第16話 効率を重視しすぎるな

ピピピピピ! ピピピピピ!


「ふわぁ……眠」


 6時起きに少しずつ身体が慣れているがそれでも眠いものは眠い。とはいえ課題をこなさなくてはいけないので進はススムに電話する。

 それが終わり昼食の弁当を作った後、昨日届いた「バビロンの大富豪」を読みだした。


「続き、読まなきゃな」


 幸いしおりが無くてもどこまで読んだか分かるようにしおりヒモが付いているタイプだった。眠たい目をこすりつつ出勤前の30分間、読んでいた。




「どうだ小僧、読書課題を出してから1週間たつが調子はどうだ?」

「何とか読み進めています。朝と夕方に時間作ってやってます。子供のころの読書感想文以来ですね、本読んで感想を言えなんて。

 ところでススムさん、もう少し効率的に行けませんかね? いやサボりたいわけじゃないんですけど」

「ほお、効率と来たか」


 ススムはしばらく頭の中を整理整とんした上で語りだす。


「いいか小僧、最近の人間は「コスパ」だの「効率的」なものを求めすぎるあまり「宝の種」が見えていない。本当の宝と言うのは非効率でコスパが悪いものなのだ。それに金銀財宝という分かりやすいお宝ではなく、例えて言うなら珍しい作物の種という「ひと手間」がかかるものが大半だ。

 それゆえに効率を求める大勢の人間の視界にはその宝は入って来ない。それに道を歩んでいる者には最短ルートなんて分からんものだ。

 ある程度のいただきまで上り詰めた後、振り返って初めて分かるものだ」


 ススムは話を続ける。その内容はずいぶんと過激なものになった。


「それに、もし本当に人類が効率を求め始めたら人類の8割は殺処分しなくてはならなくなる。無論「あなたは非効率なので死んでください」とか「あなたは効率的だから生きてください」なんて決めることなど天上の神ですら出来ないからやらないだけだ」

「!! そ、そんなこと起こるわけないじゃないですか!」


 その過激な発言に進はビックリして声をあげる。




「別にボケた老人の妄想というわけじゃない。もちろん殺処分とまでは行かないが、似たような事例は実際現実に起こりつつあるし、根拠となる法則もある。

『パレートの法則』というのは知ってるか? 『80:20の法則』とか『2:8の法則』とも言われるこいつは、全体の2割が成果の8割を出しているという法則だ。

その証拠として1割の富裕層が「貧乏人に自分のカネを再配分されること」要は「自分たちのカネが貧乏人のためにバラまかれている」のが許せずに金持ちだけで独立した都市を作ってしまったことがある。

 その結果金持ちは理想の生活を手に入れることが出来た一方で、金持ちからの税収に頼ってた9割の人間は貧困にあえぎ図書館も3時で閉館する羽目になった。

 これは決してSFなどの夢物語ではないぞ。この地球上で今現在進行形で実際に起こってることだ。

 しかも今に始まった話ではない。発端は5年以上も前に起こったことだ。1割の金持ちとそれに仕える1割の労働者で世界は問題なく回る。その証明だ」

「……にわかには信じられませんね」


 進にとっては想像することすらできない光景に彼はただ茫然ぼうぜんとしていた。




「そういうわけだ。これからは効率化の波に世の中の全てが飲み込まれるだろう。だがこれは逆にチャンスと言える。あえて非効率で泥臭い事をやれば大多数の人間には見えないチャンスをものにできるはずだ。何故なら大多数の貧乏人は大多数と同じことをやる。だから大多数の貧乏なままなんだ。小僧、効率は確かに重要かもしれんがし過ぎは害になるぞ。どんな薬も飲み過ぎれば毒になるのと同じだ。

 市販の風邪薬だって用法用量ようほうようりょうを守らなかったり、酒と一緒に飲むと害になるぞ。それと一緒だ」

「は、はい。わかりました」


 その日の話はそれで終わった。




【次回予告】


ススムが言うには「TVとパチンコとソシャゲは最低最悪のバカ製造装置だ」という。その意図は?


第17話 「国民総バカ化計画」

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