第31話 死に金を活き金にしろ
お盆が明けてもなお、ススムによる授業は続いていた。施設内の冷房の効いた涼しい部屋で話が始まる。
「小僧、今日お前に話す内容としては『死に金』を『生き金』にすることだが……これは話さなくてもいいかもな。お前はすでにこれをやってるぞ?」
「? どういう事ですか?」
「やれやれ、気づかんのか? 小僧、お前はずっと前……確か「恐怖とあせりと欲望と無知」の話をした際に、
オレの担当にしてもらったと言ってくれたじゃないか? それこそ死に金を生き金にする方法さ。こうしてオレと会話できる時間を仕事の中に作れば仕事が成長のためになるじゃないか」
「!! あ、そういう事ですか!」
そこまで言われて進はようやく気付けたようだ。
「小僧、お前は鋭い事を言うようにはなったがまだまだ鈍いな。そういう
まぁいい、お前はピンと来ないそうだからもう少し深く掘り下げていくぞ。
他にもただ食事をするだけなら単なる「消費」だが、格上の人間をランチに誘えば成功した話や失敗談を聞き出すことだってできる。
食事というただの「消費」つまりは「死に金」が「生き金」になるんだ。
頭の使い方次第では「浪費」も「投資」に変わる。もちろん何も考えなければその逆にもなる。
ずっと前にも言ったが「常に頭を使え」というわけだ。頭は使えば使うほど性能が良くなっていくし、逆に使わなければ悪くなるからな。
「これを何とか活かせないだろうか?」と考えるのは重要なことだ」
ススムがそこまで言ったとき、進が質問してくる。
「例えば、具体的にはススムさんは何をしたんですか?」
「フム……例えば、と来たか。オレはさっき言ったことと同じことをしたな。カネを貯めては株や不動産の第一人者を料亭や酒場に誘って話を聞いていた。
格上の人間を誘いまくっていたら気づいた時には株や不動産で財を成していたな」
「……そういうものなんですか?」
「まぁそういうものだな。あの頃はカネが欲しかったのと、中卒という学歴が無いのがコンプレックスでガムシャラになってやっていたからな。
金持ちや学歴のある奴を見返したい、と死に物狂いで食らいついていたからな。
あの頃は「嫉妬」を動力源に動いていたから今思い返しても不健全だから小僧、お前には真似するのを勧めたくはないな。人格が
ススムは苦すぎる過去を思い出しつつ若者に説く。
「他にも株をやる際には『勝った負けた』だけで終わらさない事だ。なぜ負けたのか、あるいはなぜ勝てたのかを分析し、再現性を持たせるんだ。
そうしないと失ったカネは失ったままになる。負けてもタダでは起きるな。もちろん起き上がれること自体とても重要なことだが、ただ起きるだけでは不十分だぞ」
老人は話を続ける。
「オレが若かったころとは株を取り巻く風景は完全に別物だな。現代ではスマホ1つで株式市場に参入できるようになって、ずいぶんとまぁ気軽に参入できるようにはなったな。だが株には魔物が潜んでいる。十分に用心しないとあっという間に喰われてケツ毛1本残らず引っこ抜かれるぞ」
「確か『保有効果』と『プロスペクト理論』でしたっけ?」
「そうだ。学習しているじゃないか小僧、大したもんだ。他にも『バンドワゴン効果』というのもあるぞ」
「あ、それ知ってます。確か選挙で有力候補に票が集まる現象の事ですよね? 株も上がってる
「……」
ススムはしばらくポカン。と口を開け、その後笑い出した。
「ククククク……ハハハハハ! いやぁビックリしたぞ! 小僧、お前勉強してるじゃないか! まさか小僧の口からそんなセリフが出るとは思わなかったぞ!」
老人はそう言って若者を
「小僧、お前がいつ本格的に株に参入するかは分からんがこれだけは覚えとけ。
『大負けをしなければ気が付いた時には勝っている』という事だ。普通の人間というのは最後に必ず『大きく負ける』ものだ。
それさえしなければお前は勝ち組の仲間入りだ。覚えておくことだな」
その日の授業は終わった。
【次回予告】
「複利は人類最大の発明である」
「複利は宇宙で最も偉大な力である」
アインシュタインが
第32話 「複利の力ってすげぇ」
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