外伝Ⅱ 妖花~その37~
独立勢力の主となったレオンナルドの行動は早かった。
まずは屋敷の中に隠れていた代官を見つけ出し、公衆の面前で縛り上げた後、文字通り裸一貫にして放逐した。これで日頃から代官に対しておもしろくない感情をもっていたレオンナルドは溜飲を下げた。
個人的な恨みを晴らしたレオンナルドはすぐさま次の手を打った。代官屋敷には豊富な食料があったが、第一皇帝直轄地の民衆をどれだけ食わしていけるか分からなかった。
『他の領地の食料を分捕ってやれ』
レオンナルドが目をつけたのは隣接するイマン領であった。この領地は人口の割には食料の生産高が高く、余剰生産された食料を売りさばいて巨利を得ていた。そのため相応の食糧の備蓄があるとレオンナルドは睨んでのである。
それだけではなく、イマン領には帝都へと続く街道が通っている。ここを押さえれば、商人達と接触して食料を融通させることもできるし、なによりも帝都へと打って出ることもできる。
そのことをレオンナルドはネブラに相談した。レオンナルドのお目付け役であるはずのネブラは、レオンナルドが占拠した代官館に顔を見せると、至極嬉しそうな顔をして応じた。
「かようなこともあろうかと、すでに手を打っております」
「ほう。爺は俺のお目付け役だと思っていたがな」
「王子……。いえ、レオンナルド様は覇者に相応しきお方。私は陰ながら今日のような事態になることを待ち望んでおり、準備をしておりました」
レオンナルドは用意周到なネブラに多少薄気味の悪さを感じながらも、今後謀はネブラに相談しようと思った。
「ふん。ならば存分に役立ってもらおう。で、俺はどうすればいい?」
「難しいことではありません。ここにいる熱狂的な民衆を率いてイマン領へ押し出すのです。それだけで十分です」
ネブラは薄く笑った。
帝暦七二一年玉繭の月一日。第一皇帝直轄地を占拠したレオンナルドは、武装した民衆を率いて隣領であるイマン領に侵入した。イマン領の領主は仰天した。自分の領地でも食糧不足で悩まされ、さらに隣領で起こった反乱についていかにすべきか帝都に指示を仰いでいる最中であった。どうすべきかと迷っているうちに彼の膝元である領都で民衆が蜂起したのである。
『領主を追い出し、レオンナルド様をお迎えするんだ!』
『レオンナルド様は皇統に連なるお方。領主などよりも私達を食わしてくれるぞ!』
領主の館を包囲した民衆達は口々に叫んだ。ネブラは歳月をかけて、イマン領の民衆達にいかにレオンナルドが優れた王子であるかを吹聴し、来るべき時の決起を説き続けてきたのだ。イマン領領主は身の危険を感じ、夜陰に紛れて館を脱出した。こうしてレオンナルドは一夜にしてイマン領を掌中にした。
翌日、レオンナルドはイマン領領都に入った。そこへ近隣の二人の領主がやってきてレオンナルドに歓迎の意を表した。彼らはかねてよりレオンナルドに好意的であり、且つネブラによる甘言によっていざと言う時には貴下に加わることを約していたのだった。
これにより実質四つの領地の主となったレオンナルドは、帝国における一個の独立勢力となった。いずれ皇帝軍が大挙して討伐に来るであろうとことは予測できたが、どうすべきは考えあぐねていた。
「どうすればいい?爺」
こういう時、ネブラの智謀ほど頼りになるものはなかった。
「レオンナルド様、ここまで来たのです。ぜひ天下をお求めなさい」
ネブラは事も無げに言った。しかし、それはレオンナルドも選択肢の一つとして考えていた。
「それは俺も考えないでもない。しかし、俺も皇族の一人として今上陛下に面と向かって剣を構えるのは……」
「事態がここに至って何を躊躇いなさる……」
「個人的にはあのクソ皇帝をぶっ殺すことに躊躇いはない。ただ、俺が気にしているのは後世に残る歴史だ。今上皇帝に反逆して地位を簒奪したとされるのは嫌だ」
「そのことでしたら、すでに手を打っております。要は何者かによって皇帝を討たせ、その者をレオンナルド様が討伐なさればよろしいのです」
「ほう。どのような手を打っているのだ?」
「お任せくださいませ。すべては順調に進んでおります」
ネブラは不敵に笑った。
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