お迎えがきたけど態度が悪い

事前に迎えの馬車をよこすと手紙を受け取っていたミシェイルは、当日引っ越し準備を完了して家の前で待っていた。

すると、約束通り馬車がやってきたが、なんと護衛の騎士まで2名ほど同伴して家の前で止まった。

馬車の扉があいて、中から若い侍女と思しき少女が降りてきたかと思うと、腕を組んでミシェイルたちを睨みつけた。


「お嬢様の命令で迎えにきたわ。時間がもったいないからさっさと荷物を後ろの荷馬車に積んでくれる?」


こちらが招かれたというのに酷い態度であった。騎士も御者もまるで見下し拒絶するような様子で、今にも切れそうになっている両親二人に「やってしまいましょう」と声をかけ動きはじめた。

まだ3歳のミシェイルがとてとてと重たい荷物を運んでいるというのに、彼らは当然のように手伝うこともなく、むしろなぜ自分たちがこんな仕事をしなければならないのかと苛立たし気な表情を隠そうともしなかった。


(こちらの身分が低いからと、何も言えないとでも思っているのね)


まああとでお嬢様に言いつけてやろうと心のメモにチェックを入れて、少ない荷物を積みこむと、家の鍵はすでに引き渡しの家族に渡し済みなので特に問題はなく、すぐに終わってしまった。ここでも迎えの人々は誰も手伝うことがなく、侍女などは先に馬車へ乗り込んだままこちらを見もせず、ミシェイルは父が抱き上げて馬車へ入れてくれた。


「こちらは狭いの、お前たちはもう一台の馬車へ乗って」


侍女が両親へ向けたあまりにも無礼な言い方な上に、「あ?」と思わず声がでてしまったミシェイルを侍女がキッと睨みつけたと思うとぎょっとして後ずさった。

ミシェイルには前世、前々世と生きてきた分の覇気がある。大人として修羅場をくぐってきた威圧感が飛び出してしまうことがあるのだ。


「お父さんとお母さんは、あっちの馬車だって」

「このような躾のなってない者とお二人でなど、大丈夫なのですか?」

「大丈夫だよ、お父さん。わたしがちゃんとしとくから」


「な、な、なんですって⁉」と喚いている侍女を完全に無視して、こどもらしくにっこりと笑うとジュダスも理解したのか「それはいい」と頷いた。


「ねえ、あなたと、あなたと、あなた」


急に恐ろしげな様子でしゃべりだしたミシェイルとその両親に、どこか不気味なものを感じて見ていた騎士二人と御者を、ミシェイルは一人ひとり指さした。


「役立たずだって、お嬢様にはしっかり報告させてもらうから。これ以上使えない証明はしないでちょうだいね?」


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