第22話 負けず嫌い

「はい、どーも、龍之介です」

『龍之介! おめでとーう!』

「はいはい、しづかさんありがとうございますぅ、うー……ぅー? 何かあったっけ?」

『何かって、アリスちゃんのことですけど!』

「アリス? が何か?」

『え、いや絵画大賞。日本絵画大賞よ。発表あったでしょ』

「あったけど……あれ、しづかさんってそういうことする人だったっけ?」

『あ? そういうことって?』

「なんか、負けた人煽るみたいな」

『はぁ? 何言ってんの?』

「いやだから、おめでとうって言ったじゃん」

『そりゃそうでしょうよ。都知事賞でしょ? おめでとうじゃない。なに? ひょっとしてアンタん家って文部科学大臣賞じゃないと褒めないとかしてるわけ? それとも受賞なにも褒めないの? それ、ちょっとどうかと思うんだけど』

「え? いや、ちょっと待って。なんて?」

『え? アンタん家どうかと思うって』

「いやそれじゃなくて……アリス、都知事賞なの?」

『何、知らなかったの? 通知、封書で行ってるでしょ』

「いや、そうだけど……落選は無いにしても佳作とかその辺だと思ってた」

『あの絵で? それはちょっと、娘だからって厳しく見過ぎじゃないの?』

「いや、そうじゃなくて」

『何?』

「いや、アリス……なんか、めちゃくちゃ落ち込んでたんだよね」

『………………は?』

「落ち込んでたっていうか荒れてた。こころと喧嘩までしてさ。やめるやめないみたいな話してたんだよね」

『……………………………………』

「ちょっと待って、ほんとに都知事賞なの?」

『……私今サイトで確認してるから、間違いないと思うけど。都知事賞、自由表現、水彩画、うん間違いない。なんだろ、印刷ミスとかかな。今通知書無いの?』

「多分アリスの部屋だ。ちょっと見てくる」




「……ほんとだ」

『印刷ミスってない?』

「ミスってないね」

『………………うわー』

「……見間違えたかな?」

『何に?』

「佳作とか」

『あると思ってる?』

「ないと思ってる」

『………………………………』

「………………………………」

『……あっはははははっはははははははっはははっははははっはっ!』

「笑いすぎじゃない?」

『あっはっ! っ! っ! っ! っ!』

「声出てないけど」

『うっそでしょ、っ! っ! っ! 都知事賞っ! っ! っ! げほっ! げほぅっ!』

「えずくまで笑わんでも」

『ふっへっへっへへへへっ』

「笑い方怖いわ」

『あはっ、かっ、かっ、あはっ、あー、はっはっは』

「落ち着きましたか」

『あー、はぁ……負けず嫌いって言っていいのそれ?』

「んー、と」

『大人しそうなのにね』

「ここまでとは思ってなかった」

『ちなみに言っておきますけど、』

「はい」

『ここんとこのアリスちゃんの受賞頻度、どこぞの誰かさんには判んないかもしんないけど十分バケモンだからね?』

「あぁ、まぁ」

『ちゃんとさ、褒めるとこ褒めなよ? 相対評価じゃなくて絶対評価で!』

「まぁ、ここんとこメンタル不安っぽかったし、その辺かも」

『え……大丈夫なの?』

「多分。それこそ通知来た辺り色々あったけど、ちゃんと話して、今日も下で描いてるはずだし」

『本当でしょうねー? 何かあったらいつでも押し掛けるからねー』

「それこっちの意思聞かない奴じゃん」

『そりゃそうよ。アリスちゃんの心配だけよ私がしてんのは』

「そりゃまた……」

『それでも』

「?」

『それでも、アリスちゃんはあんたたちの子供なんだからね。しっかりしなさい』

「…………はい」

『あ、それでさ、今度――




「こころちゃーん」

「龍ちゃん」

「お話があります」

「……何?」

「これなんだけどさ」

「なにこれ」

「アリスの、日本絵画大賞の通知書」

「……それがどうかしたの?」

「アリス、都知事賞なんだって」

「………………………………はい?」

「都知事賞」

「え?」

「上から三番目」

「ちょっと見せて」

「はい」

「………………………………ほんとだ」

「ね」

「あの子、都知事賞貰ってあんな怒ってたの?」

「みたいなんだよねぇ」

「……………………」

「……………………」

「負けず嫌い、なの?」

「極度の、かも」

「いや、んー、うそで……いやー、ほんとにー?」

「らしいんすよぉ」

「んーーーーーー」

「こころちゃんの子供なんだって、思うよ」

「……そう、ねぇ」

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