が受けられるし、株をやって損したら「繰越控除」が受けられる。
最近の事例では「ふるさと納税」や「積み立てNISA」というのも節税対策の効果があるんだぞ?」
「そ、そうなんですか。でも何で誰も教えないんですか?」
「そりゃ誰だって手に入ったカネを手放したくはないし、手に入る予定だったカネが入ってこないのは嫌だろ? 小僧、お前がそうなら世界中の人間誰だってそうだ。小僧のような一般市民だろうが、政治家や社長だろうが、同じことだ」
あっけらかんとした表情でススムは進に向かってそう言い放つ。
「そういうわけだから『金持ちケンカせず』っていう言葉は本当の事だ。
金持ちにとってはのんきにケンカをするなんて、次元が低すぎてバカバカしくてやってられんことだからな。
来月も頑張ってカネを貯めるんだな。あと借金も返すことだな。まぁ頑張ってみるんだな」
【次回予告】
「貧乏人は無責任だ。無責任だからこそ貧乏なのだ。それが貧乏人の利点だ」とススムは言う。その意図とは?
第36話 「成功したければ責任を背負え」
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