現代でダンジョンマスター始めることになった
月乃宮
第0話 変わる世界を警告せし猫
結局、これしか手がないのだろう。
ダンジョン化により世界は変わってしまった。
日本だけは、自身の頑張りもあり、世界に比べると安定してはいる。
しかし、世界の混乱の影響は避けられない状態になっている。
遠からず石油が入らず流通が滞るだろうし、そこからはドミノ倒しのように、高い流通に支えられている製品、具体的には食料品や日用品が不足するようになるだろう。正直、どこまで影響がでるかわからないほどだ。
いくつかの検証により、管理するダンジョン内に食料となる穀物や倒すことで肉をドロップする動物を配置することが出来るようになった。
怪我や病気の対策としていわゆるポーション的なアイテムも用意できた。
さすがに石油は無理だが、一定の条件下で発熱し続ける石も用意できた。
電力というのは究極的には水を沸かせられれば用意できるのだし、代用品にはなるだろう。
これで、食とエネルギーは用意した。
あとは、これを回収に来てもらうしかないのだ。
どのように告知して回収してもらうべきか、いろいろと考えはした。
そのなかで、最終的にこの手に落ち着いた…というかほかに手がないのだ。
世界がダンジョン化してダンマスがあふれている?
そんなのどこに発表してもばかばかしいといわれて終わりだ。
警察だって取り合ってくれないだろうし、国や市町村レベルも無理だ。
ネットだって「妄想乙」「なろうでやれ」と言われてしまう始末だろう。
ならば、「証拠とともにリアルタイムで行う」しかない。
最初に生み出して以来、ずっと相棒としている猫に能力を付与する。
自身の声を猫からしゃべらせれるようになるという、初めて見たときは正直必要性を感じない能力を、まさかこんなことで利用することになるとは思わなかった。
自身の偽装能力で声質も変える。聞いた人が自身と別人と感じるのは録音で調査済みだ。PCも偽装したうえで秋葉で買ってきたバルク品、何には念を押して
あとは、フリーWIFIを提供している有名な食事処をダンジョン化、地下にフロアを追加し、そのWIFIを借用する。
このWIFIからというのはすぐに特定されるだろう。しかし、自分はその店舗にはいないのだ。なんなら別の店を確保して都度変えてもいい。
考え付く限りの身バレ防止策はとった。
生放送が行えるサービスには登録済み、当然登録するためのメールも捨てメルアドを取得ずみ。
タイトルは「しゃべる猫が重大発表」、こんなところでいいだろう。
猫が映るようにカメラを調整、生放送を開始する。
「初めましてにゃぁ」
くっそ恥ずかしいな。もう。いい年のおっさんがやることではないんだよ。
日本が平和な証拠に、すでに50人ほどは見ているらしい。
猫を移動させ、横のテレビ前に移動させる。
「今から重大情報を発表したいと思うにゃ。でも、たぶん誰も信じてくれないから、まずは能力を見せたいと思うにゃ。」
「これは、東京のライブカメラにゃ。新宿 ライブカメラで検索すればすぐにヒットするにゃ。何なら同時に見てくれてもいいのにゃ」
「えいにゃ」
猫を転移させる。
すでに映っているところは一区画だけだけどダンジョン化済みで、そこには転移できるんだ。
画面から猫が消え、ライブカメラが映っているテレビカメラ越しに現れる。
「!?」「?」「どういうことだってばよ」「録画編集を流してるんだよな、頼むそう言ってくれ」「俺は猫動画を見て癒されようと思っていたら何故か猫が話しているうえでテレビ越しに移動していた。…きっとこれは夢だ。寝よう」
動作確認もかねて閲覧しているもう一台のPC上ではコメントが乱立し、「謎の技術」タグが追加される。
転移先にはさほど人は多くない。
そこにガーゴイルを召喚する。
明らかに飛べそうにない石の像が飛んでるんだ、慌てふためいて通行人たちが撮影を始める。
ガーゴイルに指示して猫を襲わせる。
まあ、これが当たっても正直ダメージが通る気はしないんだが、ひらりとよける。
全く無関係の人が出てきても困るし、猫に攻撃させ、いかにも猫が退治したかのようにガーゴイルを転移させる。
これは倒されることによるDPを惜しんだわけではない。味方のモンスターは倒せない仕様のようなんで、しょうがない。猫を映そうと多くの人が近づいてきたので、猫も転移させる。
やっぱ平和ボケしてるよなぁ…あんなの倒せる猫がただの猫のはずないだろうに、無警戒に近づいてくるとかどうかしている。
「ご覧いただけたかにゃ?」
何もなかったところに現れる猫。
「少しは信じていただけたかにゃ?たくさん写真もとられてたし、Towwiterでも調べてみれば、それなりに話題になってくると思うにゃ」
先ほどまで猫がいたあたりで右往左往する人を映すテレビを一目見やる。
「やっぱりこの国の
少し移動してテレビが映らないようにする
「さて、重大発表をさっさとするにゃ。…この世界にはダンジョンマスターが生まれているにゃ。それらのダンマスによる現実の土地で陣取り合戦とでもいうべきものが始まってるにゃ」
「は?」「猫に平和ボケと言われてて草」「何言ってんだコイツ、ってか猫?」「どうやってしゃべらせてるんだ」「マイクらしきものがないってことは確定だけど…」「ってか、どこから現れたのか…」
「…視聴者の
そういうとコメントが流れる。
「ちょっとネット作法古すぎませんかね」「なにそれ?」「な、なんだってー(棒)」「な、なんだってー(AA略)」
「まぁいいにゃ。信じなくてもいずれ信じるしかなくなるにゃ。ダンマスは一定距離内、具体的には日本国内では同じ種類では同時に発生しないようにゃ。具体期には北海道で現れたクマや千葉のハチはダンマスにゃ。そいつらを退治しない限り、例えば国内で別の熊ダンマスが出ることはないにゃ」
「ま、そいつらは退治したにゃ。とはいえ、毎日一定の数のダンマスが発生しているにゃ。正直、某一匹では日本全国に現れるダンマスをすべて退治するのは無理なんにゃ。人の力が必要にゃ」
「実際、船が沈没したりといったニュースもあったにゃ?あれは海に出現したダンマスにゃ。正直国内だけでも手いっぱいにゃのに、そこまでは面倒が見切れないのにゃ」
「ああ、言い忘れたけど某もダンマスにゃ」
「は?」「いやちょっと何言ってるかわかりません」「な、なんだってー(AA略)」「マジならヤバいけど、何言ってるのこの猫状態」「とりあえず全力で運輸に空売りすればいいのか?」
「その辺の難しいことはわからないにゃ」
「遠からず、色んなものが足りなくなると思うにゃ」
「でも、とりあえず、ここに行ってみたらいいと思うにゃ」
GPSの座標を表示させる。
「ただ、あらかじめ言うにゃ。ここは初心者用ダンジョンとして整えはしたけど、命の保証はないにゃ」
「ほかのダンジョンは某が作ったものもあるにゃ、でも、そうじゃないのもあるにゃ。そうじゃないのはなるべく退治してるけど、すべてが退治できる保証はないにゃ。実際、退治が漏れてるのもいくつかあるにゃ」
「こんなことは言いたくないにゃ、でもいずれ遠からずダンマスとその眷属であふれる日が来るにゃ。それは明日ではないことは確かなのにゃ。でも、1か月後なのか、1年後なのかはわからないにゃ」
「あらかじめ準備をしておくことを進めるにゃ」
ぶつりと放送を切る。
とりあえず最低限の目的は果たした。
これで何が改善されるかはわからない。
誰かしらが興味をもってきてくれれば、それでいいのだ。
ダンジョンが認知され、対策が取られ始めるだろう。
その、始まりの一歩は刻んだ。
ここまでは短いようで長かった。
俺は、ある日、いきなりダンマスになってからの苦悩の日簿を思い出しながらも、新たなダンマスを退治するために歩き始めていた。
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