第34話 運やチャンスは与えられるものか? それとも作れるものか?

 アブラゼミやミンミンゼミにまざって夕方にヒグラシの鳴き声が聞こえだした時期、暑い夏も後半という頃だ。

 今日も進は屋内でススムからの講義を受けていた。




「小僧。いきなり聞くが運やチャンスというのは作れると思うか?」

「つ、作れるものなんですか!?」

「ふーむ……その態度だと運やチャンスは作れない、天から降ってくるのを待つしかない。という考えのようだな」


 進の反応を見てススムは話す内容を吟味ぎんみして語りだす。


「小僧、お前は「運やチャンスは与えられるもの」と思っているようだがそれは『半分だけ』だが違うぞ? それらは「作ること」もできる。例えて言うなら「作れる運」や「作れるチャンス」というのは「サーフィンでいう波」だな。

 いつどこでどんな波が来るかはわからないが、波に乗れる準備をしなければ乗ることは出来ない。理屈ではそれと同じだ」


 ススムは話を続ける。


「運やチャンスというのはさっきのサーフィンの話でしたように「作れるもの」と、小僧が思っているのであろう「与えられるもの」の2種類があるんだ。

 本来は分けて考えるべきであるその2つを、全く同じ言葉である『運』や『チャンス』という一言で語るから問題が起こるのだろうな。

 だから「運やチャンスは与えられるものか?」という問いに「『半分だけ』違う」と答えたんだ」

「そうなんですか……てっきり降ってくるものかとおもっておりまして……」


 進には「運やチャンスは作れる」という考え方が無いのかあまり出しゃばらずに聞き役に徹していた。


「小僧、今回の話で『運を呼び込める』ことを知れたのは幸運だったぞ。

 金持ちは常に「俺は運がいい」と言っているが、それは小僧の言う「天から降ってくる運」と「自力で生み出した運」の両方があるから

 天からの恵みを待つだけの凡人よりは運のいい生活を送っているわけだ。

 凡人が成功者より運の無い生活を送っているのもそれで説明がつく。凡人は「運は作れる」という事を知らないからだ。ちょうど小僧、お前のようにな」


 ススムは進にそう言う。運を自力で作れないと片手落ちだ、と言わんばかりであった。


「それに小僧、天から授かる運というのは時には不相応ふそうおうの巨大すぎて不幸になる幸運も混ざっている。

 お前にとっては信じられないかもしれないが『運悪く成功してしまう』事だって世の中にはあるんだぞ?」

「え? 運悪く成功してしまう……? どういう意味ですかそれ?」


『運悪く成功してしまう』奇妙な言葉を聞いて出てきた進の疑問に答えるように、目の前の80超えの男は語りだす。




「運による実力以上の勝利というのは危ないものだ。いわゆる『ビギナーズラック』って奴だな。たまたまの運を自分の実力だと勘違いしてその後に大失敗するのはどこの業界でもよくある話さ。

 ずっと前に「ハリウッドスターは収入が多いだけの貧乏人」の話でもしたように「宝くじに当たってしまったのが不幸の始まり」というのもある。

 身のたけを超えた幸運というのは受け取っても最終的には不幸になるものさ。いつの世もそうだ」


 ススムは大切なところなのか少しだけ力みつつ進に諭す。


「小僧、覚えとけ。運を受け取るにも才能と実力が必要なんだ。

 宝くじで大当たりした人間がなぜ当選金を無駄遣いして無くしてしまうと思う? 大金を持っている状態が「身の丈に合った」物ではないからだ。

 だから「身の丈に合う」ように無駄遣いして元の生活に戻りたいから。というのも当選金を使いつぶす理由の一つにあるんだ。

 巨大すぎる運は破滅をもたらすんだ。それを受け取っても破滅しないように今から器を大きくしておくんだな。

 じゃあな。今日のプログラムに参加するからまたな」


 ススムはそう言って去っていった。




【次回予告】


8月末日の前日。いつものように貯金できたか? その成果を出す日がやってきた。


第35話 「くだらないことで言い争い肝心なことは無視する」

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