だから僕たちは の橋を渡る
狐照
第1話だから僕たちは絶望の橋を渡る
幸成は勘弁願い下げとでもいいたげに、顔の中心にシワを寄せた。
原因はとてつもなく病な臭いがするメモを拾ってしまったことにある。
そのメモにはこう書かれていた。
『だから僕たちは絶望の橋を渡る』と。
絶望、という文字がかなり神経質な細文字で、丁寧に罫線の間を走っていた。
木枯らしが始まり寒さ増し増しな今日この頃。
頭が湧くにしても季節が合わない。
ということは、ということだ。
誰かの大事なメモかと思った親切心を返してほしくなる。
顔の中心に溝を作りながら、元の四つ折りにたたみ直す。
そうして廊下に落とし地面にぽとり、死ぬ前に救われる。
優しい両手で掬われた。
「落としたよ」
救いの主は隣のクラスの超絶イケメン、通称王子の
見るには何度か、話すのはこれが初めてだ。
けれど確かに王子の名に相応しい面構えをしている。
同性だのに目奪われ心惹かれるほどその容姿は整っていた。
たしかもう一つ、妙な隠れ名があったような。
そんなことを考えながら「俺んじゃねえよ」幸成は言い捨てた。
どんだけイケメンだろうと、
誰に対しても素っ気ないため、同級生から距離を置かれているのは別の話だ。
「君のじゃないの?」
まるで爽やかの固まりで形成されているような目玉で幸成を見てから、せっかくたたんだメモを広げあの文面に触れる。
えらく形の良い唇が動く、だから僕たちは絶望の橋を渡る、と。
「冗談だろ」
幸成の心中はそんな可笑しな文面綴られたメモは自分のではない、と言う強烈な拒絶で一杯だった。
しかし強く否定すると、相手が肯定と取る可能性が出てくる。
そこで拾ったと言っても言い訳に聞こえる。
前者も後者も自分だったらそう思う。
そもそも人が目の前で捨てたメモは拾わない。
なんでこいつ拾ったんだ…?
親切心の塊も度が過ぎれば偽善だぜ。
などなど色々思考の末、面倒臭くなった幸成はとりあえず関わるのはやめようと全投げを選択した。
なかったことにすればいい、無視してその場を後にしようとし「…でも今君が捨てたものだから…」その呟きの異図が気になり躊躇った。
倉敷は惜しげもなく澄んだ瞳を幸成に向け微笑んだ。
息を呑むほど整った造形物の笑みに幸成は戸惑った。
「食べちゃお」
冗談でひよこを丸呑みするマジックをする酔っ払いのような快活さで、倉敷はメモを口の中へ放り込む。
それこそ冗談、だよな。
ぺっしなさい。
何やってんだよ。
幸成は何をどうすればいいのか混乱した。
けれど倉敷はえづくでもなく、涙目になるでもなく。
微笑みの似合う唇の口角を上げたまま、嚥下。
「ごちそうさまでした」
そうしてまた、魅力的な笑顔を向けてくる。
幸成は思わず、もう、口にするしかなかった。
「お前、人間か…?」
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