外伝Ⅱ 妖花~その49~
三冊の歴史書を読み終えたサラサは、しばらく興奮を抑えられなかった。彼が書き綴った大逆の奸臣ザーレンツと英雄レオンナルド帝の叙述は、サラサの知るそれと随分とかけ離れていた。
ロートン二世は確かにワグナス・ザーレンツに刺殺されたらしい。しかし、そこには多少、ワグナスに同情する余地はあり、しかもワグナスは帝位についてはいなかった。さらにロートン二世の四人の皇子達の首を切ったのはレオンナルド自身であった。これらの点は、ワグナスとレオンナルドの評価を変えるかもしれない記述であった。
サラサは確かに興奮した。しかし、同時に彼女の冷静な視点が働いた。
『このオルトス・アーゲイトの記述は本当であろうか?』
あるいは本来の史書の方が正しく、親友をかばうオルトスが偽りの記述をしたのかもしれない。その可能性は今のところ捨て切れなかった。
「やはり新しい国史が必要だ」
本を閉じ、枕もとのランプを消してベッドに潜り込んだサラサは、闇に向かって呟いた。従来の国史、オルトスが残した記述。そしてラピュラスから運ばれてくるだろう無数の書物。それらを総合して新しい史書を編纂すべきであろう。それはサラサ個人的な趣味ではなく、やはり国家としての義務であろう。
「いや、それだけでは足りない。民間に残る口碑、伝承の類も拾い集めるべきだ」
案外、真実というものはそういうところに落ちているのかもしれない。余裕があれば、オルトス・アーゲイトの子孫を探し出すのもいいかもしれない。
「明日の朝議にかけてみるか……」
そう決意すると、睡魔が襲ってきた。サラサは満足しながらゆっくりと眠りについた。
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