第8話 リボ払いは地獄の悪魔が作ったもの
「ところで小僧、借金はあるか?」
「借金ですか? ……無いですけど」
「そうか……」
ススムは少し考えて再び口を開いた。
「言い方が悪かったな、問い直すよ。小僧、お前はカードローンを利用しているか? 月の返済額はいくらになる?」
「カードローン? ええありますよ。月々の返済は6000円ですけど……」
「小僧、お前は愚か者だが運がよかったな。借金地獄にはまらずに済んだ。というかそもそもカードローンが借金であるという認識すらないようだな」
ススムの声のトーンが急変する。
「しゃっ、借金!?」
「そうだ。カードローン会社は「お客様のため」とか「来月の自分に助けてもらう」などと甘い言葉で誘惑してくるが、そんなのすべてまやかしだ。
カネを貸して高い利息でがんじがらめにするのが目的だ。小僧、オレがいて「本当に」良かったな。お前は借金地獄にハマって破滅する運命から逃れることが出来た」
ススムは急に態度を崩して怒鳴りちらす1歩手前の表情で、進をその鋭い眼光でにらみつけるように語りだす。
「小僧、突然だが問題を1つだそう。答えてくれ。
銀行から100万円を年利12%で借りて月々の返済として毎月1万円払うことになった。この100万円を完済できるには何年かかる?
1:10年後 2:20年後 3:30年後」
「えっと……1かな?」
進は当てずっぽうで答える。それに対する答えは意外なモノだった。
「間違いだ。正解は……『永久に借金は返せない』だ」
「ええ!?」
進は選択肢の中にない答えに大いに驚く。
「解説してやろう。100万円を年利12%という事は1年間に産まれる利息は12万円だ。それに対して月々の返済額が1万円だとすると、年間で12万円になる。
月1万円の返済だけでは利息に対して払うだけで元金は減らない。だからいつまでたっても借金は減らない。
10年後も、20年後も、30年後も、それどころか50年後も、100年後ですら! 利息だけを永遠に、終わることなく払い続けることになるのさ」
「ちょっと! そんなの卑怯じゃないですか! 選択肢の中に正解がないなんて酷いじゃないですか!」
「そうだ! 『だから』ダメなんだ!」
「!?」
酷い答えに怒る進を「だからダメだ」とススムはバッサリと言い放つ。
「オレは問題の中で『選択肢の中から選べ』と言ってはいないし『選択肢の中に正解がある』事を保証した覚えもない。小僧、お前が全部勝手に考えて勝手に判断した事じゃないか」
「!! でもやっぱり卑怯ですよ! 選択肢を出されたら普通はその中から選ぶじゃないですか!」
「相手はその辺を織り込んだうえで話をしてくるんだ。世の中はそういう物だ。
特にカネに関してはどいつもこいつも小僧、お前の言う『卑怯な手』を当たり前のように使って仕掛けてくる。だからこそ慎重にやれと言ってるんだ」
ススムの口は止まらない。
「リボ払いは地獄の悪魔が考え出したものだ。払うのは月々の利息ばかりで元金は減らない。小僧、お前は利息だけを永遠と払い続けるさっきの問題に出てくる奴と何一つ変わらん。実際、また聞きを含めればリボ払いが払えなくなって自己破産した者の話はオレが聞いているだけでも何人もいる。借金は少しでも早く返さないとだめだ!」
ススムはそう言って進を一喝する。
「小僧、課題を出そう。来月から月々の支払いの中から3割天引きしろ。
1割は変わらず貯金用、そして2割は借金の返済に充てろ。今日と同じように来月の月末前日に6万円持ってこい」
「さ、3割!? 1割ならまだしも3割は無理なんじゃないんですか!?」
「出来る。オレも昔借金を作ってその返済に同じ方法で挑み、完済した。家庭の事情で高校に行く事すら出来なかった学の無いオレですら出来たんだ。
小僧、お前が高卒か大卒かは知らんが、おそらくオレ以上に学のあるであろうお前に出来ないわけがない。やってみせろ。出来ないのなら教えは来月で終わりだと思え!」
元々鋭い眼力をさらに強めてススムは進をギロリとにらみつけた。
【次回予告】
「収入の3割を貯めろ」進はススムからの課題にほとほと困り果てていた。1割位ならまだしも、3割は無理だからだ。
第9話 「常に頭を使え」
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