第35話急速展開
「小者隊はネズミの輸送に徹するんだ。
中間隊はネズミが消えたのに合わせて、一角兎を担いで駆け抜けろ。
足軽隊は確実にネズミを斃せ、慌てなくても予備隊が支援してくれる。
若党隊は一撃必殺のある一角兎が相手だ、盾を活用するんだ。
徒士隊は犬を確実に斃せ、斃したらグズグズせずに予備隊と交代だ」
「「「「「おう!」」」」」
俺の指示を聞いていた各部隊の長が、明確に返事を返してくれる。
初ダンジョン探査で一緒だった、最初の百人が、今では各部隊の指揮官だ。
戦場で知った性格に合わせて、預ける部隊と人員を選んだ。
慎重な者や攻撃的な者、利益を優先する者や名誉を重視する者、一人一人の性格によって、任せられる狩場も違えば、預けられる人間も違う。
俺にそれを見抜き編制するだけの見識や経験があるはずもなく、両閣下はもちろん、父上や御爺様、フォレスト達に教わってようやくできたことだ。
初ダンジョン探査から一カ月以上たち、部隊が一気に二十倍近くに増加され、役割分担されて、効率的に魔獣が狩れるようになった。
小者隊は、ネズミ狩りを専業とする足軽三個隊が狩った獲物を、ダンジョンから地上に運ぶのが役目だ。
中間隊も同じように、一角兎狩りを専業とする若党三個隊が狩った獲物を、ダンジョンから地上に運ぶのが役目だ。
徒士隊が狩った犬に関しては、ほぼ魔獣狩りが終わって安全とはいえ、ネズミ区画と一角兎区画を通過しなければいけないので、徒士隊自身が運ぶことになっている。
どうもダンジョンというものは、魔獣を狩りつくすことができない仕組みのようで、魔獣を狩りつくしたはずの区画に、成体の魔獣が湧いてくる不思議な場所だ。
理由や原因など考えても無駄な事で、そういう場所だと思い定めて、安全を確保して最大の利益を上げる事が、俺に課せられた役目だ。
そして今のところは、その役目を果たせていると思う。
俺自身が直接指揮しているのは、増設された騎士三個隊で、俺はダンジョン探査騎士団長という役目を頂いている。
今までの皇国なら、依怙贔屓と陰口を叩かれるところだが、今ダンジョン探査に選ばれている者たちは、皇国文武官登用試験で合格しながら、不遇な立場に置かれていた者達なので、それが正当に評価され始めたと喜んでいる。
なんと言っても、俺は、高級武官登用試験と高級文官登用試験の両方に首席で合格している、唯一無二の存在だから。
そして騎士三個隊は、巨大な大羊を狩っている。
大型の牛ほどの大きさもある、草食だがとても獰猛な羊だ。
その頭突きの破壊力は恐ろしく、鉄製の大楯を一撃で粉砕し、熟練の盾使いを吹き飛ばして絶命させるほどのものだ。
だが、狩れた時の利益はとても大きい。
大羊の毛皮は皇国で狩れるどんな獣よりも良質で、騎士家の生活を潤すことができるだけでなく、皇国の収入源としても馬鹿にできないモノがある。
大きいだけに取れる肉の量も多く、騎士家の家族全員がお腹一杯肉を食べることができるだけでなく、家臣に商家に売りに行かせることができるほどだった。
問題はいかに損害をださずに狩るかだったが……
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