第15話 救出は迅速に


・ヒューイ

「大量のワームを抜けた先に洞窟があるんだ。

そこに仲間が一人取り残されちまった。

名前はチェルシー、俺たちPTの回復役だ。」


やはりそういう事か、想像通りの展開だ。


・「事情は把握した。

俺はニュート、こっちはクラス。

クラスは回復が使えて、俺が前衛をやっている。」


冒険者同士、対等に話し合わなきゃいけないから敬語は辞めておこう。


・ヒューイ

「ニュートにクラスだな、すまない助かる。

俺の事はヒューイと呼んでくれればいい。

マスクが風属性でスカウト、武器は弓。

俺が土属性で盾役だ、武器は剣と盾。

すぐにでも救助に向かいたい、

ニュートの属性を教えて欲しい」


やっぱりそういう会話になるよね、

連携を考えなきゃだし、反応が何となくわかるんだけど言わなきゃだめだよな。


・「、、、武器は籠手、属性は無属性だ。」


・ヒューイ

「無属性?まさか無能者か?」


・マスク

「足手まといが増えただけか、、、」


聞こえてるよ、マスクさん。

まぁ慣れっこだから平気だけどね。


・クラス

「足手まといと言うのであれば勝手にどうぞ。

さぁ帰りましょう、ニュート」


俺の代わりにクラスがめっちゃ怒ってる。


・ヒューイ

「ま、待ってくれ。無礼は謝る。

頼む、助けてくれ。」


ヒューイの必死の嘆願に対しかなりドライなマスク、反応的にはマスクさんが正解だと思う。


・マスク

「ヒューイ、悪いが俺はここまでだ。

崩壊したPTを立て直すまでの契約はしていない。

悪く思うなよ。

ここまでの報酬と配分は貰っていくぞ。」


・ヒューイ

「そんな、、、頼むもう少しだけ助けてくれ。」


・マスク

「バカ言うな、契約はワームの巣までの案内だ。

少数人数でワームの巣に乗り込むなんてバカのする事だ、最初の契約金で戦う相手じゃない。」


・ヒューイ

「そんな、、、状況次第では戦ってくれると、」


・マスク

「契約には含まれていない。

もう一人の護衛も死んだ。

頼みの綱の新しい護衛も無能者と来た。

悪いが救出は無理だ。

あんただけでも生き残れてラッキーじゃないか。

チェルシーと言う女も可哀そうだが、、、

明日には骨すら残らないだろうな。

だいたいあの洞窟に行くには索敵しながら進まなきゃいけない、ワームどもは地中に居るんだ。

その進み方だと2時間はかかるだろう。

そうなったらもう日没だ。

到底間に合わない。」


正論で捲し立てるマスクさん。

力なく項垂れて泣き崩れるヒューイ。


・ヒューイ

「そんな、チェルシー、、、、

ごめんよチェルシー。」


そんな二人のやり取りを見ていたら、


・マスク

「お前も文句あるのか?無能者。」


要らぬとばっちりが、、、


・「いえ、文句はありません。

契約内容以外の事を強要するのは冒険者としてはタブーです。何より契約履行したのであればその時点で報酬をもらうのも当たり前の権利。

マスクさんのいう事が正論でしょう。」


・マスク

「ほぅ、無能者のわりに冒険者の事を解ってるな。

お前程話の分かる奴なら、今後何かしらの依頼を受けてやってもいいぞ。

何か困ったときは言いな、安く請け負ってやるぜ。

じゃあ、俺は街に戻る。

お前らはどうする?

無償で送ってやってもいいぞ。」


結構ひどい事を言っているようで何気に優しい人だな、街までの護衛も依頼に出来るのに、、、


・「ありがとうございます。

私たちはもう少しここに用事があるので、」


・マスク

「そうか、ニュートとか言ったな。

無能って言って悪かった。

お前のやり取り、冒険者としては合格点だ。

あまり遅くなる前に戻れよ?

夜になるとワームどもは活性化するから。

そうなればチェルシーって子も終わりだ、、、

ヒューイ、無茶だけはするなよ?」


情報も無償で教えてくれた。

悪い人ではないんだな、、、

冒険者として当たり前の選択をしたまでの事。

おれはマスクさんに頭を下げて情報のお礼を言う。

最初の印象は悪かったが、話している間に何となく和解した感じになれた。

そしてマスクさんは戻っていった。


・ヒューイ

「うぅ、、、チェルシー、、、」


・クラス

「ニュート、悔しいですが私たちも戻りましょう。

ヒューイさん、立てますか?」


クラスが優しくヒューイさんを立たせる。

このまま街に戻ろう、、、

きっとそれが正解なんだろうね。


・「ヒューイさん、

チェルシーさんが居る場所は解りますか?」


・ヒューイ

「えっ?」


驚いた顔のヒューイ。

何となくそう来ると感づいていたクラス。

二人が俺の顔を見る。


・「マスクさんが教えてくれました。

ワームが活性化する日没までにチェルシーさんを救出すれば間に合うかもしれない。

そういう事ですよね?」


俺は笑顔で答える。

ヒューイさんの目に力が戻ってきた。


・ヒューイ

「しかし、この先は本当に危険だぞ?

それに、スカウトのマスクもいない。

ワームがどこから襲ってくるかもわからない。」


・「時間がありません、増援を呼んでる暇もないのであればこの人数でやれるだけの事はしましょう。途中で無理と判断した時は直ぐに退却します。

何もしなければ何も生まれない。

可能性があるならあがいてみませんか?」


きっとライ兄ならほっとかないと思う。

無理はしない、、、

でも出来る事をやらないで引く事は出来ない。


・クラス

「危険だと感じたら即退却、それまでは救出と言う方向なら私たちは協力します。

ヒューイさんもそれでよろしいですか?」


・ヒューイ

「ほ、本当に助けてくれるのか?

死ぬかもしれないんだぞ、君は属性無しだろう?」


・「死ぬのは嫌ですが、俺は冒険者ですから。」


俺はそう切り返した。

冒険者が想像上だけの危険を恐れてどうする。


・ヒューイ

「ありがとう、本当にありがとう」


・「お礼は助け出した後で良いですよ。

もう時間がない事には変わらない、

チェルシーさんの居場所は解りますか?」


・ヒューイ

「この先にある大きな骨の部分に洞窟がある。

その入り口付近で逸れてしまったから、その辺りを探せばきっと。」


少し遠いが確かに大きな白い物が見える。

あれって骨だったんだ、、、デカいなぁ~。


・「では行きましょう、先頭は俺が行きます。

クラスを守りつつ付いてきて下さい。」


・ヒューイ

「だめだ、危ないぞ!

先頭は俺が行くから、ニュートは下がってくれ。

君も何とか言ってくれ。」


動き出そうとした俺を止めようとするヒューイ、

クラスにも俺を止めるように促す。


・クラス

「大丈夫ですよ、ニュートは強いんですから。

それに、急がないとチェルシーさんが危ない。

正攻法なら無理だと言ってましたし。

ここはニュートに任せましょう。」


ありがとうクラス、助かるよ。


・「俺は前の事に集中します。

討ち漏らす可能性もある、その時はクラスを守ってください。」


さぁ、集中だ。

隠れて襲ってくるであろう魔物の姿は無い。

でもチャッピーに比べたら何てことない。

気配で居場所がバレバレだよ!


・「駆け抜けます。

そのまま真っ直ぐ来てください」


俺は一気にスピードを上げる。

俺たちが通るであろう道の筋の周りにいる敵を殲滅させるんだ。

魔物の気配をたどり、近くまで行く。

すると地中から襲ってくる魔物。

この作戦はスピード勝負だ。

加減なんてしていられない。


『魔装術』


俺は全身に魔力を纏い、一撃で敵を粉砕していく。

ジグザグに進みながら近場の敵を倒す。

倒す、倒す、倒して進む。


・オーワームを倒しました

・オーワームを倒しました

・オーワームを倒しました

・オーワームを倒しました

・オーワームを、、、


同じ敵の名が流れる、だが気にしていられない。

進め、止まるな、一気に行くぞ。

3人の移動速度は普通に走って移動するのと変わらない、ニュートは迷わずに敵を誘い出して倒す。


・ヒューイ

「す、すごい、なあクラス、

ニュートって本当に属性無しなのか?

信じられない、、、」


唖然の表情を浮かべるヒューイ、

ちょっとドヤ顔のクラスが答える。


クラス

「属性無しではありません。

ニュートは言ったでしょう?

「無属性」だと。

彼は無と言う属性を使っているんです。」


・ヒューイ

「「無属性」?

それって属性無しと同じじゃないのか?」


・クラス

「今は解らなくてもいずれ解ります。

ニュートは常識なんて全て壊してくれる。

だから、彼に任せれば無理な事も可能になる。」


約20分、倒しながらの移動が続いた。

普通に進めば2時間の道のりを20分で走破した。

後ろからは無数の気配がする。


・「ワームが多数来てる。

クラス、広範囲の魔法を頼む。」


・クラス

「解ってる、任せて

タイミングと打ち込む場所だけ指示して」


既に魔力を溜めていたクラス。

俺の考えていることが分かるのかな?

頼もしいパートナーだ。


・「狙うのはあそこだ、準備は良い?

3.2.1.いまだ!」


『魔弾・流星』


クラスが魔法を唱える。

大きな『魔弾』が飛んでいき、途中で分裂する。

まるで無数の大砲を放ったような光景だ。

ニュートが指示した辺りを凄まじい爆発が襲う。


・オーワームを倒しました

・オーワームを倒しました

・オーワームを、、、、


無数のアナウンスの後、沈黙が訪れた。

よし、気配は無くなった。

しかしクラスのあの魔法、凄い威力だったな。

振り向くとドヤ顔のクラスさん。

うん、凄かったです。

俺はクラスを大いに褒めておいた。


・ヒューイ

「そんな、君は治療担当だと言ったはずなのに。

君達は一体、、、」


呆気に取られているヒューイさんを現実に引き戻す、まだ目的が達成したわけじゃない。


・「チェルシーさんが待っています。

先に進みましょう。」


・ヒューイ

「そうだ、急がなければ。

そんなに奥には言っていない筈だ、奥の方が危険だと知っているから。

どこかの陰で隠れているはず。」


俺たちは警戒しながらも急いで移動する。

そして見つけた、チェルシーさんだ。


・ヒューイ

「チェルシー?無事か?チェルシー!」


発見したチェルシーさんは恐怖のあまり震えて声も出ない、状況も把握できない程混乱している。

それを見たヒューイさんも混乱しながらチェルシーさんの名を呼ぶ。

涙や小便、鼻水、様々な液体を流しながら震えている、焦点の合わない目でこちらを見たチェルシーさん、想像を絶する恐怖だったんだね。


・クラス

「このままでは心が死んでしまいます。

まずは気持ちを安定させます。

ニュート、周囲の警戒を願い。」


そう言ってクラスはチェルシーさんに魔力を流し始めた、恐怖と言う状態異常を治しているのだろう。

俺はヒューイさんをチェルシーさんから離して落ち着かせる。

出来る事をやろうと、2人で周囲の状況を探る。

暫くするとチェルシーさんは落ち着きを取り戻してきた。


・チェルシー

「こ、、怖かった。

もう、食べられるだけだと思った。」


何ながらクラスに抱き着くチェルシーさん。

クラスは優しく抱きしめながら大丈夫だと諭す。


・クラス

「もう、大丈夫ですね。

みんなを呼びましょう、あ、、その前に。」


クラスが自分の着替えを鞄から出してチェルシーに渡す。チェルシーさんが着替えた後、クラスが俺たちを呼び4人は合流する。

合流すると同時に抱き合うヒューイとチェルシー。

2人の世界に入ったみたいだ、、、

少しの間そっとしておこう。


・「クラスお疲れ様。

やっぱりクラスの回復魔法は凄いね。」


・クラス

「いえ、私だけの力じゃ無理だった。

この『祝福の杖』のおかげで回復速度が格段に上がったの、お陰で心が崩壊していく速度よりも早く修復出来たわ。

この装備じゃ無かったら助けられなかった。」


・「あの時の、死にかけたウルフ戦も無駄じゃなかったってわけだね」


・クラス

「そうね、あなたが私にくれたから、、、

ありがとう、ニュート。」


俺に寄り添ってくるクラス。

余程嬉しかったんだろうな、ヒーラーの鏡だね。

でものんびりはしていられない。


・「チェルシーさんも無事確保できました。

急いで戻りましょう。」


俺の声に同意するメンバー。

帰りも同じ要領で帰る事にしよう、、、

日は傾いてきていたが、迅速な行動が功をなして日暮れまでには救出が完了した。

オーワームを退けた一行はワームの巣を後にする。

そして、日が暮れるころには街に到着する。

チェルシーとヒューイは俺たちにお礼を渡そうとして来たが断る事にした。

帰りの道すがら、チェルシーとヒューイは冒険者を辞めて結婚するという話を聞いたからだ。

今回の事は最後の思い出に、しっかりとした護衛を雇いオーワームの巣に出向いて、最後のトレジャーを満喫する過程で起きた事故だったのだ。

俺たちへの謝礼金は結婚資金から出すと言い出したので断った。

最初は押し切ろうとしていたヒューイだったが、クラスの身分を聞いて諦めていた。

ちょっと落ち込み気味のヒューイに対してクラスは、結婚式に呼んでくれれば良いと言う事にして丸く収めていた。

こういう交渉も貴族として習うのだろうか?

話の持って行き方が非常に上手かった、、、

口論ではクラスに勝てない。

そう悟ったニュートだった。

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