第14話 1時間早く起きろ

「ところで聞くが小僧、お前の起床時刻は何時だ?」

「午前7時ですけど」

「良いだろう。なら次の課題だ。明日から1時間早く午前6時に起きろ。起きた証拠として6時にオレに電話するんだ。

 オレは毎日朝5時には既に起きている。6時にはいつでも電話に出れるよう準備しているから安心しろ」


 1時間早起きしろ。と唐突に次の課題を出された。




「そんな。7時でも眠いのに6時なんて……」

「ハッ、泣き言か? なら就寝時間を1時間、出来れば2時間早めれば起きれるはずだ。小僧、お前の事だ。どうせ真夜中12時くらいまでネットの海を漂流ひょうりゅうしているんだろ?」

「!! なんで分かるんですか!?」

「フン、オレも無駄に80年以上生きてるわけでは無い。年の功は案外バカに出来る物じゃないぞ? 小僧みたいなヨチヨチ歩きの若造がやることなどすぐ読める。

 そんなの時間の無駄だ。だったら2時間早く寝たほうが肉体的にも精神的にもはるかにマシだ。

「何の目的も無しにネットを漂流」するのはTVを見るのと一緒で、何の価値も生まないからな」


 ススムにとって目の前の若造の事など「手に取るように」分かる事だった。


「それと早起きしろと言うが睡眠時間は絶対に削るなよ。

 睡眠時間を削って仕事をしていたマンガ家は総じて早死にした。

 その一方で同じマンガ家ではあるものの、本人が言うには1日10時間は寝ていたという水木しげるは93まで生きたからな。

 睡眠不足は万病の元凶だ。夜更かしなんかしたりせずに、きちんと寝ろよ」


 そう言いつつススムはスマホを取り出し、電話帳の画面を見せた。


「これがオレの電話番号だ。お前もスマホくらいは持ってるだろ? 今すぐ登録しろ」

「は、はい。わかりました。それにしてもあなたみたいな老人がスマホを使いこなしてるって凄いですね、意外ですよ」

「老人に向かって偏見とは良くないな。オレも深さで言えばあまり深くはないが、ラインやフェイスブックくらいは使いこなせているぞ」


 まるで当然であるかのようにそう言うススムは、ハイテク機器にはついていけずスマホのアプリをインストールするのにも他人の力を借りなければできない。

 という一般的な老人像からはかけ離れていた。




「ラ、ラインやフェイスブックもですか!? ハイテクですね」

「小僧、老人はバカにできたものではないぞ。俺の周りの人間はだいぶ年は取ってはいるが大抵の者は最新デバイスについていくことが出来ている。

 中にはVRチャットとか言ったか? それを楽しんでいる奴もいるぞ」

「ええ!? そんなものまで使いこなしてるんですか!?」


 進にとっては信じられないような事だった。まさか老人が最先端技術のVRを使いこなしているとまでは思いもしなかった。


「それにしても、何で早起きを課題にしたんですか? 何か目的でもあるんでしょうけど、今一つピンとこないんですが……」

「ほほお、小僧。お前なかなか鋭い事を聞くようになったじゃないか。大したもんだ、成長してるじゃないか嬉しいぞ。

 今この場で語ってやってもいいが、それではお前の血肉にはならん。

 小僧、お前がこの課題についてこれるというのなら語ってやってもいい。

 今はオレが作った課題をこなすことに集中するんだな。明日の朝を待ってるぞ、くれぐれも初日から寝坊するんじゃないぞ」


 その日の彼との話はそれっきりだった。




 その後仕事を順調に終えて進は自宅へと戻ってきた。ワンルームアパートの1階、103号室。家賃3万5千円。そこが進の住居だった。

 夕食を終え、風呂に入って歯をみがき、ネットを見て時間が来たらスマホのアラームを7時から6時に鳴るようセットする。


(もうやることが無いから寝るか……明日から早起きしなきゃいけないし)


 進はその日、いつもより2時間早い午後10時に就寝することにした。




【次回予告】


「朝6時に起きろ」という課題を出されてそれに挑む進。ススムがなぜそんな課題を出したのか? その真相に迫る。


第15話 「自ら環境を変えろ」

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