さらにその前世は……

「「さらに別の記憶?」」


二人は意味がわからないというように顔をしかめた。確かに意味が分からないだろうな、さらに別の記憶ってとミシェイルは頷いた。


「これは本当に言いにくい……伝えることが難しい話なんだけど、私はモニカだったときすでに別の人間の記憶があったの」


ミシェイルは思い出すように眉根を寄せて顎に指をとんとんと叩いた。


「その記憶は別の世界で、私は女性として仕事をしていたわ。どうして別世界かとわかったかっていうと、この世界にはないものがたくさんあるのよ」

「この世界にないものっていうと?」

「まず馬無しでも走る乗り物とか、空を飛ぶ乗り物とか。政治体制も建築技術も、なにもかもこの世界ではまだまだ到底追いつけない世界だったわ」


このように言ってもさすがに二人にはわかりにくいのかピンときていない様子だったが、どうも不思議な世界であるということは一応分かったようだ。


「お父さんとお母さんは、モニカが不思議な知識をもっているって話を聞いたことがない?」

「!あります、それで孤児院も充実させることができたと……そういえば姫様も畑の技術を」

「そうそう、それ。孤児院の改革も、畑で美味しい野菜をつくることもこの世界ではまだ発見されてない方法をとっているから素晴らしくみえるけど、実はすでにある知識をこちらの世界でもあてはめただけなの」


肩をすくめたミシェイルにシェーナもジュダスも首を振った。


「いくら知識があるからって、それを実行しやり遂げることは誰にでもできることではありませんわ」

「そうですよ姫様」

「うふふ、ありがとう」


恥ずかし気に笑い、「それでね」とミシェイルは続けた。


「レナリアお嬢様も恐らくわたしと同じ境遇じゃないかと思うのよね」

「確かに、あの幼さで姫様のような雰囲気を感じました」

「しかし、なんだか苦労してそうな雰囲気でしたな」


「そうね」とミシェイルは頷いた。


「わたしもモニカのころの記憶があるから、幼少期もそのあとも大変だったことはあるけど少なくとも素晴らしい家族と使用人にかこまれていたからなんとかなったもの。でもお嬢様は……ちょっとこの家での立ち位置がまだわからないわね」


ミシェイルはあえて物語でこの世界の話を読んだことがある、ということは伝えなかった。伝えるのも難しいし、すでに別世界だの前世だので混乱していると思ったからだ。


(あと、今回の主役がわたしかもしれない……だなんてさすがに言えないし。)


「ただ、以前のわたしのように困っているなら助けてあげたいと思っているの」

「そうなると、この家の中を調べる必要がありそうですわね」

「そうだな、まずは情報を集めないと」

「わたしはお嬢様の付き人になる予定だから、家の中で聞いておいてもらえる?ここに来た時すでに喧嘩売っちゃったからやりづらいとは思うけど」


こうしてミシェイルたちは、これからの方針を簡単に話し合ったのだった。そして、次に重要な話題を持ち出すことになった。


「それで、わたしはいったい何者なの?」

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