戦火灯る④

 教会が僧兵をダルファシルに派遣した。その知らせに接したジギアスは、小躍りしたくなるのを抑えながら、表面上激怒してホルスを罵倒した。


 ダルファシルの処置を教会にゆだねる。バーンズとレスナンの提案を受けた時、密かにジギアスが期待したのは、騒動が拡大することであった。教会が処置に失敗する、もしくはダルファシルで起こっている反乱に迎合した時、大手を振ってこれを討つことができる。事態はまさにジギアスの思惑どおりになった。こういう時、ホルスという無能は期待を裏切らなかった。


 しかし、表面上は激怒してみせねばならなかった。いかにも僧兵の派兵という事態が不測の事態であり、慈悲深い皇帝の期待を教会が裏切ったということを天下に喧伝しなければならなかった。


 『俺にはどうやら謀略の才能もあるらしいな』


 などと自賛しながらも、本分は戦場であると思っている。すでに大将軍は出立し、日を置かずして自らも出陣する。ジギアスは私室に戻り、従卒達に手伝わせ鎧を着込み始めた。


 「まぁ、陛下。気のお早い」


 そこに現れたのはカヌレアであった。カヌレアにはまだ今回の詳しい経緯を話していない。しかし、どこかで情報を仕入れたのだろう。油断のならぬ女だが、そういうしたたかなところは嫌いではなかった。


 「おう!お前の言ったとおりになったな。実力で教王を退ける好機がきたぞ」


 教王を武力によって退ける。それを提案したのは他ならぬカヌレアであった。当初はその提案に臆するところがあったが、今は違っていた。カヌレアの提案が実現する未来図のみがジギアスの眼前にあった。


 「ほほほ。私も大それたことを申し上げたと思いましたが、まさか教王の側から機会を与えてくれるとは思いませんでしたね」


 「そうだ。所詮は坊主だな」


 「まことに。司祭ごときに政治などできるわけありません。ましてや戦争の天才たる陛下と武力で対立しようなど、愚かにもほどがあります」


 戦争の天才。いい響きであった。これほどジギアスを高揚させ、興奮させる言葉はなかった。


 「下がっておれ」


 ジギアスは従卒達に退出を命じた。彼らが出て行ってドアが閉まるといなや、カヌレアを抱きすくめた。


 「へ、陛下……」


 僅かに抗おうとするカヌレアの唇を自分の唇で塞ぎ、スカートをたくし上げた。カヌレアが何事か呻いたが構わなかった。ジギアスはそのまま猛る己のものをカヌレアの中にねじ込んでいった。




 カヌレアの肉体を堪能したジギアスは、床に倒れ息切れしながらも恍惚の表情を浮かべているカヌレアを見下ろしていると、さらに興奮を覚えてきた。


 もう一度カヌレアを起き上がらせてもよかったが、こうして半裸の女を見下ろしているのも一興であった。


 『何事も征服してこその皇帝であろう』


 満足したジギアスはどさりとソファーに腰を落とした。


 「陛下……。ご無体ですこと……」


 ようやく起き上がろうとしたカヌレアはスカートの裾を直した。その仕草が何とも妖艶であった。


 「すまぬな。しかし、こういうのも悪くなかろう」


 カヌレアは無言のまま顔を赤らめた。


 「おそらくはダルファシルでの戦だけでは済むまい。どうだ?お前もついて来るか?」


 ジギアスとしては単なる気まぐれでしかなかった。陣中でも閨房の女に困ることはないのだが、常に高揚感に満ちている戦場でこの女を抱いてみたいという欲求が芽生えてきた。


 「お戯れを。血が流れるような場所など、恐ろしくて恐ろしくて……」


 とても近づけませぬ、とカヌレアは少女のように怯えた。


 『そんな性質の女か……』


 おそらくは帝都から出たくないだけなのだろう。ジギアスが帝位をつくにあたり、後宮に兵卒を入れる手引きをした女がそんなしおらしいはずがなかった。


 「では行くとしよう」


 「ご武運を、陛下」


 カヌレアはもう怯えてはいなかった。

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