第10話

 いくつか『異世界転移者特典』がある。

 一つは『経験値4倍』だ。

 これはある意味救済処置だと思う。

 地球でレベルアップという概念はない。

 つまり転移者は否応なしにレベル:1だ。

 この世界の誰よりも、子供よりもレベルは低い。

 そんなレベルの低いヤツが、この世界を滅ぼそうとしている存在と闘わなくてはいけない。

 そりゃ神から『経験値4倍にしてやるから頑張れよ』と言われる。

 ネカフェでMMOをすると『今だけ経験値4倍』とか書いてあるじゃん。

 『今だけ』とか書いてあるけど『いつまで』経験値4倍なんだろうか?。

 それはともかく『今更、レベル:1からなんてやってられないでしょ?。』って言う運営からの心配りだと思う。

 女神も転移者に心配りで『経験値4倍』にしたと思うんだけど、俺はその特典を利用する。

 経験値4倍で敵を倒しまくる。

 体力回復はレベルアップ。

 俺は弱者に対する救済処置も利用して強者になる。

 これが『基本無料』のMMOと同じシステムなら、成長はどこかで必ず頭打ちになる。

・・・で、これまでの順調さが嘘のように、身動きが取れない状態になるはずだ。

 如何にその状態が来るのを遅らせるか、その状態が来たらすぐに元の世界に撤収出来るかがポイントになってくる。

 問題は『課金』の代わりに何を払わなくてはいけないのか。

 払える物であれば、払っても良い。

 それで人生楽勝になるなら払うべきだろう。

 しかし払う物は取り返しのつかない代償である気がする。


 それともう1つの今のところわかっている『異世界転移者特典』が全言語翻訳機能だ。

 これだけで地球では飯を食っていける。

 

 コレで能力が上がってモテモテになったなら、この特典だけもらってトンズラしても良かったかも知れない。

 レベルアップしても全然モテなかったから、もう少し身体を鍛えてモテよう、と思ったのかも知れない。


 自転車でアパートに帰ってくる。

 そして名残惜しいが本棚の漫画を全てバッグに詰める。

 そして一路ブックオフへ。

 漫画は全部で4000円になった。

 そしてブックオフの二階に行く。

 ブックオフの二階は古着屋になっている。

 ジャージはボロボロになってしまった。

 ゴブリンと闘う時の服を買いに来たのだ。

 異世界で防具を買えば問題はない。

 でも、異世界の金は一円も持っていない。

 つーか、異世界の貨幣単位を知らない。


 ある程度丈夫な服が良い。

 じゃないとまたボロボロになって買い直さないといけなくなる。

 「出来るだけ丈夫な服を・・・。」と店員に注文を出すとデニムのオーバーオールとGジャンを勧められた。

 確かに丈夫だ。

 しかもサイズピッタリだ。

 値段も5000円。

 手持ちの金全てを注ぎ込めば、買える値段だ。

 しかしデニムのオーバーオールか。

 俺はグルメロケにいるデブタレか!。


 これ以上金が必要になるなら、日本でもアルバイトする事を考えたほうがよさそうだ。

 しかし、異世界でクエストをしてトレーニングして、日本でもトレーニングして、その上アルバイトまでしなきゃいけないとか地獄でしかないな。

 しかも大した儲けにならないのな。

 大事にしてた漫画売らなきゃならんくなったし。

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