9:塾長降臨!

 講堂にはすでに大勢の生徒たちが整列し、物々しい雰囲気。

 いったい、どこに並べばいいのか、サッパリ。

 適当に列の後尾に並び、暫し待つ。


「静聴ォーーーッ!!!」


 壇上下手しもてで教師とおぼしき者が声を上げる。


「只今よりッ、入塾式を始めぇーrrrる! 塾長じゅくちょー式辞しきじ!!」


 漆黒のゴスロリ衣装をまとった女性、いや、女子が上手より現れる。

 演台に立った女の子の周囲は、おびただしい魔力により空間がゆがみ、異様な光景をかもし出す。

 静まり返った講堂に、甘ったるくも透き通った声が響き渡る、マイクのハウリングをともなって。


 ――キィーン……

「わっ、たくしが、我立がりつ羅漢英雄塾らかんひでおじゅく塾長、有帝宮あるてみや輝夜かぐやです、わっ!」

 キュイーン――


 コツ、コツ、コツ……

 他には一言も発せず、静かに下手へける。

 なっ――

 ――なんなんだ、コイツは!!?


 間もなく、子供、いや、生徒の声でアナウンスが入る。


「――以上をもちまして、我立羅漢英雄塾、第貳阡にせん回入塾式を、閉式致します」


 えっ!?

 お、終わり?

 入学式、いや、入塾式って、コレで終わりなんか?

 えーっ!?

 なんかこう、もっと有り難いお言葉とか、よく分からん名士からの祝辞とか、セレモニー的なもん、あるんじゃないの?

 こんなにアッサリ終わるもんなのか!


 むぅ~、異世界、恐るべし!


 まぁ、無駄に長いよりはマシだ。

 取り敢えず、教室にでも向かうとするか。

 講堂を後にする人群れに付き従い、外に出ると――


 タララッタッタッタ~ン!


 あっ!

 この通知音。

 まさか、またレベル上がったんか?

 なんもしてねーのに?

 魔王辞典ペドペディアを開くと、


<きりゅういんひよりはれべるが1あがった>


 ……いやいや。

 だから、俺、なんもしてねーって。

 どこでなんの経験を積んだんだよ、俺は!


レベル:2

クラス:魔王(Lv2:魔王ベビー)

体力:3 戦闘力:3 統率力:3

知力:687 政治力:3 魔力:13,200,000

魅力:546,006 幸運:10 精力:∞

ボーナスポイント:+4


 なんだこりゃ?

 次のレベルアップへの経験値が分からんので、それ以前に現在の経験値がどれくらいなのかサッパリ分からんので匙加減のしようがない。

 取り敢えず、ボーナスポイントは幸運にブチ込む。

 んで、ユニークスキルは?


<ユニークスキル:ペイシェンス獲得>


 ……で、内容は?


〔見下し話す権力者の言は得てして長いもの。不毛なる悠久ゆうきゅうの言の葉の調べ、よくぞ耐え抜いた!その忍耐力は勇者に相応ふさわしい。心よりの称賛を贈ろう!

【ペイシェンス(辛抱強さ):忍耐力チェック不要】〕


 いやいやいや!

 短かったやろがい!

 ほぼ一言、自己紹介以下の発言だったやろがい!

 塾長アイツ、名前しかーとらんぞ?

 設定、おかしない?

 デバッグしとるんか?

 いや、コレって別にゲームじゃねーか。

 単に、俺の能力を数値化して見ているだけだったな。


 それにしても、いちいち魔王辞典開くのも面倒だな。

 よし、この“プッシュ通知”をオンに設定しておくか。

 こうしときゃ、辞典をわざわざ開かなくても、直接魔力で伝達してくれる。

 すっげー便利じゃん、コレ。

 スマホの機能を三次元的にホログラフで見せてアクションできる感じ。しかも、タップ必要ねーし。

 異世界の文明、すっげーな、おい!


 さて、と。

 再びあの教室に行くわけだが……

 なんで、コイツは扉の前で、通せんぼ、しとんの?

 誰よ、コイツ?

 ニチャ~、ってキモい薄ら笑い浮かべてんだけど、ローリーアイツの知り合いか?


 しょうがねーな~……

 ちと、記憶にアクセス――


 ――ああ、なるほど。


 エネミー、か――

 ……相分かったアイ・シー

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