第12話 ツバキ

「……誰の依頼?」


背後から背筋が凍り付きそうなほど冷徹れいてつな女の声。


「……」

私は突然なことに、声が出せない。

私は、忍に背後を取られた…?


首に当てられたクナイが、ゆらゆらと動く。

「…枢機卿エリカは今日、私がる予定だった。…でもあなたが居たわ」


私は、とにかく時間が欲しかった。

何が起きてるのか、理解する時間が。

「…あ、あなたは?」


背後の女は失笑した。

そして、あえて私の時間稼ぎに付き合う。

「……まぁいいわ…私はカメリア教団の忍…ツバキ……エリカに代わり枢機卿すうききょうになるわ」


私は、とにかく話を続ける。

「…カメリア教団の忍が、枢機卿を…何が起きてるの?」


ツバキはクスッと笑った。

「…あなたには関係ないわ……そろそろ、こちらの問いに答えなさい…あなたの依頼主は誰?」


私の頸動脈に当てられたクナイが、首の皮と肉を切る。

「……くっ!」


( セイラ、何があっても生きなさい…生きてさえいれば、いつかイマリちゃんとも会えるから )


……みんなのお母さん



"ザシュッ"


…え?何…私の横腹に…

…クナイが……刺さって…

…痛い……痛いよ……


「……答えなさい…」

ツバキは、両手にクナイを持っていた。

左手のクナイが首に…

右手のクナイは脇腹を刺していた。


脇腹のクナイが抜かれ、血飛沫をあげる。

そして、再びクナイは脇腹へ。


"ザシュッ"


「…あぐっ」

痛いよ……熱いよ…助けて…


"ポトッ"


腰に付けていた黒い御守りが床に落ち

中の御札が、見えていた。


"くろかみやまのさと イマリ"


「…黒髪山ね…大和か…丁度良かったわ」

ツバキは御札を見ながら笑い、続けた。

「大和にある里は、私が全て潰す計画なの…最初は黒髪山にしましょうか!」


脇腹のクナイが抜かれた。

痛みがなくなってきた。

血かな?右足が生ぬるいな……


"トントントン"

「枢機卿エリカ様、もうお時間です」


ノックの音と共に

二人の忍は動いていた。


ツバキは、私の首に当てたクナイを

一気に振り抜いた。


私は、首に当てられたクナイを

交わしながら御守りを拾い

窓に突っ込んだ。


"ガシャーン"


大きな物音とか、もうどうでも良かった。


私は生きたかった。

何が何でも生きたかった。

無我夢中で逃げた。

身体がだんだん軽くなってきた。



私は山の中で倒れた。

首から頬にかけて、肉が切れている。

避けたつもりだったのにな…。


血まみれの手で握っていた御札を

私は見つめた。

"おねぇちゃん がんばって"

裏には

"くろかみやまのさと イマリ"



黒髪山が、危ない


と思いながら私は気を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る