第9話 笑顔を守れなかった。

―― 11月29日 金曜 A.M.7:30



クナイ、手裏剣、資料とお金。

それから御守りっと……よし!


忍装束は、新調してくれるって話だったから、クナイの色に合わせて漆黒にしたの。


ふふっ黒ずくめの忍、セイラ参上ってね。


ふぅ~……さてと、行こうかな………。


修行場の広場には

中忍の先生、みんなのお母さん

そしてイマリが、私を待っている。


私は漆黒のブーツを履き、歩き出す。


先生に今までの感謝を伝え、一礼そして握手。

みんなのお母さん、抱き付いた。

本当に、本当のお母さんでした。


「…イマリ」

ショートカットを撫でた。

「…おねぇちゃん、がんばって」

イマリは、泣き出しそうな顔。

そんな顔しないで…。

「私が居ない間、良い子にしててね」

私は、力いっぱい抱き締めた。

「…イマリ…大好き…」

「おねぇちゃん……いっちゃヤダよぉぉ」

イマリは、泣き出した。

「ヤダよぉ…ヤァダァ…おねぇちゃん!」

「ヤァダァうえぇぇぇん」


私は、立ち上がり背を向けた…。

決意が鈍りそうになった…。

もう、振り返らない。

もう、イマリを……。

私の可愛いイマリを見ない…。


「おねぇちゃん!…うえぇぇぇぇぇん」

「うわぁぁんあぁぁぁんヤダよぉ」

「行かないでよぉ!おねぇちゃあん」


小さな歩幅が

小走りに追いかけてくる

……転んじゃった


私の足が

振り返りそうになった


私は涙で、前が見えないけど

歩みを止めなかった


私は二度と

イマリを振り返らなかった



―― 11月29日 金曜 A.M.8:00

佐賀セイラ

技巧道ぎこうどう下忍試験出発。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る