第24話 ベルガル・ゾート

とは言え、どうする?

ベルガルの実力は俺以上だ。

正面からでは負ける。


・ベルガル

「では行くぞ!」


ベルガルが先に動く。

気を抜くと見失う速度だ。


・ベルガル

「はぁぁぁ」


どうやら格闘術のようだ。

武器は使ってこない。

しかし一撃が重そうだ。

全部躱せ!


・「『闘魔術』」


俺は再び魔力を纏う。

全魔力の8割ほどだ。

完全にコントロールできる力の全て。


今はこれが俺の全力だ。


ベルガルの攻撃を避けつつ攻撃に移る。

相手も同じ様に避けては攻撃してくる。

お互いに隙を狙いつつ打ち合う。


・ベルガル

「いいぞ、素晴らしいぞ。

その調子で攻撃して来い!」


楽しそうな相手に対し俺は結構ヤバい。

一瞬でも気を許せば負ける。


・「うぉぉぉ」


このままの状態が続けば俺が負ける。

精神力の消耗が激しい。

どこかでミスが出る。

その前に手を打たなければ。


俺は『魔弾』を混ぜ始める。

近接と近距離魔法。

間合い存在を曖昧にする。


・ベルガル

「ほう、この高速戦闘で魔法を放つか。

貴様、相当戦い慣れているな。」


毎日拳聖と戦ってるからね。

これくらい出来なきゃ瞬殺ですよ。


・ベルガル

「では俺も答えよう。」


そう言った瞬間。

ベルガルから魔法が放たれる。


・「くっそ、」


何とか紙一重で躱す。

しかし体制が崩れてしまった。


・ベルガル

「貰った!」


ベルガル渾身の一撃が俺を襲う。

不味い!


・「魔弾!」


とっさに自分に魔弾を放つ。

そして目の前で爆発させた。

ベルガルもろとも巻き込む。


・ベルガル

「まさか自身をも巻き込むとはな。

思わず拳を引いてしまった。」


上手くいった、、、

お陰で自分にダメージを食らった。

しかしあの攻撃をまともに食らてたら、多分勝負はついていただろう。


・ベルガル

「瞬時に勝負の天秤を掛ける頭脳。

躊躇なく実行できる度胸。

そして戦闘技術。

素晴らしいじゃないか。」


嬉しそうに語るベルガル。


・「結構褒めてくれるんだね。」


俺は少しでも時間を稼ぐ。

次の攻撃の布石を作るために。


・ベルガル

「ああ、素晴らしいぞ。

こうして話している間も次の準備をする。

気を抜けない戦い。

これ程の戦いをするのは久しぶりだ。」


バレてたか、、、

俺は魔石を砕いた粉を散布していた。

バレない様に少しずつ。


・ベルガル

「どんな攻撃が来るか楽しみだ。」


・「そうかい。」


ベルガルがにやける。

ならばお望みどおりにしてやるよ。

俺は指先だけを動かす。

大きな動作はいらない。

相手に悟られない様に。


・「魔石爆破」


散布した魔石の粉に魔力を流す。

そして爆破を行う。

小さな爆発は連鎖的に広がり多きな爆発へ。


・ベルガル

「なっ!」


ベルガルは爆発に飲み込まれる。

俺は瞬時にその場から離れる。

同じ場所に居てはいけない。

何故なら今、敵が見えないからだ。


ナナ師匠には何度もそれでやられた。

気を抜くな!

この程度で倒せる相手じゃない。


・ベルガル

「これは驚いたぞ!

まさかダメージを食らうとはな。」


ベルガルの右手から出血が見られる。

あの爆発であの程度か。


・ベルガル

「更に油断せず移動する。

良い心構えだ。

同じ場所に居たら殺してやろうと思った所だ。」


随分余裕だな、、、


・ベルガル

「では再開だ!」


ベルガルが突っ込んでくる。

引っかかったな。


・「『魔力爆破』」


次は魔石の粉を使わない。

魔力を粒子として薄く散布した。

魔石の粉を使わなくても出来るんだ。

まさか同じ技が来るとは思うまい。


・ベルガル

「何?感知出来ぬ攻撃だと!」


さっきと同じように爆破する。

そして同じ様に後ろに下がる。


・ベルガル

「ぬかったな!小僧!」


全く同じ動きの俺を追撃するベルガル。

そう、同じ動きだから読みやすい。

必ず追ってくると思ったよ。


・「『地裂撃』」


俺は地面を直線的に爆破する。

逃げる時に魔石の粉を線上に蒔いた。

直線的に来る敵には持って来いの技だ。


・ベルガル

「ぬぉぉぉぉ」


俺を追って来たベルガルに直撃する。

よし、モロに入った。

ベルガルは宙を舞う。


・「ここだ!」


俺はベルガルに追撃を試みる。

『空走』で瞬時に移動。

そして無防備のベルガルに連撃を加える。


・「はぁぁぁぁぁぁ」


ここで決める!

俺は何発も打ちまくる。

数え切れない程の連撃を。

最後にベルガルを地面に叩きつけた。


・「はぁはぁはぁ」


一息も付けない様な連撃。


・ベルガル

「ぐぅ、、、、」


ベルガルは生きている。

しかし相当なダメージを負ったようだ。


・「なんとか、、、倒したか。」


俺はベルガルを見て安堵する。

何とか倒せた。


・ベルガル

「ふふふ、、、強いな、ニュート。」


初めて名前を呼ばれた。


・ベルガル

「合格だ、、、本当に久しぶりだ。」


倒れながらベルガルが話しかけてくる。

嫌な予感がする。

意識を断たねば、殺さなきゃ。


・ベルガル

「この痛み、俺をここまで追い詰めた。

誠に見事としか言えない。」


ゆっくりと立ち上がるベルガル。

俺は動けない。

何故だ?


・ベルガル

「お前の勝ちと言っても良いだろう。

だが、戦いはこれからだ。」


ベルガルの身体が光る。

姿が変わっていく。

魔力が、、、体を纏っている。

まさか、、、、


・ベルガル

「この姿になるのは何百年ぶりか?

勇者と戦った以来だな。」


凄まじい魔力を感じられる。

先程の比じゃない。

それに、この魔力の使い方。

『闘魔術』と同じじゃないか。


・ベルガル

「俺を本気にさせてくれた礼だ。

あの小娘と小僧は生かしといてやる。

ニュートよ、お前の全力を見せてくれ。」


無茶な事を言う、、、

さっきまでが俺の全力だった。


・ベルガル

「では、行くぞ!

すぐに死んでくれるなよ。」


消えた、、、完全に消えた。

思考が停止する、体が勝手に動く。


・「ぐは」


凄まじい衝撃。

俺は吹き飛ばされた。


・ベルガル

「防御反応は凄まじいな。

反射に近い防御か?

まるで勇者の聖剣みたいだな。」


俺は何とか立ち上がる。

しかしベルガルは再び消える。


・「がは」


2度目の衝撃。


・ベルガル

「これも反応するか。

なんとも恐ろしい奴だ。」


何を言ってるか解らない。

意図的に動いている訳ではない。

体が勝手に動く。

特訓の日々が思い出される。


毎日、死を体感できるような特訓だった。

何度も死を確信した時があった。

師匠の手加減で死の一歩手前だったが。

確実な死を何度も感じられた。


それからだ、体が勝手に反応するんだ。

ナナ師匠に出会っていなかったら。


俺は何度もベルガルに殺されている。


・ベルガル

「だがいつまでそうしていられる?」


三度ベルガルが消える。

あいつの姿が見えないんだ。

対応なんて出来ない。

しかし体は反応する。


・「が!」


体がくの字に曲がる。

ダメだ、意識が飛ぶ。

勝てる気がしない、、、


俺はその場に倒れる。


・ベルガル

「3発か、、、よくぞ耐えたな。

一撃で沈むと思っていた。」


こんな状態で褒められてもな。

無様だな、、、


・ベルガル

「さて、門を破壊して帰るか。」


門を、、、、破壊?

街を破壊するのか?


そうか、そうだったのか。

俺はどこかで安心していた。


キロスとクラスは無事。

その事だけで安心していたんだ。


俺は安堵していた。

負けても良いんだと。

何を考えていたんだ?


・「ぐ、、、、ぅぅ」


俺は立ち上がる。

負けて良いなんて戦いはない。

死なないから大丈夫?

ふざけるな!

俺は甘えていただけだ。

これは戦争だ。


・「ぅ、、、ぉぉぉ」


・ベルガル

「まだ立てるのか?」


何が全力だ。

何が大丈夫だ。


甘えるな。

今ここには俺達しかいない。

俺が諦める訳にはいかない。

例え死んでも、、、


・「お前を、、、倒す」


・ベルガル

「素晴らしい気迫だ。

だが、お前に何が出来る?」


後先なんてどうでもいい。

勝手に限界を決めるな。

何も考えるな!


・「ぬぁぁぁぁ!」


全魔力をふり絞る。

俺のすべてを残らず絞り取れ!


・「ああああああ!」


全身全霊の『闘魔術』。


・ベルガル

「まだ本気ではなかったのか?

これは、、、まるで」


ベルガルはそこまでしか話せなかった。

ニュートの拳が顔面を捕らえる。


・「うわぁぁぁぁぁ」


悲鳴に似た叫び声。


・ベルガル

「ぬぅぅぅ」


俺の一撃で吹き飛ぶベルガル。

ベルガルも反撃を試みる。

しかし既にニュートの姿はない。


・ベルガル

「どこだ!」


直後、地面が爆発する。

宙を舞うベルガル。

ニュートはそこに居た。


・「はぁぁぁぁぁ」


ニュートの連撃が始まる。

ベルガルはガードする。

しかしガードをすり抜けて攻撃してくる。


・ベルガル

「ぐぉぉぉぉぉ」


的確に打撃を入れてくるニュート。

ベルガルは防御に徹する。

気を抜いてはいけない。


・ベルガル

「一撃一撃に何かが宿っている。

なんだ?この威力は!」


ニュートは『魔装術』を同時に使う。

更に『魔弾』も混ぜ込む。


・ベルガル

「何なんだこれは!」


ベルガルの防御した腕が弾け飛ぶ。

更にガードした片足も吹き飛んだ。


・ベルガル

「不味い!

『魔晄覇断撃』!」


死を感じたベルガル。

残された左腕で放った必殺技。

それは見事にニュートを捉えた。


・ベルガル

「すまぬ、、、ニュート。」


ニュートはまともに食らった。

そのまま意識を刈り取られる。


落下する二人。

ニュートに意識はない。

このままでは地面に激突してしまう。


するとベルガルがニュートをかばった。

二人は大きな衝撃と共に落下した。


・ベルガル

「見事であった、、、、」


ベルガルはもう戦えない。

片腕と片足を失ったのだ。

だがそれよりも悲しい事があった。


・ベルガル

「貴様の成長を、もっと見たかった。」


ベルガル最強の必殺技『魔晄破断撃』。

とっさに繰り出してしまった。

それほどまでに追い詰められたのだ。


・ベルガル

「だが、お前の強さは本物だったぞ。

ニュートよ、誇りに思うがいい。」


既に息絶えているであろう人間。

ベルガルは優しく見つめた。


・「ふ、、、、ふ、、、、」


・ベルガル

「生きている!」


ベルガルは驚いた。

しかし悠長な事は言っていられない。

すぐにでも死んでしまいそうだ。


・ベルガル

「小娘ぇぇぇぇ」


ベルガルは必死にクラスを呼ぶ。

その叫び声でクラスは放心状態から目覚める。


・クラス

「ニュート!」


クラスは必死に駆け出した。


・ベルガル

「小娘、俺のポーチに秘薬がある。

早くニュートに飲ませてくれ。」


必死に頼むベルガル。

クラスはすぐに指示に従う。

魔族と人間。

しかし今はニュートが先決だ。


・クラス

「これですね。」


・ベルガル

「そうだ!早く飲ませろ。」


ニュートの状態はかなり深刻だ。

『魔晄破断撃』で内部破壊されている筈。

本来なら即死するような技だ。


・クラス

「ニュート、死なないで!」


クラスはすぐに治癒魔法も掛ける。


・ベルガル

「治癒魔法の使い手か!

いいぞ、これを使え!」


ベルガルはポーチから更に道具を取り出す。


・クラス

「これは?」


・ベルガル

「これは『奇跡の実』だ。

昔、ある人から譲り受けた秘宝だ。

二つとない品で魔力を何十倍にもさせる。

今のお前に必要だろう。」


クラスは迷わず口にする。

今は何でもいい。

ニュートを救いたい。

それだけが願いだ。


『奇跡の実』を口にしたクラス。

信じられない程の魔力が湧きだす。

その魔力はクラスの願いを叶える。

瞬時にニュートを癒す事に成功した。


・ベルガル

「良かった、、、。」


ベルガルは安堵した。

そして驚愕する。


・ベルガル

「小娘?何を。」


クラスがベルガルも治し始めたのだ。


・クラス

「ニュートを助けてくれたお礼です。

出来れば、このまま帰ってください。」


返事も聞かずに魔法をかける。

無くした腕が、脚が再生する。


・ベルガル

「まさに『奇跡』、、、

秘宝と呼ばれるだけはある。

だが、この娘の行動。

俺には理解できん。」


ベルガルは大人しく治療を受けた。

そして、


・ベルガル

「お前に借りが出来たな。」


ベルガルは立ち上がった。

腕を、脚を動かす。


・ベルガル

「して、そなたの名は?」


・クラス

「クラス・カーティスです。」


クラスは魔族に名乗った。

魔族はその名を心に刻んだ。


ベルガルは考える。

無力な人間の娘。

しかし娘は自分を救った。

あのままにしておけば俺は死んでいた。

なのに娘は魔族である俺を救ったのだ。


ベルガルは決断した。


・ベルガル

「我が名はベルガル・ゾート。

既に魔貴族ではない。

魔貴族のベルガルは死んだ。

今この時より、

クラス・カーティスの配下となろう。

この命、クラス様の為に。」


クラスに跪いた。


・クラス

「ええぇぇ?」


クラスは驚きを隠せない。

何が起こったのか理解できなかった。

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